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夢を彷徨う魂

 

【どうだった?‥‥お前が無くした記憶は蘇った。満足したか?】



「はぁっ‥‥ぁぁぁぁっ‥‥‥」




 真っ暗闇の中、アレクシスの声が聞こえた。

 此処には誰も居ない。



 蘇った記憶は、頭が割れそうなほど苦しい事実だった。

 この記憶をどうやって消した。



 礼蘭が、俺を庇い死んでいった‥‥。




 何度も後を追おうとした。涙に濡れた記憶だった。




「ぁぁああっ‥‥‥っっ‥‥俺はっ‥‥‥。」





 こんな事実を忘れていた?




 礼蘭を失って、死ぬ事も厭わない程の日々を過ごしながら‥‥‥俺の人生は、86歳まで続き、礼蘭を忘れたまま妻だった礼蘭の後、何もかも忘れ‥‥‥結婚していた。


 礼蘭とお腹に宿った2人の子を失っていた‥‥。



 それでも、他の女を妻に‥‥‥。


「なんでっ‥‥なんで‥‥っっ‥‥礼蘭が死んだのに‥‥俺を庇って死んだのにっ‥‥どうして記憶がなかったんだっ‥‥。



 どうして俺の人生の中に礼蘭は無くなったっ‥‥‥。




 覚えていたならっ‥‥‥っ‥‥」




 頭を抱え、まるでその失意の日々を取り戻したかの様に暁は涙をこぼした。




【‥‥‥夫は冥福を祈るどころか、何度も死を選び、あの子はお前近くを彷徨い、2年の月日を犠牲にした。生まれ変わる新たな運命を捨ててまで‥‥‥】




「どういう事だっ‥‥っ‥‥‥れいは‥‥‥っ‥‥俺を‥‥っ?」



 暗闇で一つの灯りが遠くに見えた。




【さぁ、すべてを知りながら、迎えた結婚前日はどうだ?



 明日が楽しみか‥‥?】





 バカにする様にアレクシスの楽しげな声が聞こえた。



 ガクガクと身体が震えた。



 俺は誰だ‥。暁か?テオドールか?






 明日は‥‥くるのか‥‥‥?







「っ‥‥‥れいはっ‥‥‥ゃ‥‥リリィ?‥‥‥‥




 俺達の明日はっ‥‥‥っ‥‥‥俺からっ‥離れていかないよな?!





 明日はちゃんと!!!‥‥‥っ‥‥なんでっ‥‥‥」





 怖い‥‥‥




 怖い‥‥‥







 俺はどっち‥‥‥?




 俺はどうして‥‥‥礼蘭を忘れてしまった‥‥‥?







 記憶の中の礼蘭が、あの映像の中の日の様に手招きする‥‥




 テオドールに振り返り、笑顔を見せるリリィベルが‥‥‥





 1番眩しい‥‥‥暗闇の中の星‥‥‥。













「おいロスウェル!!テオは大丈夫なのか?!リリィも!

 なぜ2人とも倒れてしまった?!」


「騒がないで下さい陛下。」



 現実世界で、イーノク達から伝令が城に入ってすぐ、オリヴァーとロスウェル達は神殿へ来た。儀式の間に来たテオドールとリリィベルは、魔法の様に眠りに落ちていた。


 抱え込む様に細い腕でリリィベルがテオドールを抱き締めている。そんな姿がステンドグラスのアレクシスに見下ろされていた。



 目の前の光景に驚き駆け寄った。

 だが、寸前のところで、2人は見えない何かに守られており近付けなかった。


 ロスウェルはイーノクらを儀式の間から遠ざけ、オリヴァーとロスウェルだけがその場に残った。


 結婚式場となったこの神聖な間は華やかな飾りつけで彩られている。それなのに神を目の前に、2人の幸せな新郎と新婦は寄り添う様に倒れ込んだまま近付けない。


 ロスウェルの額から汗が流れた。



 月と星‥‥‥



 やはり、2人はこの神の影響を受けている。




 オリヴァーが心配そうに2人を見つめ続ける。

 結婚式を明日に控える2人に何かあったら帝国の未来が揺らぐことになりかねない。


 そんなオリヴァーに、ロスウェルは渋々と口を開いた。


「陛下‥‥」

「なんだっ‥‥お前これどうにか出来ないか?」

「私の域を超えております。これは‥‥神の領域‥‥アレクシス様の神力が掛かっております‥‥。」


「なぜだっ!‥‥神がなぜ2人をこんな風に‥‥っ‥‥どうすればいい!!」



 オリヴァーは髪をくしゃりと掴んだ。

 ロスウェルは、そのオリヴァーの黒髪を見て思い出していた。


 新月に垣間見える。黒髪の‥‥‥。



「陛下‥‥殿下とリリィベル様には‥‥‥私共が理解するには、少々不思議な縁があるのです‥‥。


 理由は分かりません‥‥‥。けれど‥‥。」



 ロスウェルは視線の先のテオドールとリリィベルを見た。


 あの神の下‥‥‥2人の髪が黒く見える‥‥‥。



 あの2人の縁は‥‥‥一体‥‥‥。




「ですが‥‥私も、何も考えず今日まで過ごしてきた訳ではありません。」


 ロスウェルが指をパチンと鳴らした。


 すると、ロスウェルの背後にハリーが現れた。


「お呼びですか、ロスウェル様‥‥‥」

「ああ、少々警戒していた事とは異なるが、私達の時間は無駄じゃなかった様だ‥‥。」


 ハリーはロスウェル達の視線の先を見た。


「‥‥‥黒髪‥‥?」


「なに?」

 ハリーの言葉にオリヴァーが反応した。

 オリヴァーは2人を見るが、自分の目にはいつもの髪色の2人だ。見ていてすぐに、テオドールの閉じた瞼から涙が流れているのを見つけた。


「泣いてる‥‥?」



「ええ、だが、殿下だけではありません‥リリィベル様も‥‥ですが、あの方は生気は今、殿下に注がられている‥‥あのままでは、リリィベル様が‥‥。」


 ロスウェルが眉を顰めて大きく両手を広げて斜め先を見上げた。


 見上げた先に、大きな魔術紋様が浮かび上がる。


「‥‥‥星になってはいけません‥‥リリィベル様‥‥っ」



 2人を守る結界の様な神技、リリィベルのアンクレットが暁色に光った。


「私が‥2人を守りますっ‥‥‥。」




 ロスウェルの目には、リリィベルの身体が時折透けて見えた。それはハリーも同じだった。

 ロスウェルの背後で、ハリーも力一杯両手を合わせてギュッと両目を閉じた。



「‥‥殿下、リリィベル様‥‥必ず現実へお戻り下さいっ‥‥

 夢は幻ですっ‥‥‥。」



 2人が知っているのは、2人が突然誰かに変わり意識が飛んでしまう事。



 夢の中で、苦しみ涙し‥‥テオドールをリリィベルが命を削って守ろうとしている。



「私が‥‥明日の結婚式までに2人の時計の針を‥‥」


 眠る2人の時を止める事は出来ない。

 巻き戻す事も‥‥。



 出来る事は‥‥‥


「いつ目を覚ますか分からないのですから‥‥。この空間を少しでも‥‥」





 1分を長く‥‥‥。2人が夢の中を彷徨い続ける限り、時を遅らせる。




「‥‥‥消えてはいけません‥‥リリィベル様‥‥‥。」




 あなたの愛しい人は、その儚い姿に‥‥‥涙を流しているのです‥‥‥。



 殿下の側を‥‥離れてはいけません‥‥。



 ロスウェルが願う。



 2人の幸せな未来。黒髪の彼が、後悔しない未来‥‥‥。




 それに繋がる、今の‥‥‥2人の未来‥‥‥。


読んで下さりありがとうございました。

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