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幼い子には幼い贈り物

 あーもう、ケーキなんかどうでも良い。



 俺は、ニッコリ笑ったホストを睨み見た。


『その小さな可愛いテオドールに睨まれてもちっとも痛くない。そして、私はホストではない。』


「‥‥とりあえずケーキ戻して。素手で持てねぇし」


『そうしよう。あぁ、このままケーキに顔突っ込んでくれても」

「やらねぇよ!」



 なんだよ。戯れてる場合じゃねぇんだよ。


 こいつは俺のために降臨したと言った。

 という事は、俺が忘れた記憶の手掛かりを土産にしたはず‥


 すっかりテオドールになっただけだ、こいつのお陰で、暁の俺がジャンプして腹蹴りしてきた気分だ。


「‥‥お前、一体」


『アレクシス』




 俺の顔をしっかりと見つめて言った。


『アレクシスだ。これからはアレクシスと呼べ‥。

 前回そなたと会った時は、私の力は底をつきそうでな。吐血する様だ‥もうそんな事は起きない。


 だが、そなたに教えてやれる事は少ない。


 そなたはまだ幼い。大事にするが良い。

 今の人生を‥


 そなたは今、母の愛に包まれ、幸せであろう?』


 いつの間にか、俺の両手は、アレクシスに包まれていた。




「‥‥教えてくれよ‥」


 アレクシスの顔は見られなかった。

 けれど、言わずには居られなかった。



「俺が、記憶を取り戻したら‥」


『あの魂はまだ、それを望んでいない。けれど、そなたを待っていた。けれど、すべてを知ったら、

 そなたは壊れてしまう。私が、そなたの産まれた日に、少しずつ導いてやろう‥。

 私は、あの魂には幸せになってほしいのだ‥。あの魂には、私の出来る限界までの力を与えた。

 ふっ‥私に血を吐かせる程だ。恐ろしい魂よ‥。


 だが、私は、あの魂が幸せである事を望んでいる。』



 ゆっくり穏やかに、諭す様にアレクシスは言った。


 俺はひどく情けない顔をしているだろう。



 このテオドールの瞳に涙が流れたのを、アレクシスだけが見ている。




『7歳の誕生日に、そなたに1つ、贈り物だ。良いか?これからどんな事を知っても‥



 あの魂に疑念を持つでない‥。



 深く、悲しんでいた。そなたの様に‥



 あれは納得して、逝ったのだ。忘れるな‥



 幼いお前に、幼い記憶を1つ、返してやろう‥‥』




 アレクシスに包まれた俺の両手の中に、

 鮮やかな桃色の光。


 それを見たアレクシスは、クスッと笑った。



『見よ‥可愛らしい色だな。なんとも、幼いお前たちにぴったりだ。』


 指の隙間から桃色の光が零れる。


 その光は暖かく、ぽかぽかとしていて、

 そして、小さな子供の様に脈打っていた。



「‥アレクシス‥‥これは、なんで‥こんなにドキドキしてるんだ‥?」


 涙が一筋、止まる事なく流れている。

 この暖かさに、胸が詰まる思いだ。


 手放したくないと、心の底から思うほど‥



『胸に手を当てて、包んでやれば良い‥。

 持ち主の所へ‥帰りたがっているのだ。』


 テオドールの肩に手を当てて、アレクシスは笑った。


「‥?なんで‥その宝石‥光ったんだ?ずっと‥」


 アレクシスの左手首にある宝石ついたブレスレット。

 俺にこの光を渡してからずっと光っている。



『はははっ‥この宝石は良いものだ。心配するな』



「‥?‥‥じゃあそっちの黒いのは‥?」



 アレクシスの右手首にある黒い宝石。

 アレクシスは、その宝石に目をやり、少し悲しげにふっと息を吐いた。



『お前が大きくなったら‥帰るであろう‥。』




 この白い宝石からは、いい記憶‥


 そして、黒い宝石からはきっと‥




『今はまだダメだ‥。今は忘れろ‥』


 俺の目を覆い隠すアレクシスの手。



 やっぱり考えてるだけでアレクシスには分かるのか。




「‥なんか、お前急に気持ち悪いな‥」


『なんだと?』


 口端をヒクヒクさせたアレクシス



「だってそうだろ?ギリシャホストだったのに、急に。」


 ニヤッと俺はその日初めてアレクシスに悪戯に笑って見せた。


『ふっ‥‥‥まったく‥‥蝋人形にしてやろうか?』



「流行ってんのかよ」


流行ってるのは私とアレクシスだけ。

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