女達の想い
「お父様、皇太后陛下からの話、どう思います?」
ヘイドン侯爵家にて、ライリーが父に尋ねた。
「オリバンダーをか‥‥オリバンダーの策略が分からない以上無闇に近づくのは危険だが‥」
「けれど、オリバンダー侯爵が我々の側につけば、私達への疑いも減る事でしょう。罪はオリバンダー侯爵家へ向けてやればいいではありませんか‥」
ライリーは既に悪に染まった顔で言った。
なんとしても、この計画で、リリィベルを消したい。
その一心だった。
「‥‥議会でイシニスの事を言っていたから、きっとイシニスとも手を組んでいるんだろうし‥」
「イシニスと何があるのか探ってみては?」
「あぁ‥だが‥‥それにはジェイク・カドマン伯爵が国境を守っている‥‥。あの者はイシニスの件を知っているのか‥知らないのか‥」
「カドマン伯爵は、どんなお方なのですか?」
「カドマンは‥‥」
ジェイク・カドマン伯爵。
彼には妻と息子と娘がいる。絵に描いたような仲のいい家族だと聞いている。息子は20歳の皇室騎士団の騎士、第三騎士団所属。3つ歳下の婚約者がいる。子爵家の娘だ。そして、15歳の娘。年頃の娘だ。街でも名の上がる綺麗な娘だ。殿下の妃の座を狙っているかはわからない。
伯爵もあまり目立つ男ではないが、領地は豊かで不正を働くような人には見えない。
そんな彼の目を掻い潜り、イシニス王国とオリバンダー侯爵家が取引をしていたら‥彼は見逃すだろうか?
カドマン伯爵の人柄を考えると、我々が下手に動いては、凶か吉か‥‥。
「ライリー、カドマン伯爵について少し探らなければ‥」
「それでは時間がかかるではありませんか!」
「イシニスと繋がりあるオリバンダーの件は、既に議会でも出ている。カドマン伯爵がその件について、もし何も知らなければ、下手に動くとこちらまで疑われる‥。こんな時こそ慎重に動かねば‥」
ライリーは唇を噛んだ。もどかしい思いで胸が詰まる。
けれど‥‥
「お父様が動けないのであれば‥私が、その伯爵の娘をお茶会に招待しましょう。娘と仲を深めて、腹を探りましょう。」
ライリーはニヤリと笑った。
社交界ならば、侯爵令嬢である自分が牛耳るも同然だった。公爵家に同じ年頃の娘はいない。
だからこその企てだ。
絶対、リリィベルを引き摺り下ろして‥
殿下から引き離してやる‥‥ただ、その一心で‥
「リリィ?大丈夫?」
昨日の今日で、妃教育は無しとした。リリィベルの部屋にやってきたのは、皇后マーガレット。
事の経緯を知り、とても心配していた。
「はいお義母様‥。ご心配をおかけして申し訳ございません‥。」
ソファーに並んで座り、皇后はリリィベルの手を握りしめた。
「あなたは悪くない‥。私の主催したパーティーで、まさか難癖を付けられるなんて‥。」
「お義母様、私は‥反省はしていますが‥後悔はしていないのです‥。身勝手でありましょう‥‥。
テオ様と過ごしたパーティーがとても・・・。私には幸せな時間でした。」
「あなた達の為のパーティーだもの‥‥。本来なら仲が良くていいことなのに‥‥。淑女の心得を出されては、反論にも困るわね‥。とても、大胆だったから。うふふっ」
「お義母様ぁ‥‥」
マーガレットは呑気に嬉しいに笑っていた。その言葉にリリィベルは恥ずかしそうに俯く。
そんな姿を見ても、マーガレットは嬉しそうだった。
「私はあなた達が仲が良くて嬉しいのよ?愛の前に決まりなんてないもの。触れたくなるし、口付けだってしたくなる。それに、テオはオリヴァー様に似て素敵でしょ?みんな憧れるのよ。2人の様な恋を‥‥。みんながそう思ってるわ?物語の王子様とお姫様みたいにね?そんなに気にしないで。
次は建国祭で、美しくて凛々しい2人の姿を見てもらいましょう?それだけで十分よ!」
明るいマーガレットの言葉に、リリィベルは少し笑みを浮かべた。
「お義母様にそう言われると、大丈夫な気がしてきます‥」
「そうよ?私達だって‥あ、聞いてるかしら?」
「お義母様と、テオ様が城下で暮らしていた事ですか?」
「えぇ、計画とはいえ、オリヴァー様は別の女性と結婚したから、テオは婚外子と言われ、私は愛人だったのか、と随分言われた‥けど、オリヴァー様はそんな噂を吹き飛ばすくらい盛大な結婚式を挙げてくれた‥。それだけで、みんながオリヴァー様の意志と私達への愛を示してくれたわ‥
あれは、忘れられないわね‥。空に虹がかかって‥
夜は星が降り注いだ‥‥ロスウェル様達の力もあるけど‥
そばにオリヴァー様がいただけで、世界が輝いていたわ。
人がどう思ったかわからないけれど、私は幸せだった。
それに、祝福もされた。人の腹の底ばかり見ていても仕方ない。嫌がる人もいるし、
喜んでくれる人がいる。
私の幸せは、誰にも測れないでしょ?
あなたが、テオといる事をどれだけ大切に思って、愛しているのか、他の人には測れないの。
だからいいのよ!自分の幸せな気持ちをお裾分けしてあげたらいいじゃない?
あなたとテオが結ばれることで泣く人もいるかもしれない。でも、そんな事を気にしていては前に進めない。自分の人生よ?自分で決めた道へ進むの。もし思い通りにならなくても、後悔しないでしょ?」
「はい‥お義母様‥‥私はテオ様を愛しています。
他の誰にも負けないです。私は‥テオ様のそばに居たい‥
これだけは譲れないのです‥。私の選ぶ道には‥テオ様が居て欲しい‥‥。」
愛しげにはっきりと告げるリリィベルに、マーガレットはその肩を抱き寄せた。
「そう‥‥それでいいのよ。私はあなた達の味方よ。
テオが見つけてきたお嫁さんだもの。テオはずっと、あなたを待っていたのね。
女の子になんて目を向けた事すら無かったもの。大騒ぎにもなるわ。
それくらい、テオにとってあなたは特別なのよ。あなたもそう思っているでしょう?」
「はい。特別です‥‥なによりも‥‥」
指輪に触れれば、思いが溢れる。顔を思い浮かべるだけで、幸せになれる。触れるだけで胸が高鳴る‥
そばにいると、安心する‥。
そんな人に巡り会えた。
いいえ‥結ばれていた。神様の祝福‥‥。
「女は、男の胸で幸せを感じ、男は女を守るために強くなるのよ。
テオはこれからもっと、強くなるわ・・・。あなたの為に・・・・。」
「今でも充分お強いのに‥」
「心も身体もよ?最高じゃない?」
「ふふっ、はいお義母様。きっともっと好きになってしまいます」
クスクスとリリィベルは笑った。
その笑顔を見てマーガレットはほっとしたのだった。
ずっと、いつもの明るい笑顔が無かったけれど、
やっと笑ってくれた。
暗殺者まで向けられて、本当はどれほど不安だっただろう。
それでも、テオドールと一緒だからと、まるで、それで死んでも悔いはない様に、いつも言っていたのだ。
テオドールのそばにいたいと。
どんな時もテオドールがすべての様に‥。
妬みや僻みにも負けずに、自身の愛を全て捧げるリリィベルは、いつもテオドールだけが支えだった。
母として、こんなに嬉しい事はなかった。
自身の子が、絶え間ない愛で包まれている。
ひたむきに愛してくれる人がいる‥。
純粋な愛。
「お義母様?テオ様の小さい頃のお話、また聞きたいです。」
「えぇ、いいわよ?テオはね、とっても賢かったけど、
お金の計算をしだすと、何故か頭を少し縦に揺らすの!
どうして?って聞くと、
これが、ロックビートだと思うんです。って言ったの。
不思議で笑っちゃったわ。その姿もとても可愛くてね?
あとね?剣術を習い始めた時にね?
稽古場の端から端まで、裸足なって足を浮かせずに端まで進むのよ!
みんな出来るわけじゃないのよ?みんな不思議そうに見てたわ。しかも、剣先が少しもブレないの!
あれは天性の才能よ!今もすごいでしょ?
今は靴を履いて足を浮かせて走る様になったけれど、
本当に不思議だったの!可愛かったわー。
リリィにも見せてあげたかった!‥あっ今もできるのかしら‥
今度、稽古してる所、見に行きましょ?」
リリィベルはその話を黙って聞き入り、にこりと微笑んだ。
「是非見たいです!テオ様の戦う姿は本当に目を奪われるんです!
とても綺麗で‥素早くて‥‥本当に‥‥キラキラ‥‥
してて‥‥。」
リリィベルは、口にするうちに不思議な感覚に陥った。
まるでその小さなテオドールが頭に浮かぶ様だった。
テオドールの剣を振るその姿‥綺麗な立ち姿で
あのパーティの夜を見て、そう思っているのか‥
何故そんな気持ちになるのか・・・分からずに・・・・。
読んで下さりありがとう御座いました!




