星が降ってきた
アレキサンドライト帝国が平穏な毎日を取り戻し、ロスウェル・イーブスの爵位授与式が執り行われた。建国祭で明かされた魔術師の存在は貴族達の中で大きな衝撃が走ったが、これまでのいくつもの功績が述べられ、異義を唱える者は居なかった。
また、魔術師達は大公家となったが、帝国の政治に直接関わる事なく、皇族の盾であり、これまでと同様に皇族を支える存在であるとはっきりとした線引きをされたのだった。これまで皇族以外の前に姿を現す事が出来なかった4人も堂々と姿を出せる様になった。が、まだ一歩踏み出せないで居るのが現状だ。
そして、ポリセイオからきたレオンは、元々帝国にいた魔術師として同じく爵位授与の際同席した。後にテオドールから直々に皇族マナーを学び、3ヶ月経った頃レティーシャ女王が持ち直したポリセイオと帝国の今後の友好の証と不戦条約を結ぶ婚姻と表されポリセイオへと帰ることになった。
ハリーとレオンの関係は気まずいものだったが、穏やかなレオンの人柄はハリーの心をゆっくりと包み、ぎこちなさが減っていき普通とまではならずとも、ハリーはレオンを受入れた。そして、ポリセイオに発つ時には、女王とも会えるようにと、約束を交わしレオンはポリセイオに帰って行ったのだった。
時は5月に入り、結婚式が秒読みとなった。
テオドールは相変わらずリリィベルを溺愛し、2人は愛を育んだ。ポリセイオの事件から時が経ち、リリィベルも落ち着いたように見えていた。
妃教育を終えたリリィベルは、テオドールの執務の間は、刺繍や本を読むなど以外は、皇后と一緒にいる事が増え、いずれ皇后となる身として側で本格的に学んでいる。
夜はテオドールと過ごす毎日、婚約からのこれまでが嘘のような平穏な日々だった。
そして、結婚式まで1週間前になった。
2人の結婚式は帝国にある歴史あるアルテ神殿で執り行われる。
あの身も心も浄化されてしまいそうな清らかな神殿。
神殿の見取り図を基に色とりどりの花とレースのカーテンヒラヒラと壁に施され2人を迎えるように奥から入場口へ続く。
そして、当日は大公であるロスウェルが施す魔術でとびきりの演出がされる事となっている。
どんな演出かは新郎新婦の2人には内緒だ。
胸をときめかせている皇后マーガレットはこの所とても上機嫌で笑顔が絶えない、
リリィベルの私室で、マーガレットとリリィベルはゆったりとティータイムを過ごしていた。
「リリィのウェディングドレスは本当に綺麗に仕上がって良かったわ。あんな素敵なドレスはないわね。」
鼻歌でも歌い出しそうなマーガレットをリリィベルはニコッと微笑んだ。
「これもお義母様のお力があってのことです。ティアラもお義母様自らデザイン画にしてくださって‥‥完成してみた時は、本当に思わずうっとりしてしまいました。お義母様はデザイナーとしての才能をお持ちですね。」
「ふふふ、ありがとう。貴方達の婚約が決まって、私ったらすぐに色々先走ってしまって、色んなティアラのデザイン画を見せてもらったのだけれど、どうにもしっくりこなくて‥‥。あなたが気に入ってくれてとても嬉しいわ。」
「愛するテオのお義母様が、花嫁になる私に作って下さった物を喜ばないはずありません。本当に素敵なティアラです。
それに合わせるネックレスもおかげですぐに決まりましたもの。」
「とうとうなのね!本当に、あなたが私の娘になるのね。」
マーガレットは、リリィベルの両手を包み心からの笑顔を浮かべた。
「本当に楽しみね!‥‥テオの事、宜しくお願いね。
あの子は、本当に私の宝物なの‥‥オリヴァー様とのかけがえのない子だもの。2人で幸せになってね‥‥。」
少し涙ぐんだマーガレットに、リリィベルは笑顔を返した。
「もちろんです。お義母様‥‥私はテオと‥出会うために‥‥この世に生まれたのです。」
その笑顔で隠した。ずっと続いていた。
時折訪れる頭の痛み。
テオドールといると和らいだ。落ち着く心に比例するように。
毎夜見る夢が、この痛みの原因だと知りながら‥‥。
テオドールには言えなかった。
分からなかったからだ。なぜなのか‥‥
ただの悪夢だ。
けれどこの痛みはきっと、治癒魔術では消えないだろう。
食事も出来た。日常生活に支障は無かった。
だが、ふと頭を過ぎると、ひどく頭が痛んだ。
そして、苦しかった‥‥。
まるで崖の淵に立たされたようなこの身体だった。
ポン‥と背を押されたら落ちてしまいそうな気分だった。
先日、夕食後の2人の時間にテオドールは尋ねた。
「リリィ、俺に何か言いたいことはないか?」
「‥‥え?」
「あのさ‥‥お前無理してないか?どこか体調は悪くないか?」
心配そうな暁色の瞳がリリィベルを見ていた。
「最近少し食事の量が減ったろ?」
「あぁ‥ウェディングドレスの為に少し野菜と果物が多くなっただけです。体型を崩す訳にはいきませんもの。」
ソファーで寄り添った体勢から、リリィベルはテオドールの首にぎゅっと腕を回した。
「他には‥‥?何か我慢してることはないのか?」
「なぜそう思われるのです?」
「なんつーか‥‥‥匂い?」
「匂い‥‥?」
「なんとなく?」
「‥‥‥ふふっ。心配し過ぎですよ。」
テオドールは、鋭い‥‥。私の些細な事だけで、異変に気づく。
例えば少し、髪を耳にかける仕草に人差し指でこめかみを押さえただけで‥‥。頭が痛いのかと聞かれた。
ほんの少し指の関節で押したけれど、正解だった。
ベッドで胸を優しく包んだ手で、跳ねた私の体を見ただけで、それは、擦れるだけで痛みが走った女特有のものだった。それでも彼はピタリと手を止めて痛かったか?と尋ねた。愛撫に反応した訳じゃないと気付くのだ。
最近食事が変わったのも、痛みで食欲が湧かないせいだった。
口で言っても、敵うはずがないから‥‥‥
彼の顔を胸に抱いて、そのまま時を流した。
彼をベッドに導いて、私はこの痛みから解放されたくて。
彼に包まれ、彼に触れられ、彼に揺らされているだけで痛みなんてどうでもよくなる‥‥。
真剣で、我慢している顔がたまらなく愛おしくて、
あなたも何か隠すように快感の中で我慢している顔を見ると、同じ気持ちなのかと錯覚する。
それをじっくり見られるように、はしたなく彼の上に乗り彼の顔を眺める。熱くて激しい彼から漏れる吐息。
私の腰を掴む熱い両手。
私が揺らす波に、彼が顔を歪めるの。
隠してもダメよ‥‥‥。
あなたと同じように、私も目の前に星がチラつく。
チカチカと、終わりに近づくごとに。
2人の目の前に、星が降ってくる‥‥‥‥。
揺れた身体で彼を見下ろして、濡れた髪を掻き上げた。
彼の眼差しに映る私は、今どんな顔をしている?
「苦しい‥‥‥?」
「‥‥っ‥‥あぁ‥‥‥。」
顔を歪ませて、彼は返事を返した。
彼の体に流れ落ちるこの髪でも、彼を刺激したい。
「痛く‥‥ない‥‥‥‥っ‥‥?」
「そんな訳っ‥‥‥、もう‥‥‥頭がっ‥おかしくなりそうだ‥‥っ‥‥‥。」
その言葉を聞いて、うっとり笑った。
苦しくない。
痛くない。
彼の言葉は魔法のようだ‥‥‥。
そう言われて、私も‥‥少しも痛くない。
彼と繋がるこの瞬間は、彼だけ全部。
私とあなたは、何もかも一緒よ‥‥‥‥。
「リリィっ‥‥‥‥。」
ほら、早くきて‥‥‥‥
私を‥‥この痛いほどの愛を受け止めて、
その唇で愛してると言って‥‥‥。
読んでくださりありがとうございました!




