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夢、見せてやるよ

 城を出てから翌日の朝、テオドールと第二騎士団はカドマン伯爵の城壁内の屋敷にたどり着いた。


「皇太子殿下!」

 慌てた様子でジェイク・カドマン伯爵がやってくる。


「あぁ、カドマン伯爵!状況はどうだ?」

「はいっ・・・まだイシニスの兵は1人たりとも帝国には入れていません!」

「おぉ、頼もしいな。向こうの敵の数は?」

「おおよそ300にも満たないかと思います。」


「ふーん・・・本気の奇襲ではなさそうだな。」

「はい・・・。我が騎士団で防げる程度です。まるで・・・」

「様子見とでも言いたそうな数だな。負傷した者は居るか?」

「はい・・・何名か。」


「そうか。案内してくれ。」


 屋敷の広間に、負傷した兵士は横たわっていた。

 腕に傷を負った者、わき腹を切られた者、ざっと30人と言ったところか・・・。


 テオドールは、その者たちの一人に近づいた。


「大丈夫か?」

「ぁっ・・・・皇太子・・・殿下・・・。」

 痛みに顔を歪ませる兵士。テオドールを見て慌てて身体を起こそうとした。

「そのままでいい。よく耐えてくれた。」


 そう言って、テオドールは水を差し出した。

「さぁ、これを飲んでくれ。お前の傷を少しでも癒したい。」

「あぁ・・殿下から・・・光栄で御座います・・・。」


 弱々しく微笑んで、その水を口にした。


 その者の喉に水が飲みこまれる度に、顔色が戻っていく。


「・・・・・・あれ・・・・・・」

 水を飲みほした兵士は、ぽかんと口を開き、空のコップを見た。


「どうだ?少しは楽になったか?」


 優しく微笑むテオドールの顔を見て、兵士は傷ついた腕を見た。


「えっ・・・・・。」

 血で濡れていた腕の傷口はきれいに無くなっていた。


「え?」

 目を点にして兵士は固まった。


「ふっ、皇族からの水は、特別なんだ。お前はもう大丈夫だ。」


 そう言って、テオドールはその場を離れた。


 そして、次から次へと騎士団の者を通じて水を運ばせた。


 その水はテオドールが治癒魔術を施した水だった。

 水を飲み、次から次へと治っていく兵士たち。

 驚き固まるが、そのうちテオドールに注目が集まる。



 〝皇族がくれる水は・・・・・奇跡の水だ!!〟



 魔術とは程遠い印象だ。兵士達にはまるでテオドールが神のように光って見えた。

 尊敬と敬愛の眼差しがテオドールに集まる。



 第二騎士団の者も、その前に水を賜り、一日中馬で駆けた疲労はなくなっていた。

 そして、またここでも奇跡が起こっている。

 1人の騎士が呟く。


「殿下って・・・・・神様・・・・・・?」




 その綺麗な顔のテオドールは、まるで神殿のステンドグラスの星と月の神アレクシスの様だった。


「・・・・・・・え・・・・・・・・。」


 カドマンも開いた口が塞がらずその様子を見ていた。


 そして、最後の者に水を渡し、テオドールは皆に向かって口を開く。


「みんな回復が良くて何よりだ。さぁ、もう少しの辛抱だ。必ずやイシニスの兵士を

 ここから王国に追い返してしまおうではないか。皆私についてきてくれるな?」


 その微笑みまでも神がかっていた。




 国境の門の外で防衛を続けている兵士たち。

 テオドールはその場所を一望できる城壁に立った。


 テオドールの隣にはカドマン伯爵がいる。


「・・・・皆、よくやってくれているな・・・・。」

「ありがとう御座います。殿下。皆、帝国の為に全力を尽くしております。」


「あぁ、早く終わらせてしまおう・・・・。」




 そういうと、テオドールは人差し指と親指を立て、片手を銃のように構えた。


「・・・・・・・・・・・・・」


構えたもののテオドールは唇をヒクヒクさせながら、頬を染めた。




この構え恥ずいんだよ‥‥‥


だが!いや!ここはもう!!





爽やかに



派手やかに



最高に




キメ顔とセリフで!!



「‥お前らに夢見せてやるよ‥‥」



そう!アイドルの様に!!!


「カドマンアリーナ盛り上がってるかーーーー!!!」


城壁の縁に片足置いて、端から端までその人差し指を差してやった。





「うおっっ!」

「わぁぁ!」


テオドールの声と共に、敵の兵士たちがその身体を硬直させて止まる。


「えっ・・・・・」


 応戦していた兵士までそれを見て固まった。

そしてポカンと後ろを振り返る。その場にいる全員聞いたことのない言葉に〝?〟を浮かべる。


〝ありーな?〟


公演はまだ序盤。更にテオドールは続ける。


「まだまだいくぞぉぉ!!!!」


 敵の兵士たちが固まったのを見届けて、テオドールは城壁から飛び降りた。

「殿下!!!」

 カドマン伯爵が、飛び降りたテオドールを見下ろす。



 ここすっごい高いのに!!!!!!



 テオドールは、飛び降りたその身軽な身体を、城壁の中央にある帝国の長い旗をロープにスルスル落ちていき、石壁を蹴り勢いをつけて華麗に地面に降り立った。


「おぉぉ・・・・結構高かったなぁ。」


 やっといていつも驚くのは相変わらずだった。



「・・・・さてと。」

 刀を構えた頬は少し赤い。だが、気を取り直して時が止まった兵士たちを見てた。

 頬の赤みは冷えていき、この光景に皇太子として強い眼差しを向ける。



「ここがどこか分かってるか?お前たちは、俺の国には一歩も入れないぞ。


 国に帰って伝えてこい。こんな奇襲などせずとも堂々と宣戦布告をしろ。と。



 俺が、可愛がってやるってな。」


 そう言い切ると、兵士たちの固まっていた身体が動き出す。


 ヒュッ・・・・・。


 それと同時にテオドールは動き出す。中央から流れるように敵の兵士たちに刀を振り下ろす。

 慌てて構えようとしても遅い。向かい合っただけでテオドールの気合と速さに成す術はなかった。

 巧みな刀捌きで、彼らを地面に切り落としていく。

 それに続き、第二騎士団の精鋭達も参戦する。



「なんと・・・・・・。」

 カドマンとカドマンの兵士たちは唖然とした。


 最初のテオドールがした事は分からなかったが、兵士と向き合うテオドールの戦闘は噂で聞くよりも素晴らしいものだった。流れる様に斬り捨てていく。無駄な動きもない。


 それに参戦した第二騎士団達も見事だった。

 テオドールの下につくに相応しい戦力だった。




 しばらくして、敵の兵士全員がその場に倒れ込む。


「・・・・ふぅ・・・・・。」


 テオドールは額から汗を流し、息をついた。



「でっ・・・殿下!!!」

 カドマン伯爵が走ってくる。


「おう!とりあえずこれで全部だ!見回って潜んでいる者がいないか確認してくれ!」

 爽やかな笑みでテオドールはそう言った。

カドマン伯爵はまだ、状況を信じられていなかった。


「・・・・はい・・・・・」


 あんなに動き回ったのに・・・。笑う余裕すらある。


 皇太子テオドールの戦術は、本物だった。



「あー・・・そうだな。こいつら全部なんかに乗っけてイシニスの近くに放っておけ。」

「はい、殿下。」

「おしっ・・・・ちょっと、風呂入りてぇかな・・・。」

「あっ・・すぐお部屋をご用意いたしますので!!」


 こうしてイシニスの奇襲は、テオドールと第二騎士団の応戦により幕を閉じた。




「んぁ~・・・・・・」

 通されたゲストールームで、テオドールは湯に浸かっていた。

「さすがに・・・疲れたな・・・。」

 瞳を閉じて、大きく息をした。

魔術は思ったより疲れるものだった。元々魔術を使えない者には難しい。

それはロスウェルにも言われていた。だから決して力を使いすぎるなと。


でも、試した事で分かった事もある。

自分の限界値。そして今、疲労感が襲ってきている。



「早く・・・・帰んねぇとな・・・・・。」


 愛しい人が待っている。


 指輪に口付けをして、リリィベルを思った。


 今頃どうしているだろうか・・・泣いてはいないか・・・・


 寂しがっては居ないか・・・。ちゃんと食べているか・・・・


 そんな事ばかり・・・・。



 風呂から上がり、着替え終わるとソファーに座った。

「それにしても・・・成功したな・・・・。」


 出発時に渡されたのは、ハリーとロスウェルの血が入った小瓶だった。

 それを兵士に飲ませる水を持つときに手の甲に落とし、魔術を展開させた。

魔術印は手袋で隠しておいた。


 皆、神を見るような目で見ていた。


 そして城壁での拘束魔術。


「‥‥‥‥‥‥」


両手で顔を隠して呟いた。

「・・・・・・アレはねぇよな・・・・・・・・」

 



 くっそはずい・・・・あんまり見られたくない・・・。


 なんか別のものを・・・・・。


 だが、あの範囲だったらあれが最適だと思ったんだ。


 架空のレーザービーム出した気分だった。恥ずかしかった。


 いや、問題はそこじゃない。



 コンサートのアイドルの様に指差して声を上げた事だ。



「・・・・しょうがないんだ・・・・。仕方なかった・・・・・。」


 萎れかかる心をなんとか慰めた。



「もう‥ここは、開きなおろう‥‥‥


 恥ずかしいと思うから恥ずかしいんだ。



 この指には!アレがピッタリだろうが!



 ‥そうだよっ‥‥会場のやつら



 皆射抜いてやったしな!!!!



 アイドル特有の最高のサービスっ!




 うん‥‥‥‥いい!もうアレでいい!!!」



アレキサンドライト所属のセンター、皇太子テオドールは、

敵兵達に身体が固まるほど、その指先でハートを射抜いて(拘束)、マイク(刀)を持って踊り



その場の全員を、最高に盛り上げたのだ。


「紙吹雪がなくて、残念だったなぁ‥‥‥


 次は紙吹雪出しとくか‥‥‥」



腕を組んで、足を組んで、格好つけて真剣につぶやいた。

読んで下さりありがとうございました。

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