表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/240

生涯の恋 3

 

 叶わない願いと知りながら、映し出された暁に釘付けの私の鎖をアレクシスは一つ一つ解いていた。


≪はぁ・・・凄まじい執念だな・・・君も、夫も・・・こんな物を巻きつけてそれを喜んでいるなんて


 あぁ・・・君たちは運命のつがいだったのか・・・。


 尚の事、切れた運命はさぞ酷であろうな・・・・。≫



つがい・・・?」

 後ろで鎖を外しているアレクシスに礼蘭は振り返った。


≪こんなものを繋がげられるのも、君たちが結ばれる運命である証・・。

 夫の執念、君の執念・・・本来なら離れることのない運命が途切れて行き場を無くしている。


 ・・・・厄介なものだ・・・・。≫




 つがい・・・




 そうか・・・暁とは・・・・やっぱり運命だったのね・・・・。


 私たちが出会ったことは、両親がたまたま出会った訳でもなく、幼馴染になれたのも、




 全部が・・・暁と私が結ばれて生まれてきたからなのね・・・・。



「あきら・・・・・・これから暁はどうなるの・・・・?」


≪さぁ?・・・今は君の死を受け入れられないのは見ての通り・・・。


 けれど、彼の人生は続く・・・。君がいない時間・・・。



 彼がそれをどう受け入れられるかは・・・・私にはわからないよ・・・・。


 ただ、結ばれていた物同士でも・・突然死は訪れる・・・。


 君達だけじゃない。


 でも、君の夫は恐ろしい程君に執着しているね・・・。見ていて恐ろしい程だ・・・・。≫



 ガシャンと鎖が切れていく。残るは最後の鎖だけだった。

≪こんなに酷いのはあまり見たことはないけれどね・・・≫




 礼蘭は、アレクシスが作り出したそのスクリーンのような映像を見ていた。



 抜け殻の身体は燃えた‥‥。


 それをただ眺めていた。



 あの抜け殻はもはや自分とは思えなかった。


 ただ、暁に触れられる唯一のものだった。



 


 あんなに泣き叫んでいた暁を見たのも初めてだった。




 こんなに放心した暁を見たことは一度もない。




 そして、驚かせようとした手紙に泣き崩れる暁に涙が出た。




 あんな顔をさせるつもりじゃなかったのに‥。



 暁は鋭く、すぐ分かるから初期の妊娠を知ったのは結婚式の数日前の事だった。



 結婚式前日に、実家で書いたあの手紙は、




 彼を喜ばせる為の‥‥愛だった。





 このスクリーンには、暁の強い感情がごちゃごちゃに流れて映る。



 死んだ瞬間



 死んだ礼蘭の抜け殻にキスをした瞬間。




 火葬場の瞬間。




 手紙に泣き崩れる瞬間。




 それらの場面が壊れたように何度も映る。

 そして悲しみが鎖を一層締め付ける。




 悲しみを感じるには十分過ぎるほど、何度も何度も見せ付けられた。




 《ここにいても彼の悲しみを見ているだけだよ。》


「そうだね‥‥‥同じ場面が‥‥っ‥‥何度もっ‥っ」



 一度流れた涙は止まらなかった。


 ただごめんねと、愛してるを伝えたくて‥‥。



 暁から目を離せない。





 暁が真夜中に自分を探して彷徨う。


 パジャマを片手に握りしめて、遺影を見ては泣き崩れる。




「こんな暁っ‥‥見たことないわっ‥‥‥」





 そして、暁が何度も繰り返しDVDを見ている。



「‥‥‥ああ‥‥‥あんな事っ‥‥言ってた‥‥」



 それは、DVDのワンシーンだった。




 ガックリと肩を落とし、服を抱いて涙を流す暁に、

 どうしようもない感情が込み上げる。





 酷い罪を犯した‥‥




 彼を裏切り死んだ私は‥‥‥





 なんて罪深いの‥‥‥‥







 《あと一つなのに‥‥‥なんて奴だ‥‥‥》


 アレクシスは髪を掻き上げた。うっすらと額に汗が出る。




 《まったくこれだからつがいは厄介なんだ‥‥》


 そう言ってまた鎖に触れようとした。

 けれど、それは礼蘭の手により触れられなかった。



「‥‥やめてください‥‥」

 《‥‥‥‥‥‥》


 礼蘭の言葉にアレクシスは眉を下げた。


 《何度言わせる?》




「いいんです‥‥‥このまま‥‥私は暁の鎖に繋がれて‥‥」



 ポタポタと涙が落ちる。



「私は‥‥生まれ変われなくていい‥‥‥。」


 《‥‥この暗闇から出られないよ?》



「はい‥それでいいです‥‥‥。」



 アレクシスは険しい顔で礼蘭の肩を掴んだ。


 《勝手なことを言うのは人間の性だが、君達のような成仏できない者達が増えると困るんだよ。君達は分かり得ないだろうが、人には決められた寿命と、世界の生きる人数が決められていてね。君のような思いがけず死んだ者を取り残すのが厄介でね。君がこれの寿命なら良かったんだけど。》



「‥‥‥これは、私の罰です‥‥暁を悲しませた私の罰‥‥」


 《君に罪はないよ。》



「それは、あなたの決めることじゃないです‥‥」




 《ああ、本当に面倒だね‥‥強制的に生まれ変わせる事も出来るんだけどね。君は身代わりの死だから。出来ればそんな事はしたくないんだけど。》



「あっ‥‥‥」


 礼蘭はグッと身を乗り出した。


 《あーぁ‥‥‥どうしようもないね。》



 礼蘭の目に映ったのは、ベランダから身を乗り出そうとする暁だった。


 星に向かって手を伸ばしていた。



 《助けられたのに死ぬなんて、恩を仇で返すって本当にあるんだね。弱い男だ‥‥‥。》



「やめてっ!!‥‥‥暁は弱くないの!!暁っ‥‥お願いやめてっ‥‥‥っ‥」




 手を伸ばすけれど、二つに分かれた世界は交わる事なく伸ばした先にお互いの光はない。




 礼蘭を探し求める手。



 暁を止めたくて必死で伸ばす礼蘭の手。




「お願いよっ‥‥‥うぅっ‥‥おねがい‥‥‥誰かっ‥‥‥」



 暁を止めて‥‥‥




 《ふぅ‥‥‥》




 アレクシスのため息がもれると、暁のジーンズの裾がウッドフェンスに引っかかって取れなくなった。


「血がっ‥‥‥」


 暁の足が血に塗れる。


 《自殺者も面倒でね‥‥。それに、ここで死なれたって君達が交わる事はないだろう。死に損に、君にこれ以上現世に固執されるのは困るんだ‥‥》



 それは、アレクシスが成した神の仕業‥。


「あきらっ‥‥‥。」


 両手で顔を塞いで声を上げて泣いた。



 こんなに彼を追い詰める私の存在は、もはや害でしかなかった。




 《そんなに自分を責めるな‥‥。せっかく解けた鎖がまた巻き付く‥‥》



 鎖とは別に、茨が礼蘭に絡みついた。



 《やめなさいと言っているだろう‥‥今更血にまみれないでくれないか?》




 礼蘭の感情が茨となりその身を刺し血を流す。








 それから何度も暁が自殺を図るたび、礼蘭はアレクシスに縋った。




 この止まった時の中で、暁は毎日毎日涙を流す。



 ついに礼蘭の足が底の見えない地にへばりついた。




「・・・・・・・・もういいの・・・・・・・」


≪なにが・・・・?≫



「こんな暁を一人にして・・・・私は・・・・行けない・・・・・」




 下を向き・・・・両手をだらりと下げた礼蘭は、星のように煌めきを放った。


≪おい・・・何をしている・・・・≫



「私の魂など・・・・いらないわ・・・・暁に全部あげたいの・・・・・」



 アレクシスはその放つ光に目を細めた。


≪いくら私の元へやってきた魂とはいえ、私の力を吸い取るつもりか?≫



「これは・・・私の・・・暁への愛なの・・・・邪魔しないで・・・・・」


 振り返った礼蘭の瞳に星が宿る。


≪おいおい・・・いい加減にしてくれないか?君が縋るから助けてやった。

 もういいだろう?私生活も元に戻ったんだ。後は君と私が関与出来る域を超えている。死にたいのならそうさせてしまえ。何度も何度も思い出したように自分を傷める。


 その度に君の魂は穢れ、君をこの世に縛り付ける。》




 礼蘭が死んでから、既に2年の月日が流れようとしている。

 暁の様子は変わらず日常生活に戻ったが、いつも礼蘭を探し彷徨う。



 《‥‥付き合いきれない。もう2年になる前に君を‥‥》



 これ以上続けば礼蘭は永遠に闇に取り込まれ、生まれ変わる事なく魂が消滅し消える。




「‥‥なら‥‥‥」





「一つだけ‥‥‥最後の願いを‥‥



 最後のわがままを‥‥叶えてください‥‥‥‥



 これ以上、もう無理なら‥‥‥




 最後に一つだけ‥‥‥。」




 礼蘭の頬をつたう涙が、アレクシスに願いを告げる。



読んで下さり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ