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これは君が・・・  【後編】

 楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。

 ダニエルが、また領地へ帰る日がきた。応接間にて挨拶を交わす。


「今度は建国祭だ。忙しい思いをさせてしまうだろが、待っている。」

「はい陛下。」

握手を交わすオリヴァーとダニエルはすっかり仲良しだ。

「どうか、道中気を付けてね。ダニエル。」

「はい、皇后陛下。ありがとう御座います。」


2人に礼をして、ダニエルは笑った。

リリィベルは、ダニエルの袖の端を少し掴んだ。

その表情は、寂しげだった。


「お父様、手紙を書きますね・・・。」

「あぁ、待ってるよ?私も手紙を書こう・・・。元気でいるんだよ?」

「はい。お父様・・・。」


寂しい気持ちを隠せずに、リリィベルは瞳に涙を浮かべる。

そんなリリィベルの頭を撫でるテオドール。

「殿下、どうかリリィベルを宜しくお願いいたします。」

「もちろんだ。必ず私が守るから・・・安心してくれ。気を付けてな。」

「はい殿下。・・・・あ、少しリリィと二人だけで話をしても?」

「あぁ・・・構わないが・・・。別室を用意する。」



ダニエルとリリィベルはそのまま別室へ移った。

「どうしたのですか?お父様・・・。」


リリィベルの顔を見て、ダニエルは微笑んだ。

そして一つの小さな箱を取り出したのだった。


「あぁ。これをお前に渡したくて持ってきたのだ。」

「え・・・?」

「婚約指輪はオーダーメイドで殿下がご用意され、もうすぐ届くと聞いたが、

これは、アナベルと、決めていたんだ。お前が結婚する時に渡そうと・・・。」


ダニエルの手に、小さな指輪ケース。


「お父様・・・これは・・・?」


首を傾げたリリィベルに、ダニエルはそのケースを開いた。


「・・・・指輪・・・・・綺麗・・・・・。」


それは、蘭の花弁が彫られた小さな宝石がついた指輪だ。

リリィベルは見たことがなかった。


「お母様の・・ですか?」


その言葉にダニエルは首を振った。

「違うんだ。・・・・これは、君が・・・・この世に生まれた時、

その小さな手のひらに握りしめられていたんだよ。不思議だろう?」


「えっ・・・?まさかそんな・・・・。」

どうして胎児が指輪を?


「私達も不思議で・・・。医者も驚いていた。

しかもとても綺麗だろう?こんな巧妙な細工が施された指輪、私は初めて見たよ。」

懐かしむ様に微笑むダニエルだった。


「私たちは驚いて・・・女性がつける指輪だ。アナベルも見たことがないと言っていた。

当然だが、お腹にいる間にうっかり飲み込むはずもないしな。」


クスクスと笑ったダニエルだったが、本当に不思議な出来事だった。


「・・・なぜ・・・・」

リリィベルは、じっとその指輪を見つめ続けた。



そんなリリィベルを見つめて、ダニエルは言った。

「お前が嫁ぐ時に、その指輪を返そうと決めていた。

小さなお前に持たせるのは心配だから、大人になったお前に渡そうと思っていたんだ。

きっと、神様が・・・お前に奇跡を授けて下さったのだろう。お前を守ってくれるのかもしれない。」



「・・・・神様が・・・・私を・・・・・?」


「あぁ、きっと祝福だろう・・・・。それを見ると、何故だかそう思えるんだ。


お前が幸せになれると・・・。そう思える。


婚約指輪があるだろうが、これも大事にとっておいてほしいんだ。

私達の思いも込めた・・・。産まれた時から、お前が持っていた指輪だ。


やっと・・・持ち主へ渡せるよ。」


少し涙を浮かべてダニエルは笑った。

「お父様・・・大事に持っていて下さって、ありがとう御座います・・・。」


リリィベルは、その指輪を一撫でした。



綺麗な指輪だ・・・。花が彫られてその花の中心に赤い宝石がついている。なんて繊細な指輪なのだろう・・・。


これを私は、持って生まれたと言うの・・・・?


これは・・・奇跡・・・・?


神様は・・・なぜ、私にこんな奇跡を下さったのだろう・・・。



でも・・・見ていると・・・・なぜだか・・・とても・・・・・



「っリリィ・・・?大丈夫か?」

「え・・・・?」


リリィベルは、一筋涙を流していた。

知らずに流れる涙を、リリィベルは拭った。


「あ・・・・とても・・・嬉しくて・・・・大事にしてくれていて・・・・。嬉しくて・・・。」


リリィベルはそっと瞳を閉じて、指輪ケースに頬に寄せた。

「とても嬉しくて・・・幸せで・・・涙が出てしまいました・・・。」



何故だか思うの・・・。私の元へ・・・帰ってきてくれたのだと・・・・。




「リリィたち・・・長いな・・・。帰り時間大丈夫か?」

テオドールは少しソワソワしていた。

「テオ、ダニエルがリリィを連れて帰ってしまうかと不安なのか?」

「まっ・・・まさかそんなはずないでしょ!!!私は暗くなるから心配をっ・・・。」

「ふふっ可愛いわねテオ。」

父と母に揶揄われて、少し不機嫌になるテオドール。


だが、そんな心配もつかの間、2人は別室から戻ってきた。

「リリィ・・・どうしたんだ?」

テオドールが、リリィベルの頬に手を当ててその顔を見た。

「っ・・・はいっ・・・また、泣いてしまいました・・・・。」

微笑みながら涙を流している。

「リリィ・・・・父君と離れるのは寂しいだろう・・・。ごめんな・・・・。」

「いいえ・・・寂しいですけれど・・・この涙は・・・違うのです・・・。とても、幸せなのです・・・。」


「ん・・・?」

テオドールは少し不思議そうな顔をした。

そんなテオドールを見て、ダニエルは微笑んだ。


「殿下、リリィを宜しくお願いいたします。」

深々と頭を下げるダニエルだった。

「父君、そんなに頭を下げてくれるな・・・。頼むから・・・」

「ははっ・・どうしても、頼まずにはいられないのです。親心だと思って受け取ってください・・・。」


「絶対にリリィベルを守るから・・・安心してくれ・・・。」

「この通り、リリィは泣き虫で・・・どうか、宜しくお願いいたします。」

「あぁ・・・。もちろんだ。大切にするよ・・・。」



テオドールの胸に抱かれて、リリィベルは微笑んで涙を流していた。

それが、何故だか分からない、幸福な涙を・・・。



そうして、ダニエルは城を出て領地へ帰って行った。


「リリィ、大丈夫か?」

ダニエルを見送るリリィベルの頭を抱き寄せた。

「はい・・・お父様が、大切な物を私に下さったので・・・・」

「大切な物・・・・?」

「はい・・・いつか、テオ様にも、お見せしますね・・・。

今はまだ、この胸にしまって置きたいのです・・・。」


「そうか・・・ならば、大切にしなくては・・・・。待ってる・・・。」

「はい・・・。テオ様・・・・。」



それが、何か分からずとも、2人は繋がっている。



数日後の、城に宝石商人がやってきた。テオドールがオーダーメイドした婚約指輪がようやく届いたのだ。

急な婚約発表で、ずっと渡せなかったが、ついに手元に届いた。


テオドールは、夕食後の時間にその指輪の入ったケースを持ち、リリィベルを中庭へ連れ出した。


「テオ様、どうしたのですか?こんな時間に・・・。お散歩?」

「ははっ・・お散歩、ではないな。」


リリィベルの手を引き、連れてきたのは、2人が出会った中庭の噴水の前だ。


2人でそれを見上げる。


「お前と初めて言葉を交わしたのは場所はここだった・・・。」

「はい・・・。テオ様が、私を見つけて下さいました・・・。」

穏やかな瞳で、テオドールの横顔を見上げた。


「俺は、お前を追いかけてきたんだよ・・・。」

「え・・・・?」


リリィベルと向き合い、テオドールは笑った。


「あのホールで・・・お前を見つけて、俺は、お前の後を追いかけた・・・。」

「そう・・・だったのですか・・・?」


「あぁ・・・・一目で、お前を・・・・お前を見つけた・・・・。」

「テオ様・・・・。」


「リリィ・・・俺は、心からお前を愛している・・・・。」

リリィベルの前に膝を付き、手を取りその手に口付けをした。


そして、リリィベルを見上げる。


「遅くなってすまない・・・。肝心な事を、ちゃんとした言葉で・・・・。伝えたいんだ。」


そう言ってケースを開けて見せた。

「っ・・・・。」


「俺の妃となり・・・共に、この先の人生を一緒に生きてほしい。」


指輪は月明りに照らされてキラリと光った。

リリィベルは涙を浮かべた。


「はい・・・テオドール皇太子殿下・・・・。」


その言葉に笑みを浮かべるテオドール。ゆっくり立ち上がってリリィベルを見つめた。


「・・・・テオ様・・・・・。」

リリィベルがテオドールを見上げると、


「婚約指輪をつける前に渡したい物があるんだ。

それを踏まえてこの婚約指輪をオーダーした。」


婚約指輪は、とてもシンプルな物だった。細いプラチナリングで、その中央に小さな真珠が可愛らしく小さなダイヤに囲まれて付いている。とてもシンプルで、細やかで繊細な指輪だった。




テオドールは、スっと胸元を押さえた。




「お前に渡したい物だ‥‥‥。」

「え・・・・?」


テオドールが、自分の胸元から、それを取り出した。



「え・・・・・・・・・・」


リリィベルは目を見開き、それを見た。

テオドールは微笑んで口を開く。


「これは俺が8歳の時、神様が・・・俺にくれたんだ・・・。

胡散臭い神様だったけど・・・。信じるか?」


「・・・・っ・・・・そんな・・・・・・」

笑っているテオドールだったが、リリィベルは驚き声が出なかった。



「・・・・リリィ・・・?」

「・・・そんな事・・・・あるの・・・ですか・・・・?」


口許を押さえて、リリィベルは驚きを隠せない。


「あぁ・・・神様に貰ったって?普通信じらんねぇよな・・・。

でも、これは、お前に・・・・お前の為の物だと・・・俺は、確信してるんだ。」


そう言って、テオドールはリリィベルの左手の薬指に、自身が持っていた指輪をはめた。


「あれっ・・・ブカブカだ・・・。合わないな・・・・・。

つか・・・これ・・・。」

そう言って、半信半疑で自分の左手の薬指にはめた。


「あ・・・・男物・・・だったのか?おかしいな・・・・・。」

小さい頃も大きいと思っていた。しかも指輪についた宝石は黒い。でもこれは確かに、レイラ、リリィベルの物だと思っていた。



ぶつぶつと独り言を言っていると、リリィベルが俯いた。

「あっリリィ?ごめんっ・・・ちょっと手違いが・・・・。」

慌ててリリィベルの肩を掴んだ。

けれどリリィベルは、涙を流していた。その顔を見て更に慌てるテオドールだった。


「ごめんっ・・せっかく・・あぁごめんっ台無しだなっ・・・・

格好つかなくて・・・・情けねぇな・・・。婚約指輪だけにしとけば・・・」

慌ててリリィベルを抱きしめた。

けれど、リリィベルは涙を流し顔を上げた。


その顔は綺麗な笑顔だった。


「リリィ・・・・?」



不思議そうにするテオドールだったが、リリィが、自身の胸元からそれを取り出した。


「テオ様・・・はめて・・・下さいますか・・・・・?」


「!!!!!・・・・っ・・・え・・・・っ・・・・?」


リリィベルの手が持っていたのは、同じデザインの指輪だった。


今度はテオドールが驚き、リリィベルを見た。


「っ・・・これは、私が産まれた時・・・・握りしめていたそうです・・・。

先日、お父様が私に初めて話して下さって、この指輪を返して下さいました・・。」


「っ・・・そんなっ・・・・・」

テオドールは瞳を濡らした。



リリィベルは・・・涙を流し口を開いた。




「私は・・・あなたと出会う為に・・・・・


この世に産まれてきたのだと・・・っ・・・



こんな奇跡は・・・・もうっ・・神様しか・・・出来ませんっ・・・・・。



どうか・・・私の手に・・・はめてくださいますか・・・・?」



「・・・・っ・・・・あぁっ・・・・・・」


テオドールの瞳から一筋涙が零れた。



チェーンを外し、その指輪を、リリィベルの左手の薬指にはめた。

ピタリと・・・持ち主にはまるその指輪。


そっと2人は指を絡めた。




「リリィっ・・・なんでか・・・涙が出るんだ・・・・。」


「テオ様っ・・・・私もです・・・・。奇跡のおかげでしょうか・・っ・・・。」



2人は、そのまま夜空の下、抱きしめ合った。



指輪は、持ち主が持っていた。


神様が返した指輪を持った男と・・・。

指輪を、握りしめて産まれた女が・・・。


世界を変えても巡り合える様に。


なぜこんなに幸せで悲しいのかは分からない・・・。



世界が変わっても、つがいはまた、愛するために巡り合う・・・。その目印をしっかりと抱き締めて。


読んで下さりありがとうございました!

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