ほら言ったじゃない
バサバサっと魔塔の本棚の本が崩れ落ちる。
ロスウェルはこんな屈辱や怒りを感じた事はなかった。
「くそっ‥‥‥」
悔しい‥‥‥
この城で育ち、今の今まで歴代の筆頭魔術師を超えると自負していた自分が情けない。
得体の知れない、こんなすべてをすり替える魔術だなんて、
そんなものはここに居た魔術師達は知らない。
もちろん、自分もだ。
自分が知らない魔術を知る魔術師が、他国に、
いや、ポリセイオに存在する。
そんな事は聞いたことが無い。
大規模な事実の捻じ曲げる魔術だなんて‥
「リリィベル様っ‥‥‥。」
あれ程守ると誓ったのに、最大級の守りを施したアンクレットを渡したのに‥‥。
あれがある以上、死んだりしてはいないはずだ‥‥。
だが、自分の魔術の痕跡が辿れない。
また一つ、一つと慌てて開いたのは禁術に値する物も含めた。
そして、リリィベルに扮した生気の感じられない人形の様な者が存在している。
あれは、アリアナの死体を造った物に似ている。
自分が守る対象である皇太子の婚約者を生きる屍の様な者が動いている。
アレを見たら‥‥テオドールは‥‥‥
アレキサンドライト帝国の人々の記憶を‥‥。
どうやって‥‥‥。
「ねぇ、テオはどうしたのかしら‥?」
ドレッサーの前で、レリアーナ王女はベリーに話しかけた。
「遅いですね‥舞踏会はもうすぐですのに‥‥。」
「うーん‥‥‥。」
首を傾げたその表情は、心底不思議そうだった。
完璧なはずなのに‥‥‥。
「殿下‥‥。殿下!!!!」
「なんだっ」
ハリーとテオドールは姿を消して城中の部屋を探し回った。
「部屋を探し回った所できっとみつかりません!!」
「なぜそう言い切れるんだ!!!」
バァン!!と大きな音を立てて空き部屋のゲストルームを探し歩いた。
ハリーは走り回った汗を垂らしてテオドールの肩をやっとの思いで掴んだ。
「そんな見える場所にいるなら苦労しません!
それに仮に今の私達の様に姿を見えない様にしているとしたら我々が気付けます!」
「じゃあなにか?天井裏でも探せと?!」
「そうじゃ無いですけど!!」
「他にどうすりゃいいんだよ!」
ハリーはグイッとテオドールの体を自分に向かせた。
「殿下!リリィベル様の部屋が空いたら、その部屋へ行きましょう!痕跡が残ってるかも知れません!」
「‥‥根拠は‥?」
「リコーが魔術展開で追い出されたという事は、そして当たり前の様に王女がいるあの部屋に魔術の跡は残ります。それに、本人の思念がある部屋の方がよりリリィベル様に近づけます!それだけでも行く価値があるでしょう?!」
「‥‥っ‥それじゃっ‥‥建国祭であの女が俺の婚約者として表に出ちまうっ‥‥。」
「それは諦めて下さい!今はリリィベル様を見つけるのが先です!あのアンクレットがある以上生きておられるのは確実です!!ロスウェル様の魔術は誰も敗れません!」
「っ‥そ‥‥うかも知んないけど‥‥‥。」
頭が混乱して上手く働かない。テオドールは悲痛な表情でその場に立ち尽くした。
「‥‥殿下、俺を信じて下さいっ‥‥‥」
ハリーの真剣な瞳がテオドールに突き刺さる。
「‥‥‥‥‥。」
テオドールは自分の左手をギュッと握った。
その指にある大切な指輪を守る様に。
リリィ‥‥‥
お前は今‥‥どこにいるんだ‥‥‥。
「テオはどうした?」
「それが‥‥一度姿を見せて頂いてから戻って来られなくて‥何か問題でも生じたのでしょうか‥?」
皇帝オリヴァーと皇后マーガレットはレリアーナ王女は舞踏会が始まる数分前で、大ホールに続く皇族の扉の前に居た。
「‥‥テオが貴方に何も言わずに来ないなんて‥」
「何があったのなら私にも連絡が来るはずだが‥‥。」
オリヴァーは顎に手を当てて考え込んだ。
そういやロスウェルがさっき慌ててやって来たが、
何も分からなかった。
オリヴァーはレリアーナを見て首を傾げた。
「ん‥?レリィ‥‥?」
「はい?」
「指輪はどうした?」
レリアーナは咄嗟に指を隠して目を逸らした。
「っ‥‥‥あ‥‥‥えと‥‥‥。」
「傷を付けたくなくて‥ロンググローブの下に‥‥。」
「黒いレースのグローブで問題なかったはずじゃなかったか?」
「‥‥テオが肌が見え過ぎるからと、この白いロンググローブにして欲しいとおっしゃったものですから‥。」
「はっ‥‥そうか、言い兼ねないな。直前になって嫌になったのだな。」
「その様です‥‥。」
話を聞いて笑ったオリヴァーにレリアーナも微笑んで返した。
「お分かり頂いて良かったです。陛下。」
オリヴァーの両肩に手を置き、そう口を開いた。
「テオ!遅かったじゃ無いか。何かあったのか?」
そこには、キリッとした眼差しで笑みを浮かべるテオドールがいた。
「‥‥テオ、心配しました。大丈夫ですか?」
「もちろんだ。問題ない。」
レリアーナが心配そうにテオドールを見上げた。
見つめ返すテオドールの表情は至っていつも通りだった。
「大切な指輪だからな。傷を付けたくない‥‥。
今日も綺麗だ。」
「ありがとうございます。テオ‥。」
レリアーナは安堵の笑みを浮かべた。
「‥‥‥‥‥‥さぁ、そろそろだな。」
テオドールはニヤリと笑みを浮かべた。
「はっ!‥‥‥殿下!」
「なんだ。」
皇太子妃の部屋に向かう間、ハリーは少し笑みを浮かべた。
「殿下に扮したロスウェル様からです。王女は指輪をしていません!アンクレットも無いですし、リリィベル様が持っています!」
「あぁっ‥‥‥よかった‥‥‥。」
片手で顔を覆ってため息をついた。
あの指輪は、大切な物だ。
リリィベル以外の人間の手に付けられるほど憎らしい事はない。
あれは前世からの大切な指輪。
そして、この世でも互いに持ち、同じく婚約指輪もある。
「あっ‥‥ひょっとしてピアスも?」
その問いに少し黙ったハリー、ロスウェルに確認している。
「‥‥ピアスもです。王女にはピアスの穴も開いてませんから。イヤリングです。」
「では、指輪もピアスも、アンクレットも全部リリィが持ってる‥‥‥。」
大切な物一つ一つ、ちゃんと持ってくれている。
それだけでも希望が差した気分だった。
あとは、本人を見つけること‥‥‥。
「皇帝陛下、皇后陛下並びに皇太子殿下、レリアーナ王女様のご入場です。」
いつもの様に煌びやかな皇族の扉から皇帝の後を続き会場入りする。
皇太子は、白い手袋を付けて腕を出しレリアーナ王女のエスコートした。
「‥‥‥テオ‥‥」
「なんだ?」
「何故‥あなたまで手袋を‥‥」
その問いかけに涼しげな表情で微笑み皇太子はレリアーナを見た。
「お前も付けているんだし、お揃いだ。問題ないだろ?」
「ですが‥‥あなたはいつも手袋は‥‥」
「特に意味はないぞ?そんな事は気にせず、行こうか?」
皇太子は穏やかな笑みを開かれた扉からホールに集まる貴族達に向けた。
「‥‥‥えぇ、そうですね‥‥‥。」
レリアーナは、最高にゾクゾクする様な思いで笑みを浮かべた。
扉の向こうに広がる煌びやかな世界、
皇太子の婚約者として踏み出す足は今にも踊り出しそうだ。
羽が生えたように軽かった。
ほら、言ったでしょう?
建国祭で、あなたの隣に居るのは‥‥‥
あなたを最も愛する、私だと‥‥‥‥
その為に‥‥‥私はどんな苦痛にも耐えたのだから‥
「テオ‥‥‥愛しています。」
「‥‥‥‥ふっ。耳にタコが出来そうだ。」
その笑みが、完璧な皇太子の仮面そのものだった。
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