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ちいさな葛藤

 建国祭、12月31日は特別だった。


 同盟国の使者達が、アレキサンドライトの城へやってくる。

 リリィベルは朝から忙しかった。

 前日の夜、テオドールの腕の中で眠りにつけたのは真夜中の1時をまわる頃だった。テオドールの腕に包まれてすぐ眠りについた。そして今日の朝、睡眠不足な身体で入浴から朝は始まった。


 花が浮いた湯に浸り、寝不足で少し浮腫んだ身体をマッサージされる。香油をつけて念入りに髪を梳かされた後は、ドレスに着替えて髪を結い、テオドールから贈られたアクセサリーで全身を更に飾り付ける。それくらい今日も特別な日だ。


 初めて会う同盟国の使者達に、皇太子の婚約者として同席し妃教育で培った知識で皇太子の補助をする。

 とはいえ、テオドールは補助が必要な訳じゃない。

 これから先、皇帝と皇后となる自分達の試練。

 今後も円滑に、同盟国と仲良くしていくために堂々たる姿を見せることが重要だ。

 来るのは王女や公女。テオドールは王子や公子の相手をする。だが、誰よりも位の高い帝国の皇太子テオドール。

 そんな彼の婚約者となったリリィベルは責任を重く感じていた。


 お出迎えから戦いは始まる。ランチタイムは皇族達と使者達と過ごし、舞踏会でも話し相手をしなければならない。

 皇后陛下も一緒だが、皇后を立て、王女達を立て、けれど自分を不必要に下手にでることは許されない。それは皇太子の株を下げることにも繋がる。帝国の皇太子の婚約者として、軽んじられる事がない様、示さなければならない。今まで北部の辺境伯の娘として育った自分。

 他国の王女や公女は産まれながらにして位が上だ。

 だが、その為の妃教育を積んだのだ。きっと成功させてみせる。それがテオドールの為になる事だ。



「‥‥うーん‥‥」

「リリィベル様、今日もお美しいです。」

 鏡の前で左右に体を捻り念入りにチェックする。


 着付けたメイド達はたいそう満足気だった。

 今日は長い髪を上品に結い上げて首元を出した。後毛で大人っぽさを演出し、イヤリングが揺れる度に光る。

 シンプルなドレスだが、生地は最高級であるし、あまり飾りがない分、帝国のアレキサンドライト宝石の首飾りが首元を輝かせる。そして何より裾に向けて宝石を散りばめた糸の刺繍。帝国の皇族専用の仕立て屋の腕が存分に発揮された美しい品のあるドレス。リリィベルの装いは正に美しかった。



「リリィ?支度は出来たか?」

「テオっ。どうですか?」


 続き部屋からやってきたテオドールに、リリィベルは心配そうな顔でくるりと回ってみせた。


 何をそんなに心配そうな顔をしてるのか、テオドールには理解できなかった。女神が嫉妬する程の女神が、目の前で回った。テオドールは女神に吸い寄せられるように近付いた。


「リリィ、綺麗過ぎて逆に心配だ‥‥俺のそばを離れないでくれよ?誘拐されそうだ。」

「何をおっしゃって‥‥」


 今度はテオドールが心配そうな顔で、何かと戦っている。

「ああ‥‥誰にも見せたくねぇ。でも見せつけてぇ‥

 俺の妃は女神だって‥‥苦しい選択だ‥‥。」


「表に出さないおつもりですか?」

「うぁー‥‥‥お前に惚れるやつが出てきたら戦争になる‥」


「そんなことありませんっ‥精一杯強そうに‥‥今日は大人で品がありあなたの婚約者は負けないぞと言う心持ちで髪も結い上げたのですっ‥」

 リリィベルのその言葉は真剣だった。だがテオドールはその真剣な思いがズブズブと胸に突き刺さり、最早その訴えですら女神の誘惑だった。


「そのうなじが俺を誘ってやべぇ。」


 テオドールはスタスタと足早に近づき、その細い腕を掴むとリリィベルの首筋に唇を寄せた。


「殿下。」

 パッと制止された。その腕はベリーだった。


「おおっ‥さすがだなベリー‥危うく跡をつける所だった‥‥やりてぇけどまずいよな。」

 我に返りベリーを横目に頬を染めた。

 ベリーがにっこり笑ってテオドールに告げる。

「本日の装いでは隠しようが御座いません故、ご理解下さい。」


 ベリーはいつもと変わらぬ笑顔だった。

 こんな風に出来るのは両親をおいてベリーくらいだろう。


「だが首も肩も出過ぎじゃないか?ショールは?

 寒いんだからあるんだろ?」

「もちろんです殿下。」


 そう言ってリリィベルの肩に薄いが暖かい毛皮のショールがかかる。

 それを見てテオドールは更に心配になった。ガン!と後頭部が何かに打たれたようにその姿も衝撃だった。


「羽衣か?俺の妃はもはや人間の域を越えた‥‥」


「恥ずかしいですっ。」

 頬を染めて肩から流れ二の腕に掛かるショールを掴む姿が妖艶だった。


「やば‥‥‥。」

「殿下!?」


 花に寄せられる虫になった気分だ。

「なりません!!!!!」

 ベリーの声が現実に戻してくれる。


「うぅぅぅぅぅ‥‥‥」

 リリィベルの両肩に手を置きテオドールは項垂れた。


「これはやっぱ‥‥綺麗すぎるっ!!」

「テオっ‥」

「おいっ、ベリー髪を下ろして‥」

「そんな時間は御座いません。」

「だがっ」


「テオ‥‥ご不満ですか‥‥?」

 リリィベルの悲し気な表情が、テオドールを困惑させる。

「いやー違うっ、そうじゃない。お前のそのあげた髪はもぉたまんねぇーけど、心配なんだ。」


「無用な心配ですよ。テオ、あなたのそばにおりますから。

 あなたの目に美しく映ればそれで良いのです。私は合格ですか?」


「合格もなにもお前は世界の誰より綺麗だろ‥‥」

「ふふふっ嬉しいです。」


 吸い寄せられる2人にパッと入り込んだベリーだった。


「お2人とも‥どうか、正気をお保ち下さいませ‥」


「おおぉ‥‥ベリー‥‥お前‥お前は歳を感じさせないな‥‥」


 オリヴァーから仕えていたメイド長だ。

 歳もとったのにこの動き。


「お褒めに預かり光栄です。殿下。」

「はぁ‥‥‥では、行くか‥‥‥」


 挑む気持ちでテオドールはリリィベルの手を取った。


 この女神が使者の心をどう掴むのか気が気ではなかった。

 本気でそう思った。なんせ披露してからとんでもない金額で狙われた女だ。もはや歩く宝石、いや伝説の女神‥



 隣を歩く女神にテオドールはゴクっと喉を鳴らした。



 大した化粧をしてないのは分かる。ただ少しいつもより本人曰くの強い婚約者に映るようにとした化粧はとんでもなく映えていた。


 だとしたら自分はもう降参だ。綺麗過ぎて土下座したくなる。彼女が本当に女神でステンドグラスに創られた存在だとしても愛せる自信があった。礼蘭と変わらずその時も唯一無二でもちろん綺麗だったが、時代が時代なのだろうか。この世界のリリィベルはやはり女神の域だった。



 同盟国、そしてポリセイオ王国からの使者の前に女神が降臨するまで、あと少し‥‥‥



読んで下さりありがとう御座いました!


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