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皇族男子であればこそ

「皇太子、ライリー嬢があなたに渡したいものがあるそうよ?」

そう皇太后に言われたライリーは頬を染めて、そっと皇太子にそれを差し出した。


「皇太子殿下の為、一針一針思い込めて縫いました。どうか受け取って頂けますか?」

「・・・・・・・」

そう言って差し出された物を無言で見る皇太子。


それは、淡い暁色のハンカチで、スズランの花とシルバー色の鳥一羽が四隅に刺繍が施されていた。


「へぇ…素晴らしい腕前ですね。」

皇太子は意地悪い笑みを浮かべた。


鳥は、皇太子を示し、スズランの花は、別名リリーベル。

それが四隅に離れて刺繍されている。明らかに皇太子とリリィベルが離れるという意味。


それを一針一針思いを込めて縫った。なんと性悪なことだ…。



「私が受け取るには勿体ない。」

「そんな…殿下の為に…」


「それに、ハンカチを受け取るのは、特別な意味だろう?すまないが、遠慮する。」

「皇太子!なんと無礼なの!女性が手渡したハンカチを断るなんて!」


「ハンカチだからこそ、軽々しく受け取るわけにはいかないのです。

どうかご理解下さい。ヘイドン侯爵令嬢。その腕前に相応しいお相手が見つかるといいですね。」


そう言って皇太子は紅茶を一口飲んだ。


「っ・・・・殿下っ・・・・私の事がお嫌いですか・・・?」

悲し気に涙を浮かべ、ライリーは俯いた。

「一言も、そんな事は言っていないが、ハンカチを受け取れない理由は、聞いていなかったか?

聡明だと聞いていたのだが…。」


「っ…」

深く俯いたライリーは屈辱に顔を歪めていた。


「皇太后陛下、私は約束通りこの場に着ました。もう下がっても?」

「何を言うの!まだ来たばかりでしょう!」

声を荒げる皇太后に、皇太子は冷ややかな目を向けた。


「私の気持ちは以前お伝えした通りです。ヘイドン侯爵令嬢。ご一緒出来てよかったです。

おかげで、令嬢の事を知ることが出来ました。では、これで…。」

「皇太子!!お待ちなさい!!!」


椅子を立ち上がり出口に向かう皇太子、皇太后の声に振り向く事はなかった。



「・・・・ライリー嬢・・・・どうか気を落とさないで?あの子はパラナウラ王国の王女の事で、

疲れていて敏感なのよっ。次会った時はきっと楽しく過ごせるわ?」


「はい…皇太后陛下…」


ハンカチを見て、一瞬で見抜かれた。


花の知識が無ければしらないはずなのに。



確かに思いを込めた。リリィベル・ブラックウォールと殿下がこれ以上近付くことがないように。



初めて出会った時から、皇太子に恋を覚えた。

そして、お父様は言った。いつか私が皇太子妃になるのだと…。


皇帝陛下が皇太子の時代に、ヘイドン侯爵家がデビッド第二皇子の動向を探り、

失脚に尽力したのは…。二つの思惑があっての事だった。


私しかいないと思ったのに…。


まさか、辺境伯の女が現れるのは、予想外だった。


殿下が第一王子として城に上がってから、一度も来た事がない女。

身体が弱いと聞いていた。会う事もなく死んでいくのかと思ってた。


私に対抗する女など、いないと…。


私は、9年もの間、殿下に心を寄せていたのに…。

たった一夜現れただけで、皇太子の心を奪っていくなんて……。


今でも、あの二人が踊っていた姿に、吐き気がする。


私の方が相応しいと…。

殿下の笑顔を向けられるのは、私になると信じて…。


皇太后陛下の使いが、皇太子の動向を探っていた。

皇太子自らブラックウォール家に手紙を送ったとの話もすぐに私の耳に届いた。

だから、今日のうちに会う予定にして。せっかくお会いできたのに…。


冷めた瞳で、私には穏やかな笑み一つ…向けてはくれない…。


「…ライリー嬢…」

ハンカチを握りつぶしていたライリーに皇太后は耳打ちした。

「…絶対に諦めてはなりません。あんな急に現れた女に…。私がそなたをきっと皇太子妃にしてあげる。」

「はい…皇太后陛下…。」







その光景は、魔塔の水晶玉に映っていた。

「んーーーーーこわぁ・・・・・」

一部始終を見ていた魔術師ロスウェルだった。


ベーッベーッベーッベーッベーッベーッ


皇帝陛下が呼ぶ音が魔塔に響き渡る。


「いい加減音変えたらどうです?侮辱ですよ?本当…」

リコーが側で呟いた。

「あっちは知らないからいーんだよ。」


そう言って、ロスウェルは指を鳴らして姿を移した。


皇太子の執務室、ロスウェルが姿を現す。そしてまた一回指を鳴らす。

「皇帝陛下、いくら可愛い息子のためとは言え…やりすぎでは?

まぁ、しっかり皇太子そのものでしたけど…」

「はっ…それくらい朝飯前だ。テオドールの言動と行動は分かり切っている。

ロスウェル…それに私は腹が立ったぞ…。」


オリヴァーは怒りを露わにしていた。


「陛下が出た後です。どうぞご覧くださーい。」

そう言ってロスウェルが水晶玉をオリヴァーに見せた。


〝絶対に諦めてはなりません。あんな急に現れた女に…。私がそなたをきっと皇太子妃にしてあげる〟

〝はい…皇太后陛下…〟


歪んだ笑みを浮かべた皇太后、それに引けを取らない。ライリーの顔が映っていた。


そう、皇帝は皇太子に姿を変えて、密に魔術師の力を借り、自分が見たその場の光景をロスウェルに水晶玉に移す様にしたのだ。


本物の皇太子はブラックウォール家にいる。これは皇帝と皇太子の計画だった。


「こっちもありますよー。どうやら、ブラックウォール家と皇太后に何があったか、理由がわかりました。

ドロドロしてますよ。陛下にはちょっと…ざまぁですけどww」


ロスウェルがもう一つ取り出した水晶玉。それは、ブラックウォール家にいる本物の皇太子の送った光景だった。


一部始終を見たオリヴァーは、唖然とした。

「これはどういう事だ…皇太后陛下が、ブラックウォールの父上と縁談!?

アドルフと言ったら、騎士なら知らぬ者などいない強者ではなかったか!?」


「ですねぇ…その昔、今や同盟国であるグラム王国の軍隊の指揮官の首を取って降伏させた。

言わば、帝国の英雄の騎士です。馬車の事故で亡くなったという、謎の死をとげた・・・。

息子様、感想をどうぞ?」


「感想もなにもないっ…わざわざ恋人のいるその騎士に思いを寄せ…伯爵家から縁談を持ち掛ける様に仕向けて破談にされた腹いせではないか!…時がこんなに経ってもアドルフの息子の娘を…ブラックウォール家に固執しテオドールの恋を邪魔をしているだなんて…。

いくら政略結婚だからと、私を設けておきながらっ…なぜだ?!」


「まぁ、義務ですからねぇ。お世継ぎ?」

そう言ってロスウェルはオリヴァーの肩をポン…と叩いた。


「とはいえ…」

「まぁ、皆が愛する者と結婚するとは限らないからですねぇ…。側室居ましたし…」

「あぁ…まるで不満な結婚だったと露骨に言っているようなものだな。孫にそんな執念をぶつけるのだから…」


「そうですねぇ…どうします?」

「…何か裏があるのは確かだが…。ヘイドン侯爵は私を支持していたが…

それすら疑ってしまう・・・・。」

オリヴァーは頭を抱えた。そして、大きなため息をついたのだった。


「これは…どこから掘り出せばいいのやら…。」





オリヴァーがため息をついていた頃。


ブラックウォール家の玄関先。


「ブラックウォール伯爵、此度の件、承諾してくれた事感謝する。

近々、正式な申し入れをする。あぁ、そう長く帝都には居ないのであったな…。」

「はい、一度、領地へは帰らねばなりません。リリィも一緒に連れて帰ります。

ですが、時が着たら…。」

「あぁ…必ず迎えに行く…。どうか、心変わりをしてくれるなよ?」

「殿下に向かってそのような事は致しません。」

そう言ってダニエルは笑った。


テオドールはリリィベルに向き合い笑みを浮かべた。

「そなたと会えない時間を過ごすことを考えると今から胸が痛い。

だが、必ずそなたを迎えに行く。私の所へ来る心積もりをしていてくれ。」

「はい…殿下、私はこれからも気持ちは変わりません。ですので、殿下が迎えに来て下さるのを

楽しみに…殿下が心安らかで居られるようにお祈りしています。」

美しい笑みを浮かべて、そうテオドールに言った。


「あぁ…私は、お前を必ず妃に迎える。何も心配するな。」

「殿下を…信じております。」

「また…会いに来る。」

「はい…」


テオドールはリリィベルの手の甲に口づけし、ブラックウォール家を出た。



人目のつかない所でブレスレットの宝石を2回叩いた。

その瞬間にハリーが姿を現す。


ハリーは、ずっとテオドールの側に姿を消して控えていた。


「抜かりはなかったか?」

「えぇ、ロスウェル様に先程の話は届いてるでしょ…おそらく皇帝陛下の耳にも入っているかと。」

「そうか…。城へ戻ろう。」


ハリーはテオドールの手を握った。

「…これなんとかなんねぇかな…」

「我慢してください。俺だって嫌なんです。」


そう嫌な顔を浮かべた2人は、その場から姿を消した。


2人が姿を現したのは皇帝陛下の執務室だった。

深刻な顔をしたオリヴァーときょとんとしたロスウェルが、2人を迎えた。


「テオドール、思わぬ収穫があったな。」

「…はい…。」

「ブラックウォール家を認めぬという陛下の意向はなんとなくつかめた。

お前もみるがいい。私が行った茶会の光景だ。」


ロスウェルが水晶玉を差し出した。


皇太子に扮した皇帝が椅子に座った時からのものだった。

「!!!」

ライリーが差し出したハンカチを見て、テオドールは顔を顰める。

すぐに意味は理解した。


「…くそが…」

ドロドロと水晶玉をガン睨みして呟いた。


「このドレスも、自分の方が似合うというアピールだったのだろうな。なんと滑稽な事か…」

オリヴァーはため息をついた。

「こんな女を皇太子妃に等させられるものか…寒気がしたわ。」

呆れてこれ以上の言葉は浮かばない…と言いたげな顔をしていた。


横からハリーものぞき込む。

「それにしても、陛下、殿下そっくりっすね。」

「そうだろう?ハリーもそう思うだろう?殿下は陛下にそっくりだ。」

ロスウェルが真剣にそう言った。

「私はテオを真似たのだ!」

「いやいや、瞬時に言ったあの言い方!セリフ!!誰も見破れませんよ!親子ですね!」

「血筋とは、不思議だなぁ。」


ハリーとロスウェルは、ねー?と顔を見合わせて言った。

そのそばでオリヴァーは苛立っている。


「…こんな性悪女など、虫唾が走ります…。殺してしまいたい。」

水晶玉を一転見つめしてテオドールは呟いた。


「しかし、テオ、伯爵に認められて良かったな。まずは一安心だ。

事態は思いの外深刻だ。早急に動いた方がいい。」

「はい、あのBBAババァとくそ女が動く前に、仕留めなければ…。」

テオドールに理性はもうなかった。


「建国祭を前に、求婚状を出そう。」

オリヴァーは、テオドールにそう言った。

「はい、私がそうしたと世に広まれば、婚約者の地位は守られます。ただ…」

「あぁ…危険に晒してしまうことだろうな…。」

「もういっそ、婚約と同時に城へ招いてはどうだ?」

「ですが、BBAババァの魔の手が…ないとは限りません。外でも中でも…。」


そういうテオドールだったが、オリヴァーはふんっと鼻を鳴らした。

「テオドール、忘れたか?私達にはこんなポンコツを晒しているが、魔術師がいるんだ。

皇后とお前を7年間守った魔術師と私の直々の騎士団がな。」


「…ダニエルとリリィの姿を隠すと?しかし、婚約を発表してしまうのですよ?

皇太后は、魔術師の存在を知っているではありませんか…。私たちの為に…。」


「・・・・だが、守る事は出来る。婚約を発表したことで警備につくし、

ダニエル・ブラックウォールも父のアドルフに負けぬ、その名に相応しき男よ。

魔術師たちには結界を張らせ守るのだ。その間に、私たちは皇太后陛下とヘイドン侯爵令嬢の思惑に

対抗しなくては…。侯爵家もグルであろう…。忙しくなる。


帝都にいるうちに、求婚状を出してしまうぞ…。」


「有難う御座います。父上…。」

「礼はいらぬ。私はお前の愛する者を守りたい。私がマーガレットとお前を守ったように。

私はどんな手も使った。お前もそうしろ。後悔してからでは遅いのだ…。」


「はい…父上…。」



こうして、そのままオリヴァーはブラックウォール家に求婚状を作成し、

妨害を受けぬよう魔術師に秘密裏にブラックウォール家に届けさせた。



何事も性急な皇族の男たちに、さぞ驚いていることだろう…。


そうして、様々な思惑が飛び交う不穏な夜空には、星と月が輝いた。


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