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第1話 悪役令嬢と異世界転生

 毎日更新予定です。気軽に読んでいただければ幸いです。

「メアリ・アン・デズモンド!今日この日をもってお前との婚約を解消する!」


 王立セレスティア学園の卒業パーティー。

 貴族平民問わず将来この国の中心となるであろう若く優秀な者たちが集まったその場には煌びやかな衣装を纏った男女が集まっていた。

 この学園に入学するための敷居が高いだけあり、ここを卒業するということは一種の成功者の証明ともなりえる。そんな彼ら卒業生たちの晴れの舞台となるのその場でひと際目立つ豪華な真っ赤なドレスを着た令嬢に、この国の皇太子であるランスロットは指を突き付けていた。その後ろに儚げな様子をした可憐な少女を庇いながら。


「あらあら?殿下。突然何をおっしゃるのかしら?」

「黙れ!貴様の悪行の数々は彼女……マリーがすべて話してくれた!」

「殿下。その下賤をマリーとお呼びになるのはおやめください。不快ですわ。あなたもマリーなどと名乗らないように何度も言いましたわよね?ゴールドパークさん?」


 真っ赤なドレスを着た令嬢、メアリ・アン・デズモンドは皇太子に糾弾されているというのに些かも怯まない。それどころか背に隠れている少女をその真っ赤な目で睨め付けている。


「おい、貴様!殿下に対して不敬だぞ!」

「お前の悪行は我々も見てきたんだ!言い逃れが出来ると思っているのか!」

「マリーを罵倒したり!階段から突き落としたり!そんなことをしてきたお前が許されると思うのか!」


 皇太子の言葉に追従するように周りから声が上がる……がそれでも令嬢は怯まない。


「それが何か?」

「な、何か……だと?」

「この公爵令嬢たる私、メアリ・アン・デズモンドがそれをやったとして何か問題があるとでも言うのかしら?未来の王妃たるこの私の婚約者に手を出しておいて許されるとでも?おかしくて笑ってしまいますわね。おーっほっほっほ」


 赤い髪を逆立て、同じく赤い目をらんらんと輝かせながらメアリは高笑いをする。その言動はまさに悪役令嬢。だが、そんな悪役令嬢がこの場で許されるわけもなく……。


「反省の言葉を述べるなら許そうと思っていたが……そんな気を使う必要はなかったようだな!メアリ・アン・デズモンド!この件は父である国王陛下も了承している!第1王子ランスロット・オルレアン名において貴様を魔女と認定!火炙りの刑に処す!」

「オルレアン王国騎士団所属!ジークムント・フェンデス!騎士団を代表しデズモンド嬢の処刑には賛同する!」

「国教であるスフィア教。教皇猊下一同を代表し、クリス・スティッドマン!デズモンド嬢を異端の魔女として火炙りをすることを認める!」

「オルレアン王国魔術師団長、オーガスタス・レミントン。同じく処刑を求める」


 卒業パーティーに国の重鎮たちまでが次々と現れ、その場は一人の令嬢を糾弾する会場と化した。

 こうして悪役令嬢メアリ・アン・デズモンドは火炙りの刑に処され、王子様はヒロインと末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし……というゲーム画面を……。







「思い出したわ!」


 煌びやかな自室のベッドの上で一人。この世界で一番尊いこの私……メアリ・アン・デズモンド(御年6歳)は叫び声を上げた。


 そう!私は思い出した!私に『前世の記憶』があると言うことを!


 ……といっても前世の人間に人格が乗っ取られたとかそういうわけではない。

 だって私は生まれてからずっと私のままだし、前世の人は記憶の中の存在でしかないわけだからね。ちなみに前世の私の名前は確か赤月翼という名前だったらしい。享年19歳。それから……なんだっけ?えーと、えーっと……。


 そうだ!

 前世の私は世界一の料理人を目指す料理人見習いとして料理屋で働いていたのだった。若き女料理人だった……はず。なぜなら……料理が好きだったから!

 食べることも作ることも大好きだった。自分なりの試行錯誤を加えてレシピを作るのは楽しいし、料理を作っておいしいと言ってもらえるのはすごく嬉しかった。


 だから前世の私は中学を卒業と同時に調理師免許を取り、そこそこ有名な料理店に弟子入りした。もちろん料理技術を研鑽し、より多くの人に美味しいものを食べてもらうために。


 しかしそれが間違いだったとしばらくして前世の私は気づくことになる。


「ふざけんな!」


 弟子入りしたばかりの新入りは掃除や皿洗い、ゴミの処理などの雑用をするのは当たり前だと思う。そう思って先輩や料理長に言われるまま雑用をこなしていた。


 しかし、半年たっても1年たっても2年たってもメインデッシュには一切関わらせてくれることはない。

 下ごしらえや賄いを作るだけの毎日。それでも与えられた仕事はしっかりとこなす。誰もいなくなった板場で夜遅くまで雑用をこなしてこなして……クタクタになって、そのあとになってようやく料理のためにフライパンを振るうことが出来た。


 毎日毎日、仕事の後にフライパンを振るった。寝る間も惜しんで振るった。帰るのが深夜になることなど日常だった。


 新しく入って来た男の新入りが次の月には前世の私を追い抜き板場に入っていることがあっても、先輩に『女を板場に立たせられるか』などと陰口を叩かれていても、料理の研鑽は怠らなかった。

 料理長は厳しい人間で暴力は振るうこともあったが、先輩たちとは違って『女だから!』などということはなかったので仕事続けれられていたのだと思う。賄いなんかは作らせてもらってはいたし、勉強にはなっていたから。 


 そんな前世の私の唯一の楽しみはソーシャルゲームだった。その日の終電に何とか間に合い、私はスマートフォンからゲームを起動する。この通勤のわずかな時間のみが趣味に使える時間だった。ゲームの名は


『プリンセス・オブ・レボリューション』


 『恋愛革命』というタイトル通りのいわゆる乙女ゲーと呼ばれるアドベンチャーゲームだ。


 すでに攻略対象である4人の男子たちは攻略済であり、今はクリア後のDLCの追加攻略対象をもうすぐ落とせる状態になっている。


 しかし眠い……。

 電車に揺られながらゲームを進めているが何だけれど頭がフラフラする。でももう少し……もう少しだけ……ふむふむなるほどこう来るのね……。眠い目を擦りつつ、何とかクリアしてエンディングのスタッフスクロールを見ているところで目の前が真っ白な光に包まれた。







 なーんてことを思い出した……といっても何度も言うが前世の私が私を乗っ取ったりしたというわけではない。私は私のまま。ただ前世の女の子という別人の記憶が入ってきたというような感覚だ。


 しかし、その記憶の中にちょっと放っておけない情報がある。

 

 なぜか前世の記憶の中にも『メアリ・アン・デズモンド』についての記憶があるのだ。ただし『記憶がある』と言っても実在の人物の記憶ではない。仮想世界の登場人物としての記憶だ。


 『プリンセス・オブ・レボリューション』のその物語の中。


 恋愛シミュレーションゲーム、要するに前世の私がやっていた乙女ゲームの登場人物として『メアリ・アン・デズモンド』が登場していたのだ。


「なんで私が前世で出てきてるの?」


 そもそもここは前世の世界の続きなのかな?それともこの世界のことを知っている人間があのゲームを作ったならこの世界の続きが前世の世界のなのかな?疑問が尽かない。なぜならこの世界の言葉、ことわざやスラング、植物や動物の種類などなど多くが前世の世界の言葉と重複しているからだ。


 日本語や英語、その他の言語由来の言葉についても一部で使われていたりする。文字や言語は違うが、例えば『ローマは一日にして成らず』などと言ったことわざが普通に使われていたりするのだ。この世界にローマなんてないのに。


 まぁ、そんな余計な情報はどうでもいいけれど、問題は前世のゲーム内の『メアリ』はいわゆる『悪役令嬢』という役割を演じていたということだ。その悪役令嬢は主人公に数々の嫌がらせをした結果、最終的には破滅する。


「私が破滅する……?」


 公爵令嬢である『メアリ』は王太子である第一王子のランスロットと婚約していた。そんなメアリが15歳の時に現れるのが主人公の女の子マリーである。

 主人公は平民ではあるが光の強い魔力を持っているということで王立セレスティア学園に合格して入学してくる。

 可愛らしく、道端の花でさえ踏んでしまうのを躊躇してしまうような心優しい女の子だ。その子は数々の葛藤を心に抱える攻略対象たちを次々と救っていき、やがてはその誰かと結ばれる……というストーリーだ。


「はー……笑っちゃうわね。くだらない」


 そのゲームで私は……国家反逆罪となって火あぶりで処刑される。『なんで主人公に嫌がらせした程度で火あぶりなのよ!』と前世の私は疑問に思っていた……思っていたのだけれど……。


「別に疑問に思うことはないのよね……」


 今のまま私が成長して王都に行って、そして学園に入学することになると国家に反逆することが現実になるような気がする。

 代わりにもしも私が改心して主人公に優しくしたり、攻略対象たちとの関係改善に努めればもしかしたら運命は変わるかもしれない。そう思わなくはないのだけれど……。


 だけど……だけどね……それは不可能なのよ!

 逆に攻略対象たちの立場から見れば将来の禍根を絶つという意味では私を火あぶりにすることは行幸だったのかもしれない。



───なぜなら



 私の性格は前世のゲームのメアリの性格とまったく変わりないから!!!私は根っからの悪役令嬢!そう(イビル)サイドの人間だと自分で分かる!なんでも自分が一番じゃないと満足できないから!




「無理!絶対に無理!」




 自己中でわがままな私があんな頭の中がお花畑の連中に合わせて笑顔を振りまくなんて無理に決まっている!


 例えば主人公のマリー・ゴールドパーク。

 この子はすごく優しくて良い子らしいけど……はっきり言って前世の私ならともなく、今の私からしてみると大嫌いなタイプだ。

 『お花がかわいそう』とか草花を避けて歩くとか馬鹿なの?まったく意味が分からない。花よりも王国という封建主義の格差社会のせいでもっとかわそうな人たちが山盛りで死屍累々になっている現実を見ろと言ってやりたい。


 さらに隠しキャラを除いた4人の攻略対象たちは……はっきり言ってすごく『面倒くさい性格』をしている。


 攻略対象は4人。


 第一王王子     ランスロット・オルレアン

 騎士団長の子息   ジークムント・フェンデス

 スフィア教の聖騎士 クリス・スティッドマン

 魔法師団長     オーガスタス・レミントン


 彼らにはそれぞれ欠点があって、それを主人公がその優しさと素直な心で矯正していきながら心を通わせていく……というのがゲームのストーリーなのだけど……。

 

 私はそんな頭のおかしい攻略対象たちの介護をするつもりなんてまったくないのよ!!!!あんなの介護よ介護!性格に難ある人たちに付き添って真人間に変えるとか介護以外の何物でもないでしょ!


 ……ということでそんな彼らにはおそらく今後私が会うことは一切ないだろうから忘れてしまったって構わないだろうと思う。


 言いたいことを言いたい時に言い、腹が立ったら相手が誰でもぶん殴る!それが私、メアリ・アン・デズモンドなのだから。


「はっきり言って友情エンドとかありえないのよね」


 前世の記憶を思い出したので自我が発達したとはいえ、我儘と傍若無人が私の取柄。それを改めるつもりなんて私にはまったくない。なぜなら……。


「私には世界一の料理人になるっていう夢があるんだから!」




 世界一の料理人に……?




「あれ?そうだったかしら?」


 なんだか違ったような気もするけれどこれも前世を思い出した影響かしら?

 

 でも私には明確な夢があるのよね!料理がしたい!無性に料理がしたいし、そして誰にも負けたくない!

 はっきり言って貴族としての未来にも、王都に行って学生生活することにもまったく興味がわかない。

 

 そもそも私がこの世界で最も尊く、誰もから羨望を浴びて褒めたたえられたいという欲求は記憶を思い出す前とそう変わらないのだから気にすることはないわよね!


「そうよ!私はやりたいようにやらせてもらうわ!天上天下私が独尊よ!」


 そうなのよ!

 私に降りかかる火あぶりの刑と言う未来。それを避け、私が世界一!そう世界で一番すばらしい料理を作る人間になってみせるのよ!


 私は決意を新たにベッドの上に立ち上がって右手を天へと突きあげていると……ノックの音が扉から聞こえた。


「お嬢様……Kiss my as● でございます」


 放送禁止用語を発しながら、毒舌メイドが部屋へと入ってきた。


お読みいただきありがとうございます。

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