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月の記憶 〜返事のない笑顔〜

 

 絶望に満ちた暁は、ただぼんやりとベッドに端に座った。

 礼蘭の家族は、涙を流し続け言葉にならず、此処にも居られずに家を出た。心配した忠が3人を家まで付き添った。


 悠は黙ったまま、暁を見ていた。

 その目尻から溢れる涙を見ながら、目を離せなかった。


「‥‥‥母さん‥‥」


 ふと、礼蘭を失ってから初めて暁は悠を呼んだ。、


「なぁに‥‥‥?」



 暁の瞳からは、ずっと涙が流れ続ける。


「俺の子供‥‥っ‥‥居たんだって‥‥。」


「っ‥‥そうね‥‥‥」



 ぼんやりと天井ばかり見ていた暁の、カサカサした唇から溢れる言葉。


「‥‥‥礼蘭‥‥‥分かってて‥‥‥飛び出してきたんだな‥‥‥」


「‥‥‥そうね‥‥」





「なんで‥‥‥俺を‥‥助けたんだろうな‥‥‥」


 パシィン!!!っと悠の手が、暁の頬を叩いた。

「そんな事言うんじゃない!!!!!」


 赤くなった頬をそのままに、暁はただ、声を詰まらせながらも止まらなかった。


「‥‥‥言わせてよっ‥‥‥なんで俺をっ‥‥‥。自分と‥‥っっ子供も守ってくれたらっ‥‥‥俺はトラックにぶつかったくらいじゃっ‥‥死なないよっ‥‥。」


「暁っ!いい加減にしなさいっ‥‥っ‥‥それが礼蘭ちゃんに言う言葉なの?!」


「俺だけ1人残されたってどうしろって言うんだよ!!!!

 礼蘭もっ‥‥子供もっ‥‥‥っっ‥俺の大切な人はみんな燃えちゃったじゃねぇかっ‥‥‥なぁっ‥‥!!!


 母さん!!!!!俺はっ‥‥‥俺はっ‥‥‥?!



 俺だけ生きてどうすればいいんだっ‥‥‥っ‥‥‥」


 悠は、暁の肩を掴んで涙ながらに訴えた。

「今はっ‥‥‥受け止められないのは分かるわっ‥‥


 みんな受け止められないのっ‥‥‥礼蘭ちゃんだけでも悲しいのにっ‥‥小さな赤ちゃんまでっ‥‥っ‥‥


 でもねっ‥‥それでも生きていかなきゃいけないのっ‥‥



 生かしてもらったのならっ‥‥生きていかなきゃいけないのよ?!あんたが生きていなきゃっ‥‥礼蘭ちゃんの行動が無意味になってしまうわっ‥‥あんたは!!礼蘭ちゃんに守って貰ったのよっ!!」



「うっ‥‥‥なぁんで‥‥っっ‥‥‥なんでっ‥‥‥俺は‥‥っ

 礼蘭と一緒に生きたかったっ‥‥子供もっ‥‥‥何にも知らないでっ‥‥‥愛してるって‥‥伝えたかったぁっ‥‥‥っ‥ぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥。」

「暁っ‥‥‥暁っ‥‥‥母さんがっ‥‥代わりになってあげたかった‥‥‥。」



 暁の泣いた顔が‥‥まだとても小さな頃の暁のようで、悠はたまらない気持ちになった‥‥。


 成人して、妻を娶り子供も授かった息子は、その妻と子を失い泣き続ける。



 そんな風に泣き顔を見るくらいなら‥‥‥。


 息子の為なら‥‥‥礼蘭の代わりになって、礼蘭に暁のそばにいて欲しかった‥‥。




 だが、どんなに悔やんでも、悲しくても‥‥

 それは変えられない‥‥



 変わらないから‥‥‥少しずつでもいいから‥‥。



 生きて、また笑った顔が見たい‥‥。





 幼い頃以来抱き締める息子の身体はこんなに大きくなったのに、大切なものをなくした子供のように慰めきれない。

 気を紛らわせる事もできない。



 暁の悲しみは‥‥‥消える事はないだろう‥‥‥。




「ぁぁぁっ‥‥‥れぃぃ‥‥‥俺はっ‥‥れいをまもるってっ‥‥‥ぜんぜん守れなかったぁぁぁぁ‥‥‥守れなかったぁぁぁぁ‥‥‥ぁぁぁぁぁっ‥‥‥ぅうぅっぅぅぁぁ‥‥‥っ‥‥‥子供もっ‥‥‥もぉいねぇぇ‥っ‥‥れいもぉっ‥‥‥子供もぉっ‥‥‥ぁぁぁぁあぁっ‥‥‥‥っ‥‥‥‥」




 泣き叫んでも‥‥名前も呼んでも‥‥‥



 礼蘭は‥‥‥‥もう居ない‥‥‥‥‥。





 俺の幸せは‥‥‥粉々に散った‥‥‥。





 礼蘭のウェディングドレス姿が見たかった‥‥。



 あの2人で選んだ教会で、



 綺麗なドレスに身を包んだ礼蘭を‥‥‥。




 たくさん、笑わせたかった。




 幸せだと‥‥‥。




 これからもっと幸せになろうと‥‥。




 永遠の愛を‥‥‥誓いたかった‥‥‥‥。






 もっともっと‥‥‥一緒に生きていたかった‥‥‥‥。





 数日が経ち、教会のウェディングプランナーの人が暁の家を訪れた。


 憔悴しきった顔で出迎えた。そのウェディングプランナーの彼は礼蘭の祭壇に線香をあげると、暁と悠に向き合った。


「この度は突然のことで‥‥」

 言葉を濁して、深々と頭を下げてくれた。

 前日のキャンセルに、教会も戸惑った事だろう。

 彼は悲しげに眉を下げて、準備してきた数々を持ってきた。



 それは、2人の写真を収めたDVDだった。


 綺麗に編集されたDVDを持ってきてくれたのだった。

 そして、用意していた。結婚指輪だ。



「‥‥‥お二人の想い出の品です。私どもが編集させた物ですが、少しでもお慰めになれば幸いです‥‥。いつでも、奥様をご覧になれる様に‥‥‥。御心が落ち着きましたら‥‥ご覧ください‥‥。」


「‥‥‥‥ご迷惑をお掛けいたしました。」

 悠が丁寧に頭を下げた。暁は、それを見て鼻を啜った。



「‥‥ありがとうございました‥‥。」

 暁は、その彼に頭を下げた。

 すると彼は、涙をこぼした。顔をぐしゃぐしゃにして‥‥



「如月様がっ‥‥教会に見学に来て頂いてからっ‥‥ずっとっ‥私はっ‥‥お二方をっ‥‥お二方の式の準備をお手伝いさせて頂きましたっ‥‥‥あんなにっ‥‥幸せそうなお二人がっ‥ご新婦様が‥‥事故にあわれてっ‥‥わたしはっ‥‥‥


 ぐすっ‥‥‥如月様っ‥‥‥‥どうかっ‥‥1日も早く‥‥御心が癒されますようっ‥‥心から‥‥っっ‥‥祈っておりますっ‥‥‥奥様のっ‥‥ご冥福をお祈りしますっ‥‥‥。」



 暁が最初に教会を訪れたのは‥‥プロポーズしてすぐの事だった‥‥5月から12月までの間、彼はずっと暁の礼蘭への思いと情熱に惹かれ、全力でサポートした。


 だが、もう翌日という所で礼蘭の死を聞かされどれほど暁が悲しんでいるか‥ずっと気がかりだった。




 少し痩せ、涙に掠れた目元と頬に彼は涙を我慢できなかった。



 暁は息をする様に涙を流す絶望の日々だった。

 そんな中、冥福を祈ると、何度言われた事だろうか‥‥。



 自分はまだ‥‥冥福などと祈る事ができずにいる。

 もし、天国に行かずにいるのなら‥‥ずっと‥‥

 自分の隣にいて欲しいとすら思っていた。



 髪の毛一本すら‥‥握っていたかった。

 礼蘭の使っていた何もかもを‥‥手放したくなかった。





 その日の深夜‥忠と悠が寝静まった部屋で1人、そのDVDを再生した。



 2人の好きな曲のイントロが流れ始めて、愛を歌いながら移り行く写真。そして、2人がウェディングドレスを選ぶ様子、ウェディングフォトのイメージを話し合ってこうしようああしようと、2人で会話する音声が流れてくる。



「‥‥‥‥っ‥‥‥ふっ‥‥‥‥。」



 映像の中で、礼蘭の声が聞けた。

 カメラに向かって笑ったり、遠目から2人で映りいつもの様にくっついていた2人が、幸せそうに寄り添って笑っている。ときおりふざけたような2人の姿が映り、大きな声で笑い‥‥‥式の行程を確認し、その通りに動いて笑う。



 誓いのキスは、フリで良かったのに、暁は礼蘭にキスをした。

 それにみんなの笑い声が入り、恥ずかしそうに笑った礼蘭が映る。



 その顔を見てると、久しぶりに口角が上がった。



 涙はたくさん出るけれど‥‥‥礼蘭の顔を見てると‥‥微笑んでしまう。




「礼蘭‥‥‥。」



 呼びかけても返事は来ない。



 振り返る美しい笑顔は、映像の中の過去の自分に笑っている。




「っ‥‥れいらっ‥‥‥‥。」




 最後は俯き、ガックリと肩を落とした。


 祭壇の行燈が、ほのかに光る。



 遺影の礼蘭も、映像の中の礼蘭も‥‥‥‥




 今の暁に返事はない‥‥‥。





 繰り返し再生しては‥‥また、愛しい声と礼蘭の笑顔にずっと呼びかけた。




 幸せそうな自分に‥‥嫉妬しながら。





「っ‥‥置いてかないで‥‥っ‥‥‥ずっと‥‥‥ここに居て‥‥っ‥‥天国なんて‥‥行かないでっっ‥‥‥」



 片手で両目を覆って、鼻を啜り泣き続ける。



「会いたいっ‥‥‥っっ‥‥礼蘭の居ない人生なんてっ‥‥俺はいらないっっ‥‥ごめんなっ‥‥‥っ‥‥‥。」



「弱くて‥‥っ‥ごめんなっ‥‥‥。」



 暗い部屋を灯す行燈と、テレビに映る礼蘭がただ笑顔でこちらを見ていた。



読んで下さりありがとうございました。

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