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戦いは始まっている

小鳥の声が爽やかに聞こえる朝。テオドールはそっと幸せな夢から目を覚ました。


抱きしめていた存在を、見下ろした。

この腕を枕にして、スヤスヤと眠るその存在に満面の笑みを浮かべてその愛しい匂いと息を吸い込んだ。


あぁ・・・・なんて幸せだ・・・・・。

ずっと、このままでいたい・・・・・。


コンコンと扉を叩く音がした。

「・・・・・・」

ちょっと嫌な予感がした。


そっと・・・腕を引き抜いて、そぉっと布団を出た。


なんでもないような振りをして。

「どうぞ・・・・・」


扉が開かれた。

「・・・・・・・・」


沈黙が流れた。

「・・・・テオ?これは?」


現れたオリヴァーが、テオドールのベッドを見て静かに口にした。

「あぁ、父親と離れて眠れないようなので、一緒に寝ました。何か?」


「あぁ・・・そうか。ははっ・・・そうだなぁ。」

「誓って、何もしておりません。」

「そうだなぁ・・・何かあったのならば、そんな顔は出来ないだろう。」

「部屋を変えましょう。ぐっすり眠っていますので。すぐ着替えます。」

「・・・あぁ・・・わかった・・・・。お前の執務室で待ってるよ?」

「はい。陛下。」


オリヴァーは笑みを浮かべたまま、部屋を出た。

秒で着替えて、テオドールも部屋を出る・・・・。


その前に、リリィの額に口づけを落とした。



皇太子の執務室にて。


グキッ・・・。

「いって・・・」

テオドールはオリヴァーの肘鉄を腹に食らった。


「何もしてないからって、偉そうに言うな。」

「私の部屋の方が安全でしょう。」

テオドールはサスサスと腹を撫でた。不満気に・・・。

「安全は外からだけではないのだ。ダニエルからリリィを預かっているんだぞ!控えろ!」

「嫌です。父上は出来るのですか?」

「・・・・やったさ。はっ、7年も待った。」

「側にいたら、無理では?」


「・・・・・・・」

そっと瞳を閉じた。黙るしかなくなったオリヴァーだった。


執務室のソファーに向き合って座った二人。その顔つきは真剣だった。


「それで、結界を弾いた数は?」

テオドールは眼を鋭くさせて、オリヴァーを見た。


「あぁ・・・・3人だ。そのうち1人がリリィベルの部屋。その後お前の部屋だ。」

「やはりベッドを別にするのは無理です。」


はぁ・・・とため息をついてオリヴァーは眉を押さえた。

「まぁ・・・・初日でこれなら、仕方あるまい・・・・。」

「捕えてはいないのですか?」

「あぁ。弾かれてどこに逃げたか分からん。誰の指示で来たかもな・・・。

やつらはただ、鍵がどうしても開かないと思って引き返したと思っているはずだ。」

「皇太后の使いか、ヘイドン侯爵家でほぼ決まりでは?」

「証拠がないんだ。」

「まぁ、証拠を残すなんて間抜けた者は暗殺者に不向きでしょう。」

「それに、婚約を発表し、謁見にきた貴族の数は多い。年頃の娘がいる家ほとんどだ。

お前、どんな色目を使っていたのだ?」


ニヤッと皮肉に笑ったオリヴァーのその言葉に、テオドールは目を細めた。

「そんなもの・・・。私はただ息をして生きているだけではありませんか。迷惑です。」

「はぁ・・・・出来るだけリリィに気づかれないようにしたいが。」

「ですが、ある程度は知っておかねば、本人にも用心する気が無ければ防げることもすり抜けます。

私が責任をもって守りますが、機会を見て伝えます。それに本人も分かってます・・・。」


「そうか、頼もしい婚約者だな。」

そう言ってオリヴァーは笑った。

「ですが、もう戦いは始まっています。絶対に証拠を掴まなければ・・・・。」

ぐっと握りしめる手に力が入る。

「お前が側にいない間、ピアとリコーが姿を消してリリィの護衛につく。」

「わかりました。・・・えっピアですか?」

「あぁそうだ。ピアはまだ若いが保護魔術に長けていてな。リコーも素早いし問題ない。」


「とりあえずは以上だ。また朝食でな。」

そう言ってテオドールの肩を叩いた。

「はい、陛下。」



自室に戻ったテオドールは、ベッドの端に腰掛けて、柔らかな金色の髪に触れた。

「リリィ・・・・俺のリリィ・・・そろそろその目を開けて俺を見ろ・・・。」

耳元でそっと囁いた。するとリリィは少しだけ身を捩った。

長い睫毛が震えて、その綺麗な瞳が開く。


「・・・・・テオ様・・・・・」

ゆっくりと名を呟いて、柔らかく笑みを浮かべた。

「おはようリリィ・・・。眠れたか?」

「はい・・・とても・・・・」

安心しきった笑顔を浮かべるリリィにテオドールはその前髪をかき上げて額にキスをする。


「起きて俺に抱きしめられてくれ?」

「ふふっ・・・・。」

テオドールに支えられ、リリィベルはその身を起こし、テオドールの腕の中にすっぽり収まった。

「あぁ・・・幸せだな。」

笑みを浮かべてぬくもりを確かめる。満たされる。

「テオ様・・・・。」


「支度をしよう・・・。母上がお前と過ごすのを楽しみにしている。」

「はいっ」


笑顔が溢れる初日の朝だった。

こんな穏やかな日が続けばいいのに・・・・。


ベルを鳴らすと、メイドがやってきた。

「ベリー。リリィの支度を。」

「はい殿下。」

「リリィ、ベリーはメイド長で俺の世話をしてくれていたメイドだ。信頼できる者だ。

安心してくれ。」


ベリーは柔らかい笑みを浮かべて2人に礼をした。

「おはようございます。皇太子殿下、リリィベルお嬢様。」

「よろしくお願いいたします。ベリー。」

「はい。お嬢様」


笑いあった二人、きっとすぐ打ち解けるだろう。


リリィベルはベリーと部屋に戻り支度を始めた。


皇族だけが使用するダイニングルームで、4人そろって朝食を始めた。

「リリィ、よく眠れたかしら?」

「はい、お義母様。」

「よかったわ。初めての場所で眠るのは、なかなか寝付けないもの。」

「テオ様がいらしたので、安心して眠ることが出来ました。」

「まぁっ・・・・ふふふっ仲がいいのね。」

母は嬉しそうに笑った。

「テオ様はとてもお優しくて、私は幸せで御座います。」

「そうでしょ?テオは優しいの。オリヴァー様に似たのね!」


その会話に密かに笑みを浮かべる男達だった。ちょっと照れくさい。


食後、執務があるオリヴァーとテオドールは、それそれ愛する者にキスをしてその場を後にした。


マーガレットは、リリィベルを連れて城内を歩き始めた。

「仕立て屋が来るまで、城内を見ましょう?広くて迷ってしまわないように。

ここがあなたの城になるのだから。」

「はい陛下・・・」

マーガレットとリリィベルは護衛を連れて、仲良く城内を歩いていた。


それを見ていた者がいた。ヘイドン侯爵と娘のライリーだった。


「・・・・・・・」

その存在に気付いたマーガレットは、スッと姿勢を改め直し歩みを進める。

リリィベルもそれに歩調を合わせた。


「皇后陛下にご挨拶申し上げます。」

2人はマーガレットに向け頭を下げた。

「あぁ、ヘイドン侯爵、職場に娘を連れてきたの?」

「私の貴族議会の間、ライリーは皇太后陛下の元へ・・・・。」

「そう・・・仲がいいのね?ライリー嬢・・・。皇太后陛下に敬意を示すのもいいが。

私の存在は見えていないのだな。」


2人はハッと息をのんだ。

「とんでもございません陛下・・・・。」

ライリー嬢がさらに深く頭を下げた。


「いえ、いいのよ。私には、私を慕ってくれる娘が出来たもの・・・・。

私を慕ってくれるのは、皇太子の婚約者で十分だわ。

2人とも、何をしているの?皇太子の婚約者、リリィベル・ブラックウォール嬢に挨拶は?」


ぐっと力みながら、2人はリリィベルに向けて礼をした。

「ご挨拶申し上げます。リリィベル嬢。ロバート・ヘイドンと申します。こちらは娘のライリーで御座います。以後お見知りおきを・・・・。」

「えぇ、初めまして。」

リリィベルは凛とした姿で返事をした。

皇太子の婚約者は、もう頭を下げる存在ではない事をリリィベルは理解していた。


「ライリー嬢、皇太子と同じ歳だから、リリィベルとも同じ歳ね。あなたも、素敵な恋が出来るといいわね。若いんだもの。」


「・・・お気遣い痛み入ります。皇后陛下・・・・。」

それは含みを込めた返事だった。


その返事に皇后は扇子を開いて、口許を隠した。

「皇太子とリリィベルはとても仲が良くて、見ているこちらまで幸せになるほどよ。

ライリー嬢?言っては何だけれど、皇太后陛下とばかりお茶していては、機会を無くしてしまうわよ?

若いんだから、ほら、若い男女が集まるティーパーティーもよくあるじゃない?

そちらに足を運んでみてはどう?きっといい出会いがあるわ?」


頭を下げたままライリーは答えた。

「・・・・・・・私は、皇太后陛下を敬愛しております故、そのような場に足を踏み入れるのは

品を落としかねませんので・・・・。」


「はぁ・・・・。」

その答えに、マーガレットは意味ありげにため息をついた。


「そうか、私ともお茶でも一緒にしたのならもっと皇太子に会えただろうに…品位を保つためにも。

皇太子は、どんなに忙しくても毎日顔を出してくれていたのよ?でも敬愛しているとは、

よっぽど皇太后陛下がお好きなのね。」


「・・・・皇后陛下がお声をかけて下されば、すぐに参ります。」

「あら残念だわ。もう私には娘同然の息子の婚約者がいるから。お茶は将来の娘とするわ。」


掴んでいたドレスの裾のしわが増えるのをマーガレットは見ていた。

「若者たちのティーパーティーがダメなら、そうね。じゃあ今度の舞踏会が楽しみね。」


「舞踏会・・・で御座いますか?」

ヘイドン侯爵は聞きなおした。マーガレットはにっこりと笑みを浮かべた。

「えぇ、皇太子とリリィベルの婚約を記念した舞踏会を予定しているの。まさか婚約発表だけで終わる訳ないじゃない?帝国の政は皇后の管轄だもの。盛大にしたいの。皇太子は一人息子だもの。

それに、若い者たちにとってもいい機会であろう?誕生祭で、皇太子とリリィベルが運命的な出会いをし、

愛し合ったような、そんな素敵なロマンスが生まれるかもしれないわ?

是非いらして?いい出会いがあるといいわね。」


「・・・・ありがとう御座います…皇后陛下。」


マーガレットはパシっと扇子を閉じた。そしてリリィベルの手を握った。

「リリィ、仕立て屋はその為に呼んだのよ?皇太子と衣装を合わせて作りましょう。

あとで皇太子があなたの部屋へやってくるわ?」

「はい、皇后陛下。嬉しいです。お忙しい中、また殿下とお会いできるのですね。」

「早々と仕事を終わらせて飛んでくるわよ。ふふっ。夜も一緒なのにね?あなたを愛しているのね。」


「じゃあね。ヘイドン侯爵、ライリー嬢。」


そう言ってマーガレットはリリィベルを連れて2人のもとを去った。


その後ろ姿を見送るヘイドン侯爵とライリーだった。


「・・・・まだ、機会はある・・・・。」

「はい・・・お父様・・・・」


ライリーがリリィベルの後ろ姿を憎々し気に見ていた。



「あんな女に、私は負けないわ・・・・。絶対に殿下の心を、私に向けさせてみせるわ・・・・。」

母強し。朝も昼も夜も一緒。を強調した母でした。残酷だけど悔しいよね。きっと。

読んで下さり有難う御座いました!

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