彼が見つけた応え
「ん・・・・アレ・・・・・。」
「んふふっ」
テオドールが目覚めると、目線の先にしゃがんだまま肘掛に両腕をついて笑顔のリリィベルが居た。
「あれ・・・俺・・・寝すぎた?」
「いいえ。大丈夫です。」
「お前、いつからそこに居たんだ?」
「テオを見つめるのに必死で時間を忘れてしまいました。」
「・・・すまん、朝陽に・・・。」
テオドールはリリィベルの髪に手を伸ばしサラサラと流した。
「すっきりしたか?」
「はい。」
「よかった。腹空いてるだろ?朝食にしよう。」
「はい。お腹がペコペコです。」
「元気な証拠だ。良かった・・・。」
「えへへっ」
リリィベルの笑顔にテオドールも微笑んだ。
テオドールの私室に運ばれた2人の朝食、身体に良く消化にいいものばかりの食事が並んだ。
テオドールにもだ。
「テオまで?」
「同じ物を食べるのがいいんだ。俺達はいつも一緒だから。」
「ふふっ、ありがとう御座います。」
「さぁ食べよう。」
テオドールの私室にあるテーブルは2人の膝がつき合うほど小さなテーブルだ。皇族でも稀な一つのトレイに並べられた2人の食事。大きな窓に向かって2人はその小さなテーブルに並んで座り仲良く食事を楽しんだ。
穏やかな朝食だけでも、2人は愛を育んだ。
「リリィ、今日はゆっくり休んで。」
テオドールが執務室に行く時間だ。
「お昼に‥」
「あぁ、必ず。じゃああとで‥」
「はい、お待ちしてます。」
リリィベルの額に口付けると、お返しに頬に口付けを返してくれた。
扉が閉まる寸前まで目を合わせる。
扉が閉まっても、リリィベルは笑みを浮かべた。
「テオ‥‥。」
もう昼になるのが待ち遠しい。
視察でずっと一緒にいたからか、この思いは強まるばかりだった。
今に始まった事ではなかったが、彼のそばが心地いい。
優しく触れる手。心地いい低い声。
愛ある眼差し。柔らかくて情熱が籠った口付け。
すべてが愛しい。
彼と出会わなかった月日を悔やむほどに‥。
執務を始めて1時間が過ぎた頃、皇太子の執務室に来客が来た。
来訪者にテオドールは目を細めた。
通すように伝えると、その者は真面目な顔で皇太子の前に立った。
「何の用だ。ハーニッシュ卿。」
訪れたのはグレンだ。
「皇太子殿下にご挨拶申し上げます。」
「あぁ。」
「リリィベルお嬢様のお加減はいかがですか?」
「心配はいらない。もうすっかり良くなった。」
「左様でございますか‥‥。何よりでございます。」
「そなたも倒れた場にいたそうだな。」
「はい。」
「そなたは何用でリリィの元へ来た?」
「‥‥リリィベルお嬢様にお話がありました。」
「それで?」
「‥‥可能であれば‥リリィベルお嬢様とお話しする機会を頂きたく存じます。」
その言葉にテオドールは、つい鼻を鳴らしてしまった。
「昨日は俺の断りもなくわざわざリリィの教育が終わるのを目掛けて来たそうだが?」
「私が軽率でございました。本来ならば皇太子殿下の許可を頂いてから、伺うべきでした。申し訳ございません。」
「それで、許可を貰いに来たと?」
「はい。」
グレンは、スッと頭を下げた。
「なるほど‥‥。」
「お許しを‥頂けますか‥‥。」
瞳も伏せてグレンは丁寧に告げた。テオドールは少し眉を吊り上げた。机に置いていた手がキュッと固まった。
「‥‥2人では許可出来ない。すまないが、初日のようには出来ない。そなたが、リリィに対する感情は既にわかっている。」
「‥‥‥私は‥‥‥」
「だが、これは‥‥リリィが判断するべきだ。俺の独断でリリィの行動を制限したくない。話をしておく。
だが、リリィがどのように応えるかはわからない。」
「お話を通していただけるだけで十分でございます。」
「随分‥‥態度が変わったな。」
「‥‥‥‥‥」
テオドールはグレンから目を逸らし、指先で机を鳴らした。
「俺を皇太子と認識しながら、そなたはそんなことは関係ない様な素振りだった。俺も畏まられるのは好きじゃねーけどな。だが‥俺に挑んできたお前と、今は随分と変わった。」
「‥‥‥リリィベルお嬢様が‥‥貴方様を必要としていらっしゃると‥‥分かったからです‥‥‥。」
「‥‥どういう事だ?」
グレンは情けなさそう笑みを浮かべた。
「‥‥殿下を見る‥‥お嬢様の御心は、十分に分かりましたので‥‥。」
「‥‥‥‥?」
昨夜の光景でもう、何もかも変わったのと。
気づかざる終えなかったから‥‥‥。
リリィベルが、皇太子の妃になる事が、
はっきりと‥‥‥。事実なのだと、分からせてくれた。
きっと、2人が出会わなくても‥
彼女が、自分をあんな愛しい瞳で見てくれることはないと。
ストンと胸に落ちたのだ。
何故かと聞かれたら説明の仕様がないが。
2人が離れない事は、何故かハッキリと分かった。
鎖に繋がれた様に見えた。2人の抱き合う姿だった。
「‥一度、北部へ戻るので‥‥ご挨拶をさせて頂ければ‥
私はそれで十分でございます。」
「‥‥‥そうか。事情はわかった。リリィには伝えておく。
決まり次第連絡する。」
「ありがとう御座います。皇太子殿下。」
深く礼をして、グレンは部屋を下がった。
閉まった扉を見つめながら、テオドールは目を細め、口を尖らせた。
「なんだよアイツ‥‥。」
急に、別れの挨拶で俺の許可が欲しいなんて言って来て。
昨日は突然行ったのに‥‥。
なんだが、調子を狂わされた気分だった。
「グレンが?」
約束通りにテオドールは昼にリリィベルの私室へやってきた。昼食を囲みテオドールは真剣な面持ちでグレンの事を伝えた。
「テオは‥?」
「俺は、お前達が2人で会うのは許可しない。だが‥
本人が帰る前にお前と話がしたいと言ってるから‥
まぁ、‥‥‥お前の判断だ。お前は‥どうしたい?」
「‥‥‥‥私は‥‥‥‥‥」
顔を俯かせて、スカートをギュッと握った。
グレンの気持ちが、なんとなく‥‥‥
そうなんじゃないかって‥‥
帰ると言うのは事実で、でも、今グレンに会うのは
受け入れられない言葉を言われるのではないかと怖くなった。
ここに来てからの彼は、全部見たことがないような彼だった。
「‥‥護衛をつけて会うんだ。別にお前をとって食いはしないだろ?幼馴染が‥‥帰る前に挨拶したいと言うのは別に変なことじゃない‥。」
テオドールは、少し身を乗り出して、リリィベルに顔を寄せた。本当なら嫌だった。けれど、その場に自分が立ち会うのもグレンに申し訳ない気がした。
「‥‥‥永遠に別れる訳じゃない、帰る前の挨拶だ。お前が倒れる所を見てたから、アイツだって‥元気なお前の姿を見てから帰りたいだろうから‥‥。ただ、お前が会いたくないなら断るよ?」
「‥‥‥‥そんな‥事は‥‥‥‥。」
「‥‥お前が、こうして考え込むのは‥‥俺が、嫉妬したせいだろ‥‥?」
「ぁ‥‥‥いえ‥‥それだけじゃ‥‥‥。」
「え?」
リリィベルは、困った顔をして首を傾げた。
「なんだか‥‥北部に居た頃の‥‥彼とは違う気がして‥‥
彼に会うのが、なんとなく‥‥怖かったんです‥‥。」
「‥‥‥‥‥」
テオドールは黙った。リリィベルが感じたそれは、
グレンが男として、リリィベルを見たからだろう。
「不思議ですよね‥‥グレンはグレンなのに‥‥。
でも‥‥なんだか‥‥一緒に居てはいけない気がして‥‥。」
「お前が俺の、婚約者になったから‥‥うまれた責任感だ。
皆が俺とお前を見ているから‥だからそう、思うんだ。」
「‥‥はい。グレンにも伝えましたから‥‥。」
その言葉にテオドールはニヤッと笑った。
「そうだな‥そういえば聞いていた。」
「あっ‥‥本当にあの時いつからっ‥‥」
「ならいいじゃねぇか‥。旅立ちの日くらい、俺も目を瞑ってやるよ。どうせ、2人きりになどさせない。
いつだって、俺に扮した目が、お前を見ているんだからな。」
それは、リリィベルを護衛するイーノク達を指す言葉だろう。それを聞きリリィベルは笑みを浮かべた。
「‥‥そうでしたね。」
「あぁ‥‥だから‥‥俺は、大丈夫だ。」
「では‥‥テオの許可のもと、グレンとは最後に時間を取らせていただきます。」
「あぁ、伝えておく‥‥‥。」
そう言ってテオドールは紅茶を飲んだ。
リリィベルも少しホッとした気持ちで紅茶を一口飲んだ。
読んでくださりありがとう御座いました。




