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昼食は軽めがいいのに

 玄関先で各国要人達を迎えたテオドールとリリィベルとは別に、玉座の間にて皇帝と咬合が各国の要人達を歓迎した。


 最も友好的であるメテオラ王国のオスカーとシリウス。

 サーテリア王国のジュエル王女とザカール小侯爵。

 アルセポネ王国の王太子、ミカエル王太子。

 そして、ポリセリオ王国のレリアーナ王女とモンターリュ公爵。


 皇帝の前では皆が貴賓あふれる態度で挨拶を終えた。

 中でもレリアーナ王女とモンターリュ公爵については初めて会うにも関わらず好印象だった。


 控えめで物腰優しいレリアーナ王女と公爵。

 これまで交流がなかったのが惜しい程だった。

 養女が後継者となるのは珍しい事だった。



 豪華なダイニングルームに長いテーブル。

 各国要人達と共に帝国の皇族達の軽めの昼餐会は始まった。


「我が帝国の建国祭にきてくれた事を感謝する。」

「お招き頂きありがとう御座います。両陛下。」

 メテオラ王国のオスカーが先に口を開いた。

「オスカー王子、メテオラの王は息災か?」

「はい、陛下、両陛下に心よりお祝い申し上げると。」

「そうか、ありがとう。オスカー王子は来年18になるのだろう?」

「はい。そして正式に第一王子である私が王太子となります。戴冠式には是非、テオドール皇太子殿下とリリィベル様に我が国へ来て頂ければ‥」

「そうだな、来年の春には2人は結婚式を執り行うが戴冠式はいつ頃だ?」

「来年の夏に予定しております。」

「そうか、良かった。実は2人の結婚式は夏の予定だったのだが、春に早まった。問題ないだろう。」

「そうだったのですね。」


 笑顔で話を交わす最中、アルセポネのミカエル王太子が口を開いた。


「問題なくメテオラまで行けるのでしょうかねぇ?」

「ん?どう言う事だ?」

 皇帝が何の気なしにミカエル王太子の方を見た。

 ミカエル王太子はテオドールを見てニヤリと笑った。

「だぁって、春に結婚式でございましょう?夏にはお妃様はご懐妊されてもおかしくありませんから。ね?テオドール皇太子。」


「まぁ、有り得なくもないが。」


 涼しい顔をしてテオドールはさらっと返し、目の前のサラダにフォークを入れた。

「ちょっ‥‥殿下っ‥。」

 リリィベルが恥ずかしそうに隣に座るテオドールの腕を軽く叩いた。


「そんなの分からないじゃないか。本当の事だろう?

 春から夏なら十分分かる頃だし‥。」

「なっ‥‥なっ‥‥‥。」


 テオドールはポカンとしていた。これはごく自然のことだ。

 健康な男女が励めば懐妊はすぐだろう。周期も把握しているテオドールは、コウノトリを迎える時期を容易く導き出すことが出来る。前世は看護師だったから、知らないはずもない。


「あははっ、では成り行き次第ですね。」

 シリウスがオスカーの隣で微笑んだ。

「お2人は本当に仲睦まじいご様子ですから。」

 そう言ったのはこの爆弾を放り投げたミカエル王太子であった。


「そうねぇ、私も早く皇太子とリリィベルの子がみたいわぁ」

 いつでも朗らかな皇后は待ち遠しいと笑顔でそう言った。

「すぐですよ。陛下。」

 テオドールは何の迷いもなく母に笑顔で告げた。

「まぁ!楽しみね!」


 リリィベルだけが、恥ずかしそうに瞳を閉じた。

 だが、嬉しくない訳じゃない。恥ずかしかっただけだ。


「では、ご懐妊中の間の夜伽の為に、側室を置かれるのですか?」

「なんだと?」

 爆弾を投下したのは、ジュエル王女だ。

 テオドールは眉を顰めて王女を見た。


「我が国では王妃の妊娠中は側室をとるか、夜伽の女性がおりますのよ。」



「ああ‥‥サーテリアの王族は子沢山だったわね。」

 皇后は口角だけあげた。その目は笑わない。


「だからと言って側室に産ませる子と王妃が産む子にはしっかりと線引きされておりますのよ?王が健やかであることが王妃の願いでも有りますし。我が国では珍しい事ではありませんの。」


 さも当然の様にジュエル王女は言った。爽やかな果実水を飲んで。


「そうなのね。いつ聞いても不思議な王国だわ。別世界の話を聞いているようだわね。」


 皇后は気分だけでも爽やかになりたくて果実水を飲んだ。

 決して表に出せないが、こんな所でそんな話をすると言う事は、テオドールとリリィベルが結婚し、懐妊しても側室を持てばいいと言っている。そしてその相手は自分だと‥‥。次の言葉が手に取るように分かった。


「私は我が国がその様な文化で有りますから、当然受け入れられますわ。私は後継者ではありませんし、いつでもお待ちしております。ああ、第二皇太子妃というのもいいですわね。私は王女ですもの。」


「‥‥‥」


 ほら見たことか。とアレキサンドライトの皇族は胸の中でつぶやいた。リリィベルとしても、表情には出さずとも呆れてものを言う気にもならなかった。まだ結婚も妊娠もしていないのに、その時は側室に迎えろだなんて。


 ジュエル王女は後継者ではない。ただテオドール目当てでこうしてアレキサンドライト帝国に足を運んでいるのだ。


 オスカーとシリウスは2人黙ってサンドイッチをパクリと食べた。オスカーの戴冠式の話が思いもよらない方向へ急速に進んだ。爆弾を投下したミカエル王太子はその話をニコニコしながら聞いていた。ザカールに至っては聞いているのかすら分からない。そしてポリセリオのレリアーナ王女とモンターリュ公爵は、皇太子を見た。


 皇太子は真剣な眼差しでジュエル王女を見た。


「私は生涯側室を持つ事はないだろう。そして、リリィ以外の人間を隣に置くつもりはない。万が一リリィと離れてしまっても同様だ。つまり私の代で皇族の血は途絶えるだろう。帝国には優秀な家臣もいる。誰かに皇位をついでも構わない。」


「なっ‥おいっ」


 テオドールの言葉にオリヴァーが冷や汗を流した。

 そんなオリヴァーにテオドールはスッと目を向けた。


「私の決意がお分かりいただけますよね、陛下。

 私は幼少期から申しておりました。自分が望まぬ結婚は決してしないと。側室などバカバカしい‥‥。サーテリアの文化は性に合わない。」


 そう告げるとまた一口とサラダを口にした。

 本当は吐きたくなるほどの思いだった。


 けれどそんなテオドールをジュエル王女はうっとりと笑って見ていた。


「うふふっ‥そういう所も殿下の魅力ですわね?ますます素敵になられますのね。」


「‥‥‥‥。」



 この王女と会話が噛み合うことなど一生ないだろう。


「そっ‥まぁっ‥‥あのっ‥‥‥私の戴冠式の話はまぁ‥


 近くなったら、お知らせ致しますので‥‥‥。」


「えぇ!はい!その時の状況で!!ね!皇帝陛下!」

「あぁ!そうだとも!!とにかく、喜ばしい!!」


 なんとか持ち直したいメテオラ王国の王子2人と皇帝がそう言った。皇后も張り付けた笑顔で頷いた。



「‥‥‥‥なぜ、貴方は何もおっしゃらないのかしら?」



 ジュエル王女が空気を一刀両断し、リリィベルへ向けた。

「‥‥‥‥‥。」

 そんな王女にリリィベルはまっすぐな瞳を返した。



「私は殿下のお心に従いますわ。」

「どういう意味?殿下がもし側室を持ちたいと言ったら受け入れると?」

 意地の悪い垂れ目がリリィベルを鼻で笑っていた。


「いいえ?ジュエル王女。聞いておりませんでしたか?

 殿下は、一生私以外は娶らぬと申しておりました。

 そのお心に従うと言う意味です。殿下のお心は揺らぐ事は御座いません。」


「‥‥‥‥人の心なんてわからないわ?ましてや一目惚れ程、冷めやすい事はなくってよ?」

「ふふっ‥‥‥。サーテリアの文化を思えばそう思うのも無理はございませんね。ここは皇帝陛下と皇太子殿下の国です。ここはサーテリアではありませんもの。私は常日頃両陛下と殿下を見ております。ですので、何も言う事はありません。どんな反応を期待しているのかはわかりませんが、王女はアレキサンドライト帝国の文化にはきっと合いませんわ?


 まるで、殿下を自分のものにしたい様な口振りですもの。

 そういう方の方が、嫉妬に燃えてしまうのではと心配です。



 大丈夫ですか?ジュエル王女。」


「ふふっ‥‥それこそ、見当違いですわ。」


「なら良いのですが‥‥側室を迎える日等来ない。とだけ、

 言うとしたらそれだけですわね。」


 そう言って果実水を飲んだ。そして、にこりと笑ってジュエル王女を見た。


「城の料理人はとても腕が良いのですが、サーテリア出身の王女様のお口には合いまして?」


「‥えぇ、とても‥‥毎日食べてもきっと美味しいでしょうね。」

 相変わらずジュエル王女の笑みは変わらなかった。


「では滞城中、是非ともお楽しみくださいね?


 殿下、お飲み物をお注ぎしますね。」

 そう言ってリリィベルは自らテオドールのグラスに果実水のボトルを向けた。


「ああ、ありがとう。リリィ。」

 テオドールは愛し気に微笑んでグラスを手にした。


 注がれるのは飲み物だけではない。リリィベルの愛情だ。

 その行動一つだけで、2人の仲は知らしめることが出来る。

 愛ある瞳はお互いだけに注がれるのだから。



「リリィベル様、僕にも一杯頂けるかな?」

 そう言ってグラスを向けたのはミカエル王太子だ。


「ええ、是非。」


 ミカエル王太子は楽しそうに聞いていた。

 ミカエル王太子が投下した爆弾は、ただミカエル王太子が楽しむだけのものだけではなかった。


 果実水を注ぐリリィベルの伏せ目がちの眼を見てミカエル王太子が嬉しそうに微笑む。



 王太子である彼はとんだ策士だった。

 国同士の繋がり、この会話だけで帝国の皇太子と後に皇太子妃となるリリィベルを観察したのだった。


 ミカエル王太子の収穫は、彼だけのものだ。



 ポリセリオ王国は一連の流れを見ていただけだった。


 そして、もう1人沈黙していた。ジュエル王女の横顔を見ていたザカール小公爵の眼が冷たく揺れたのは誰も知らない。


読んで下さりありがとうございました。

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