ご来場の方々
「お父様!」
「リリィ!」
テオドールとリリィのダンスの後、皇族席の元へダニエルがやってきた。
リリィベルが思わず席を立ち嬉しそうに駆け寄り、ダニエルの胸に飛び込んだ。
「殿下の婚約者がそのような・・・。」
「あっ・・・ごめんなさい・・・・。」
うっかりと娘モードに戻ってしまったリリィベルが眉を下げて笑った。
ダニエルもそんなリリィベルに困った顔をしながらも嬉しそうだった。
「ブラックウォール侯爵。」
「殿下。」
新たな爵位で呼び、皇太子は笑って側へ歩み寄った。
ダニエルは頭を下げた。
「気楽にしてくれ、ここは舞踏会とはいえ、私の義理の父になるのだから。」
「いえ殿下・・・。」
「ははっ・・・では、舞踏会が終わった後はどうか楽にしてくれ、そなたが来るのを楽しみにしていたのだからな。越してくるのが大変だっただろ?」
「ははっ・・・とんでもございません殿下。」
「北部の騎士団と皇室騎士団はうまくやれているだろうか?」
「はい。早めに殿下が騎士団の方々を北部へ送って下さったおかげで、すっかり打ち解けておりました。」
「そうか。第二騎士団の中で、そなたらブラックウォールに信仰心のある者が居てな。
レイモンドが迷惑をかけていないか心配だったのだが・・・・。」
「いいえ、レイモンド卿は我々の騎士団達に敬意を表して下さり、皆レイモンド卿を歓迎しております。
もちろん、他の方々もそうです。」
「そうか・・・。そなたらが離れても北部はブラックウォールの名を継ぐ。これまで北部を守ってきたアドルフ辺境伯への感謝の気持ちだ。もちろん、そなたにも・・・。」
「光栄で御座います殿下。」
「帝都の元ヘイドン領地も最早ブラックウォールだ。そなたが居れば安泰だろう。」
「ご期待に添えるよう、精進して参ります。」
「新しい領地はどうです?屋敷は落ち着いたか?」
「はい殿下。北部の家の様に改装致しました故、さほど変わらず過ごしております。
ただ、この冬に、帝都は暖かいので。」
「北部との寒さは違うだろうな。」
「はい。移り住んだ我が屋敷の者たちは皆、驚いております。」
「ははっそうか。」
「ねぇお父様?私の部屋を作って下さったの?」
「いくら必要はないとは言え、リリィの部屋があると思うと私も嬉しいんだ。」
「嬉しいわ。私の家具もすべて?」
「ああ。」
「ふふっ今度新しいお屋敷を見に行くわね!」
そういうリリィベルの両肩にそっと手を乗せてテオドールは微笑んだ。
「それは俺も是非見に行きたいな?タウンハウスしか見た事がないから。君の幼少期から使っていた部屋が再現されているそうだし。」
「殿下、是非いらして下さいませ。」
「ふふっ北部じゃないのに、なんだか不思議ね。」
「屋敷はほとんど似たような作りだし、内装を変えただけでそっくりそのままだよ。
領民も温かく私達を迎えてくれた。」
「名高いブラックウォール侯爵が領主となったんだ。民は安心だろう。母君も馴染んで下さればいいが。」
「はい。アナベルの好きだった庭園にも出来る限り近付けました。きっと喜んでいることでしょう。
なにより、リリィの側に居られるのです。喜んでいるに違いありません。」
「侯爵となったあなたには、防衛省の指揮を任せたいと思っている。頻繁に城へくる事になるから会いたい時に会えるな。リリィ?」
「はい。殿下。ありがとう御座いますっ」
リリィベルは本当に嬉しそうに笑った。
「積もる話はまた後程、これからはたくさん会えるのだからな。」
「はいっ。」
「ではまたあとでお目に掛かります。殿下、リリィベル様。」
そう言ってダニエルは2人の元を下がっていった。
「良かったなリリィ。父君忙しくなるだろうが、これからは会いたい時に会える。
ただし、俺と喧嘩になっても実家へ帰ってくれるなよ?」
リリィベルの肩に顎を乗せ、そっとその身体を抱きしめた。
「ふふっ、北部は10日の距離でしたが、新しいブラックウォールは近いですものね。」
「あぁだから。こうして事前に頼んでいるじゃないか。」
「テオと喧嘩をするだんて、夢にも思いません。」
「では父が恋しくなっても俺を置いて黙って帰らないでくれ?」
「ふふっ心配性ですね?」
「それくらい、お前と離れるのは嫌なんだ。」
「私もです。それに近くにいるから安心してるんです。それに城に来てくれるではありませんか。」
「そうだ。だから会いたい時に、城で会ってくれ。」
「はいっ・・・ありがとう御座います。」
クスクスと笑い合って2人は会場を見渡した。
「ねぇテオ?」
「ん?」
「また挨拶が終わったら、一緒に踊ってくださいね?」
「もちろん。3日間舞踏会はあるが、お前とたくさん踊るつもりだ。」
「ふふっ。はい。」
その後も、挨拶に来る者達が続々とやってきた。
「皇太子殿下、リリィベル様にご挨拶申し上げます。」
やってきたのは、新たに侯爵となったベルシュ・クーニッツとその妻だった。
「クーニッツ侯爵。変わりはないか?」
テオドールはクーニッツが気に入っていた。ベルシュと夫人は穏やかな笑みを浮かべた。
「はい。陛下と殿下のお心遣いのおかげで、孤児院も新たに改装され、信頼できるシスターも手配して頂き、皆楽しそうにしております。」
「そうか。」
「クーニッツ侯爵。ベルは元気にしている?」
「えぇもちろんですリリィベル様。ベルも他の子達も、またリリィベル様にお会いする日を楽しみにしております。」
「私もベル達会えるのを楽しみしているわ。」
テオドールはクーニッツの足元にしゃがみこんだ。
「おい?ニコライ?アイザック?」
クーニッツ侯爵の足元に隠れているのは息子たちのニコライとアイザックだった。
「でんか、ご・・ご挨拶もうしあげます。」
「ああ、ニコライ。」
ちらりと目線を隣に向けた。アイザックはニコライとは違い警戒心を出しているような顔をしていた。
「アイザック?久しぶりだな?どうだ?たくさん人がいて緊張してるのか?」
テオドールはそう言いながらニコライの頭を撫でた。
「ほらアイザック、皇太子殿下にご挨拶して?」
夫人がアイザックの背を押す。
「こっ・・こんばんは・・・でんか。」
「ふっ・・・アイザック、こないだは元気だったじゃないか。」
「おうじ様、だってなんかビカビカしてるっ・・・。」
「あっ・・・ははっ今日は建国祭だからな。そういうアイザックだって今夜は決まってるな?」
「ほんとっ?カッコいい?」
「ああ、俺よりカッコいいクラバットの宝石がお前に似合ってるな。」
「えへっ、見て?ニックと一緒だよ?」
アイザックは褒められて一気に警戒心を緩めてニコライの腕を引っ張り並んで見せた。
「おお、2人ともカッコいいな。俺も同じブローチをつけようかな?」
「へへっ。」
アイザックはご機嫌で笑った。そんなアイザックをニコライは呆れながらみた。
「皇子様、ごめんなさいザックはお勉強は嫌いで。」
「二人とも向き不向きがあるのは当然だ。好きな事をするのが一番だ。
ニコライは勉強が好きなんだろう?アイザックは?」
「僕は動いて遊ぶのが大好きだよ!」
「ははっそうか。俺もどちらも好きだよ。ニコライにもアイザックにもいい所がたくさんだ。
そのまま好きな事を存分にするんだ。眠くはないか?夜の舞踏会は初めてだろう?
お前達の父上はこれから侯爵だ。今夜は家族みんなで来てくれて嬉しいよ。」
「こうしゃくってすごい人でしょ?」
そう言ったのはアイザックだった。テオドールはふっと笑った。
「ああそうだな。これから俺とお前達の為にいっぱい働いてくれる。安心しろ。過労させる気はないからな。お前達も父上を助けてやってくれ。」
「「うん!」」
ニコライとアイザックの笑顔が咲く。2人の頭を両手で撫でまわしテオドールは立ち上がった。
「これからも宜しく頼む。クーニッツ侯爵。期待している。何があれば遠慮なく言ってくれ。」
「ありがとう御座います。皇太子殿下。息子たちもそろそろ眠くなる頃ですから、そろそろ下がらせて頂きます。」
「ああ構わない。次に登城する時には、そなたの役職の事をゆっくりと話そうと思っている。」
「はい殿下。では私達は下がらせて頂きます。」
クーニッツ侯爵夫妻は礼をして2人から下がる。
「相変わらず可愛らしいニコライとアイザックですね。」
テオドールの腕をとってリリィベルは笑みを浮かべた。
「ああ、将来が楽しみだな。」
「クーニッツ侯爵にはどんな管轄を?」
「あぁ、見ての通り子供好きな彼だから、孤児院や子供たちに関する事を担当してもらう。児童福祉で存分に活躍してもらうさ。適任だろ?」
「クーニッツ侯爵ならきっと、子供たちの為に尽力してくださいますね。」
適当な官職に適切な人材を置く事は重要だ。その気のない者に任せたところでどんな埃が出るか分からない。テオドールの人事は視察の結果、皇帝と考えだした役職だ。
それからも挨拶にやってくる者達と談笑し、時は過ぎた。
今日のメインは爵位授与された者達との会話だった。
長い挨拶の末、やっと席に着いたのは開始から随分経ってからの事だった。
「リリィ、疲れただろ?」
「少しだけ・・・。」
「俺もまた声がかすれてきた。一息つこう。」
2人で椅子に座り、ふうっと息をついた。従者に果実水を運ばせて飲み干した。
ふと皇帝と皇后に目をやれば、ダニエルと長らく談笑している。
「しっかし・・・随分仲良くなったよな・・・。」
「ふふっ嬉しい限りです。」
「まあな・・・。リリィ、バルコニーへ出ないか?少し風に当たりたい。」
「えぇ。是非・・・。」
グラスを置いて、テオドールはリリィベルをエスコートし、バルコニーへ出た。
城の広い庭園はシンと冷えた空気の中、外灯で輝いていた。
テオドールはリリィベルの肩にジャケットを羽織らせた。
「寒いから少しだ。はぁっ・・・冷えた空気が気持ちいな・・・。」
「えぇ・・・ホールの中は人数もいますしね・・・。」
「ああ。ふぅ・・・・。」
テオドールは無意識に息をつく回数が多かった。
「お疲れ様です・・・。テオ・・・・。」
テオドールの頬を包みリリィベルは笑顔を向けた。
「これがあと二日ある・・・。疲れている場合ではないんだがな・・・。
それに明日は・・・・。」
「同盟国と・・・ポリセイオ王国の方がいらっしゃるのでしょう?」
「ああ・・・。同盟国はまあ、今は友好的だが、ポリセイオ王国が謎だな・・・。
俺の側を離れないでくれ。」
「もちろん・・・。私はテオの側を離れません。」
「ああ・・・。」
リリィベルの手を包み込んで瞳を閉じた。
その手の温もりに安堵し、張り詰めた気持ちが少しだけ和らぐ。
少し気の抜けたテオドールの表情を見て、リリィベルはもう片方の手をテオドールの肩に乗せて
背伸びした。
「口付け・・・してもいいですか・・・・?」
その言葉に目を見開いたテオドールだったが、すぐにリリィベルの腰を抱き寄せた。
「お前から強請られると・・・たまらないな・・・。」
ニヤっと笑い、テオドールは迷わずにリリィベルの唇に唇を合わせた。
寒い空気の中で互いの温度が溶け合う。唇は特に熱を持ち何度も軽くつけては離して互いを刺激した。
角度を変えて、首筋を這い、背を這う互いの手と、重なる唇。
疲れが吹き飛ぶほどの時間が流れた。
白い吐息が2人の唇から漏れて、熱の籠った瞳で見つめ合った。
「寒くないか・・・?」
「寒いです・・・。でも・・・テオが温かくて・・・離れたくありません・・・。」
「熱を出す前にここから出たいが・・・もう少しだけ・・・俺に包まれていてくれ・・・。」
リリィベルを両腕で覆うように抱きしめて、また唇を寄せた。
読んで下さりありがとう御座いました!




