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星と月に願いを

ブラックウォール家タウンハウスの自室でリリィベルはぼぅっとしていた。


…殿下が…


…テオドール様が…


…テオ様が…



私に‥‥口付けを・・・・・。



湯につかっても、髪を梳かしていても、あの場面が蘇る。


唇が離れる瞬間のテオドールの顔は、切なくてとても甘かった。

「・・・・・っ・・・・・」


胸が高鳴る。心がおかしくなってしまいそう…。


今日初めてこの目にした男性と、それも帝国の皇太子と・・・・。


〝リリィ、俺は…1人の男として言っている〟


そう言ったテオドールの言葉が忘れられない。


いや何もかもが忘れられない。


あの噴水で出会った瞬間、月が私を照らしたのかと思った…。


言葉を交わし、手に触れた瞬間。


手を取って、駆け出した瞬間も、寄せられた唇とささやきも・・・。



そして唇が重なった瞬間も・・・・。


すべてが、胸に溢れて壊れそうな思い・・・・。


一目見たその時から、私は、あの方を特別だと思った・・・。


何も不安などなかった。側にいるだけで、胸が弾んでいた。



「テオ様・・・・今頃、私を思い出してくれているかしら・・・・?


そうだったら、私、どうにかなってしまいそう・・・・。」



肝心な言葉はまだ聞いていない。これが、〝恋〟というものかは・・・・。

けれど、つないだ手から、声から、私の心を刺激する、もう一つの鼓動・・・。


あんなに夢見心地になるのね・・・・。


私はもうテオ様に、心を引き寄せられたのかもしれない・・・・。


「手紙‥いつ‥くるのかな‥‥」


そう呟いて、リリィベルは布団に潜った。





皇太子の寝室、テオドールは胸元にある指輪を握りしめていた。


「やっと会えた‥‥」

握りしめた手をグッと顔に当てて、この喜びを噛み締めていた。


俺の心が掻き乱される。

レイラが目の前に現れた。


やっと‥‥


「会ってすぐ‥キスするなんて‥どうかしてるっ‥」

軽薄な男だと思われていないか?大丈夫なのか?


でも‥後悔してない‥‥


触れたかった。もっと‥


でも今日初めて会ったのに‥


こんなに抑えられない‥気持ちは止まらない。



さっき離れたばかりなのに、もう会いたい‥。




『そんなに会いたかったか?私に』


「?!アレクシス?!」


目の前に突然アレクシスが現れた。


だか、いつもの空間とは違った。俺の部屋に現れたのだ。


『私が地上にいる事がそんなに不思議か?』


「そりゃ、まぁ‥いつも暗がりにいるし‥」


『あぁ、それよりおめでとう?テオドール。』


「へ?」


『レイラの魂に会えただろう?飛んで跳ねて喜んでいると思ったが‥』


「噛み締めてるぜ‥お陰様でな」

ニヤッと笑った。


『ふっ‥危機は何度かあったが、レイラがお前に会いに来たようだ。よほど、惹かれていたのだろうな』


「‥‥そっか‥‥は、‥ははっ俺に会いに?」

じわじわと喜びが湧き出て笑みを隠せない。


『認めるしかあるまい‥‥それで、どうだった?レイラ、いや、リリィベルは‥』


「あぁ‥‥星が輝いてるみたいに見えた‥‥

ずっと‥顔見られなかったのに、レイラだった。

声も顔も仕草もっ‥レイラだ‥嬉しくてたまんねぇ‥」


『お前が暁でテオドールな様に、レイラもレイラでリリィベルである。誕生日プレゼントはもう受け取ったも同然だな?』


「あぁ‥今までで一番のプレゼントだ‥」


そう言って夜空に目を向けた。




『なら、暁だったお前とレイラの記憶はもうよいな?』


「いいって‥なにが?」

テオドールは眉を顰めた。


月明かりに照らされて、アレクシスはテオドールをじっと見つめていた。


『今生でつがいに出会えたのだ。いつまでも記憶に縋る事はあるまい‥テオドールとして、リリィとして生きればよい‥』


「それはっ‥ダメだ!」

『なぜ?』


「俺はっ‥この指輪のことだって思い出せてないっ‥‥

それに、お前は言った‥俺がレイラに生かされていたんだと‥‥レイラを忘れてっ‥普通に生きたと思った人生だって‥俺はそうお前に言った‥‥‥俺はレイラの何を犠牲にした?何故、お前に思い出させて貰わなきゃ、思い出せなかった?思い出さなきゃ導かれない…って…リリィはレイラと同じ顔だった。俺も思ってた‥髪を黒くしたらこの顔も暁だ‥‥‥。歳を重ねる度にそう‥思い始めた‥。俺はこの世界でリリィを苦しめたくない!


絶対もう手放したくないっ!!だから‥俺達の全てを‥」


アレクシスはスッと目を細めた。


『壊れても構わん‥それは今でも変わらないか?』


「この世界のレイラを守る為なら‥俺は‥

全部思い出さなきゃ‥‥俺は、リリィと結ばれる資格がねぇ‥」


『よく言った。全てを思い出し、リリィのそばにいることが出来るのなら、お前に月の記憶を返そう‥だが、リリィはお前の苦しみに今も共鳴しているぞ?それでもいいのか?』


「え‥?どういう事だ‥」


『お前がこれまで、レイラを思い苦しむ度、レイラはその身を犠牲にしていた。焼かれる様な苦痛を、その身に何度も‥聞いていなかったのか?体が弱かったと‥』


テオドールは少し震えていた。


「‥‥‥‥じゃっ‥‥‥じゃあ、俺が‥この世界で、レイラを思って胸が痛かった時‥‥は‥‥‥」


震える胸を押さえ込んだ。


『あぁ、ハリーとか言う魔術師に言われた時も、お前は心を乱した。それだけじゃない。お前がレイラを思い苦しむ度に、宴でお前が一眼でレイラを見つけた瞬間、心を乱しただけで、リリィは体調が悪くなって庭に行ったと言ったではないか‥‥私は言った。無闇にレイラを刺激するお前が愚かで腹が立つとな‥‥どんな時も苦しんで居たのはお前だけではない。お前の何倍も‥‥レイラは苦痛を味わい、床に臥して、起き上がる事も出来ずに暮らしていた。


だから言ったのだ。お前が強くならなければ、お前と会う事は叶わないだろうとな‥』



「な‥‥‥」


真実にテオドールの顔が歪んでいく‥


「なっ‥なんで!なんでレイラがっ?この世界に産まれて生きてたのに!なんでリリィになってもそんなっ‥」


アレクシスの服を掴んだ。



『それが‥レイラの望みだったからだ。』


「‥‥‥なん‥‥だと‥‥‥?」



『レイラが、私に望みを掛けた。お前が暁で生きている間、その生を終えるまで、苦しませるなと‥‥助けてくれ。と』


「なんっ‥‥‥‥」

レイラの思いに、テオドールの目に涙が浮かんだ‥。


『そして今も尚、それは続いている。

共鳴している。レイラの強い思いが、リリィベルとなって生を受けても尚、お前の為だけに‥‥‥』



どうして‥‥?


テオドールの頬を涙が流れ落ちた。



『どうして?レイラの望みだと言っただろ?』


厳しい顔付きで、アレクシスは暁を見下ろした。



どうして、そこまで‥‥


俺は、俺は前世で、どんな苦痛を‥‥‥



『‥‥‥‥お前は‥‥‥‥何を知っても、


前世の様な行動を、してはいけない。それを頭に叩き込んでおけ‥‥‥』



膝をつき‥呆然とした暁。


そんな暁の様子を見て、アレクシスはため息をついた。



「‥アレクシス‥」


『なんだ?』


「お前を神として言う‥‥願いを叶えてほしい‥‥‥。


俺が前世を思い出しても‥それでどんなに苦しんでも‥‥


レイラを‥‥リリィを‥‥苦しませないでくれ‥‥‥。


俺の痛みは‥俺が全部受けるから‥‥‥


俺がどんなに胸を痛めようと、レイラを、リリィを‥‥‥助けてやってくれ‥‥。」



『お前は、神を信じないのではなかったのか?』



そうだ‥俺は、神を信じた事はなかった。



けれど、アレクシスが存在し、アレクシスはレイラの望みを叶え、俺を‥守ってくれていた。



神はここにいる‥‥‥



『‥私はレイラが可愛いから、願いを叶えたんだ。』


「‥‥‥」


その言葉に暁はギロリとアレクシスを睨んだ。


『安心しろ、女として、言っている訳じゃない。お前が嫉妬するものではないわ。』


目で物を言ってしまったようだ。



「俺は可愛かねぇだろうが‥‥‥お前が可愛がるレイラの為に‥‥‥


どうか、俺の願いを叶えてくれ‥‥‥


この瞬間も、もし共鳴しているのなら‥‥」



『あの子は、その苦しみですら‥愛しんでいる‥‥


お前は、どんなに幸せなのか‥‥測りきれんな‥‥』



「アレクシスっ‥俺‥色んな記憶をお前に返して貰って‥

だけどっ‥なぜレイラと俺が離れてしまったのか‥‥

何故レイラが、俺の人生に居なかったのか全然わかんねぇけどっ


何も思い出せてないけど、これだけは分かるんだ‥‥」



「‥‥‥レイラはっ‥‥っっ‥」


ポタポタと涙が落ちていった‥‥‥


「どんな時も‥‥‥俺を‥っ‥‥愛して‥‥くれてっ‥‥


俺は‥‥っ‥‥アイツを‥‥心のっ‥底からっ‥愛してたっ‥‥‥」



両手で自分の身体を抱きしめながら蹲った。


『あぁ、‥わかっている‥‥。だから、俺はお前達を見ていたのだ‥‥ずっとな?』


そう言ったアレクシスの顔は穏やかだった。



アレクシスの両手が、暁の頭にかざされた。


『‥‥お前の願いを叶えてやろう‥‥16歳の誕生日、お前が切に祈った願いだ‥。


レイラが、リリィベルがこれから苦しむことはない‥。』


そう告げるアレクシスの両手から、星の粒が暁の頭にキラキラと降り注いだ。



「っっ‥‥‥‥くっ‥‥‥初めて‥‥俺は‥‥‥


神を信じることが‥‥出来そうだよ‥‥‥っ‥」


泣きながら暁は笑った。



『私は慈悲深い神なのだ。崇めるが良いぞ?


いい子でいたら


黒い宝石に吸い込まれる事はないだろう‥‥』


穏やかな笑みでアレクシスは言った。


「あぁ‥‥‥信じる‥‥信じるからな‥‥‥」


月明りの下で、神は蹲るその男の切なる願いを聞き取ったのだった。





タウンハウスで眠る、リリィベルは楽しい夢でも見るように、少し弧を描いて、静かに眠っていた。

読んで下さりありがとうございました。

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