心は決まっている
誕生祭の翌朝、玉座の間にて、皇帝と皇后、皇太子の前に
パラナウラ王国の王女とブルックス公爵が居た。
「して、どうしろと?」
オリヴァーが頬杖をつき、ブルックス公爵に問いかけた。
「ですから!これは我が国の王女を軽んじた振る舞いです!」
そう訴える横で、クレア王女は泣きそうな目でテオドールを見ていた。
「皇太子は、そちらの望み通り王女をパートナーとして入場し、王女の誘いでダンスも踊ったのだ。なにか間違いが?」
「それはそうですが!王女を残してどこかへ行ってしまわれたではありませんか!これは侮辱です!」
大袈裟な手振りで説明するブルックス公爵だった。
王女の目線にテオドールは黙っていた。
「‥‥‥‥‥」
痺れを切らしたように、ため息をついた。
「‥‥‥ブルックス公爵。」
「‥‥なんでしょう殿下、申し開きが?」
ギラリと睨む公爵だったが、テオドールは冷ややかな目で返した。
「私はそちらの望み通りにしたまで、先程も陛下が申したように、エスコートし、私をダンスに誘ったのも王女だ。
そこにどんな感情を期待していたのか知らないが、
心を望まれるのは、如何なものか?」
その言葉に王女は顔を真っ赤にした。
「それに、私は王女に伝えたぞ?楽しかったと。
また機会があれば踊ろうと。それは聞いては無かったのかな?私のその言葉が偽りであると、そう疑われているのか?」
「そ‥それは‥‥だがっ、王女をホールに‥」
「私は、すまない、失礼するとちゃんと告げた。
ホールに突っ立っていたのは王女の方だ。
私は体調に違和感を覚え、その場を立ち去った。
そして、庭に出ただけで‥
だが、ダンスの楽しさをしった私は、王女に礼を言い、またダンスを他の人と踊った。それだけの話では?」
「っ‥‥」
悔しそうに睨む公爵だった。
それを見てオリヴァーはニヤリと笑った。
「私の行動がそちらの思い通りではなかったとは言え、やるべき事はしたが‥‥まさか、他国の王女が、帝国の皇太子が自国の令嬢と踊るのを制限されると?何故だ?
私は何に縛られているんだ?申し訳ないが、理解出来ない。」
キッパリと言い切った。
目に涙を浮かべ出したクレア王女はテオドールの顔を見てこの甲高い声を荒げた。
「皇太子殿下っ!!あんまりです!!踊っている間も私を見ようともせずに‥
他の女とは楽しげに踊っていたではありませんか!!
私の方が誰よりも可愛いはずなのに!!!
こんな事あり得ません!!!殿下は私の事を好きではないですか?!」
「‥‥‥‥‥」
そんな王女を見たテオドールは、ブルックス公爵を見た。
「公爵、どうやら、王女は大切にされすぎたようだな。」
「そのっ‥‥‥」
公爵は王女の言葉で一気に慌て出した。
「先程も申した通りだが、何度言えば伝わるのかな?
公爵、自分が可愛いなどと思い、皇太子の心を意のままにしたいと、王女はそう言ったのか?私は‥‥王女に惚れてなければいけないのか?」
「っ‥‥いえっ‥そのような‥‥‥」
公爵は言葉を濁したかったが、我儘な王女は止まらない。
「みんな私を好きになるはずです!殿下もそうでしょっ?
私が1番可愛いのに!好きにならない理由がありますか?
殿下の目は見えないのですか??それに!
噴水に一緒に行きたいと申したではありませんか!!
それなのに!ちっとも約束を果たして下さいませんでした!!あんまりです!!私の夫に相応しいのは殿下しかおりません!!!!!」
「「「!!!!!!」」」
皆が目を見開いた。
ブルックス公爵は慌てて膝をついた。
「皇帝陛下っ!!どっ‥どうか‥」
オリヴァーは立ち上がり険しい顔で声を張る。
「もう結構だ。皇太子に向かって目が見えぬだと戯言を申し、夫に相応しいだと?帝国の皇太子妃の座は、軽んじられるものではない!!パラナウラ王国からの公的なものでもなく、王女自ら皇太子を罵り、国を揺るがす戯言を申したのだ。」
「陛下っっっ!!!!何卒この件はっ‥‥」
公爵が土下座して縋り付く。
「なにを謝っているの!!!公爵!!!私は王女なのよ?!ふざけないで!!!」
ブルックス公爵の腕を引っ張り泣き喚く王女。
テオドールは、もう少しも口を開きたくもなかった。
「衛兵、王女を部屋へ連れて行け。部屋から出すな。パラナウラ王国には、私直々に書信を出す。それから公爵と使節団も同様。外部へのやり取りを禁じ、早々に皆、国に帰るよう手続きする。‥以上だ。」
衛兵達が王女と公爵を捕らえる。けれど王女は止まらなかった。
「イヤよ!!!私に触らないで!!!
殿下じゃなきゃイヤよ!!!殿下!!!
あの女が気に入ったと言うのですか?!」
最後の言葉にテオドールは王女を睨みつけた。
「‥‥‥‥なんだと?」
王女はニヤリと狂ったように笑った。
「ふふっ‥‥分かってます‥‥あそこに居た全員が!
殿下があの女を気に入ったと‥‥周りの女達も全員が!!!
誰でしたっけ‥‥あぁ、ヘイドン侯爵令嬢だったかしら?
話をしたんですのっ‥ふふっ‥みーんな殿下と毎年踊って頂きたかったのに‥って、私と踊った殿下を見て皆が期待した様でしたのに‥‥‥
ふっ‥‥初めて社交界に現れて!!
殿下に手を引かれ!!鬱陶しく笑って踊ったあの女がっっ!!!‥‥‥ふふふふっ‥‥帝国中の女達にさぞ嫌われたでしょうね???睨んでましたものっ‥この国の令嬢がみんな!
あんな女より私の方が!!国の為になりますわよ?
あんな嫌われた女など、皇太子妃になれるとっっうぐっ‥‥」
王女の口は閉ざされた。テオドールの手によって‥‥‥
「もうしゃべって下さいますな。王女‥‥
帝国の令嬢達を侮辱しましたね?私が踊ったのは、あなたを含め5人。
そう、私は帝国の皇太子‥‥‥誰もが私を欲しがるでしょう‥‥‥けれど、その中でただ1人だけ、
唯一の皇太子妃の座を手にするものがいずれ現れる事でしょう‥‥‥みんな血眼で私の隣を狙っているのですよ‥
それが分からないと思う程、私が愚かに見えますか?
誰が誰を睨んでいようと、私を前では令嬢達皆が敵同士なのです‥‥
我儘に育った王女には分からないのでしょう‥
自分が1番などと、ふざけた事を言うくらいなのですから‥‥
私が会った中で‥‥あなたは、とても醜い生き物です‥‥
虫の方が愛しいと思える程です。
さぁ、首を刎ねられたくなかったら、部屋で大人しくしていなさい‥。牢屋じゃないだけマシだろう‥?
私は今ここであなたの首を刎ねたって構いません‥。
その、耳障りな声を聞かなくて済むなら願ってもない‥‥‥あなたは失言をいくつも口にしました。
頭の悪いあなたが、私の言葉を受け入れないから‥‥
国帰っても無事に生きていられるといいですね?」
パシッとその口から手を離し、自身の手袋も脱ぎ捨てた。
「気持ち悪い女だ‥‥‥。」
そう王女に言い捨てて、玉座の間を出た。
騒ぎ立てた件をひっくり返し、皇帝直々の抗議の書信の返信が届くと共にパラナウラ王国の使節団は国へ帰された。
数日後、皇帝陛下の執務室にて
机に腰掛けたオリヴァーと、目の前に立つテオドールが向き合っている。
「パラナウラ国王陛下はアレキサンドライトの皇太子を侮辱した罪を真摯に受け止め、クレア王女の位を剥奪し、その母である側室をブルックス公爵家に戻し、公爵家の財産を没収するそうだ。それで事を収めて欲しいとの事だ。」
「そうですか、良かったですね。国家の浪費が減る方でしょう。」
遠い目をしてテオドールは言った。
そんなテオドール見てオリヴァーはふっと声を漏らしたのだった。
「ははっ‥‥‥お前は大物になりそうだ。」
「とんでもございません。」
目を瞑ってそう答えた。
トントンとオリヴァーは机を指で叩いた。
「だが、皇太子よ‥‥王女の言い分も一理あるのだ。」
「そうでしょうね‥」
「お前がブラックウォールの令嬢と華麗なダンスを披露したお陰で、皆が思ったであろう‥‥。お前が彼女だけを特別視しているのではないか、とな‥‥‥」
「分かっております。」
「だが、国には、侯爵家にも同じ歳の娘がいる。ブラックウォールは辺境伯だが、侯爵家に引けを取らない。」
「侯爵家とは、ライリー嬢の事ですか?」
「あぁ、そうだ。あの者もお前に心を焦がし暇があれば、理由をつけて登城し、お前と会おうとしていたな。」
「そうでしたか、気がつきませんでした。」
「今年は10年毎に行われる建国祭のある年、お前は誰をパートナーとする?」
「‥‥‥」
「お前が踊った事で、国中の令嬢がお前のパートナーになろうと必死なのだ。そして、お前ははじめての建国祭、
幼さを武器にそれが慣例かのように毎年誕生祭で前皇帝陛下と皇太后陛下を連れて歩くには、無理がある。それとも、本当に皇太后陛下をエスコートするつもりか?」
「皇太后陛下がお許し下さるなら、それも妙案です。
なにせ、建国祭に相応しい方でしょう?」
「だがな、お前が誕生祭で踊った事はすでに皇太后陛下の耳に入っておる。大層お喜びだったそうだ。
そして、皇太后陛下は、ヘイドン侯爵家は第二皇子失脚に尽力してくれたしな‥‥皇太后陛下はライリー嬢を望むようだが?」
「‥‥‥‥それは、ご命令ですか?」
「命令されたいのか?」
オリヴァーは鋭くテオドールを見た。
「嫌です。絶対に‥‥‥。」
強い瞳でそう告げた。
「そうか‥‥」
「ならば、お前が望む相手をパートナーに据えろ。
ただし、それ相応の覚悟を持ってな。」
「陛下、私はリリィベル•ブラックウォール嬢を皇太子妃に望みます。」
オリヴァーはニヤリと笑みを浮かべた。
「‥ほぉ‥婚約者ではなく、皇太子妃と?
まだ日が経っていないが‥?」
テオドールはオリヴァーに柔らかに笑みを向けた。
「父上、彼女は私の運命です‥。必ず、この手を取って貰います。」
「はははっ‥‥ならば、励が良い、今回のパラナウラ王国の任の褒美として、休暇をやる。」
「えっ?」
目をぱちくりしてオリヴァーを見た。
「ブラックウォール家は5日後には、領土へ戻るそうだ。」
「えっ、なんで?!」
なんで知ってんだ!俺だって知らないのに!!
オリヴァーは慌てふためくテオドールに微笑んだ。
「皇帝は何でも知っている‥‥なぜか?それは私が息子想いの皇帝だからだ。」
とウィンクした。
「あっ‥‥今?今から休暇ですか?」
「あぁそうだ。好きにするがいい。幸運を祈る。」
ニコリと笑ったオリヴァーに、テオドールも喜びを隠せない様子で笑った。
そして、スタタタっとオリヴァーの側に回った。
「ありがとう!!父上!!!!」
その体に抱きついたのだった。
「‥ふっ‥‥」
オリヴァーは優しく笑みを浮かべた。
そして、息子にそっと耳打ちする。
「逃すなよ。」
読んでくださり、ありがとうございます。




