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その目を凝らして 2

 

【皇太子殿下、リリィベル様がおいでです。】

 執務室の扉の外から従者の声が聞こえた。


「あぁ、通してくれ。」

 テオドールは笑みを浮かべてそう言った。

 扉が開かれるとリリィベルは嬉しそうな笑顔で入ってきた。


「テオっ‥‥」

「リリィ!」


 ちょうど正午になる所だった。

 入ってきたリリィベルを抱きしめ迎えた。


「準備は済んだのだな?」

「はいっ」


 リリィベルは両手にマントを持ってやってきた。

「お、それが言っていたマントだな?」

「はい。見て頂けますか?」


 手渡すと、テオドールは嬉しそうにマントを広げた。


 帝国の紋様。そして両端には鈴蘭の刺繍と、ピアスの刺繍が施されていた。


「腕がいいなリリィ。」

「本当ですか?」

「あぁ、すごく綺麗だ。正に俺の為のマントだな。」

「はい!その背を私も守れる様に願いを込めました。」


「そうか、ありがとう。このマントに傷一つつけないぞ」

「ふふっもちろんです。あなたの盾に私はなります。」


 そう言って笑ったリリィベルの言葉にテオドールはしばし言葉に詰まった。



「‥‥お前の盾になるのは俺だ。リリィ?」


「‥‥盾には‥‥なってほしくありません‥‥」



 リリィベルは、小さく呟いた。

 テオドールは、これまでの数々の様子を思い返して口を開いた。


「‥‥ならば‥‥俺達は背を合わせて共に守り生きていこうか?俺の妃は逞しい心の持ち主だから‥」


「ふふっ‥‥はい‥‥私もあなたをお守りしたくて‥

 このマントの刺繍をしました‥‥。


 どんな事からも‥‥あなたをお守りしたいのです‥」


「ありがとう‥‥リリィ‥‥」



 リリィベルの言葉には重さがあった。

 これ以上は、交わせない。どんどんとリリィベルの思いが頑なになってしまう前に‥‥。


「暇かも知れないが、ここにいてくれるか?」

「はい、もちろんです。」


 ソファーにリリィベルを座らせてテオドールは机に向かった。


「・・・・・・・・。」

 リリィベルは静かにその姿を見ていた。


 真剣な顔で、書類に目を通し、時にはパラパラと本をめくる。

 滑らかに羽ペンでサインをする姿をひたすらに・・・。


 それだけでリリィベルは満たされていた。


 けれど、テオドールはチラリとリリィベルに目を向けた。

「ふっ・・・俺の顔に穴をあける気か?」

「気になりますか?」

「ふっ熱い視線が来て、仕事を放棄したくなるな。」


 そう言って、テオドールは書類をいくつか持ち出して、リリィベルの隣に座った。


「なにか持ってきたものはないのか?」

「あ、とくには・・・。」


「俺の執務が終わるまで、ずっとそうしてるのか?」

「いけませんか?」

「いいや、構わない。ほら、おいで。」


 そう言って自分の肩を叩いた。

 それは頭を預けろというサインだった。


 リリィベルは満面の笑みを浮かべて、頭をテオドールの肩に乗せた。


「明日早めに出発するが、体調は問題ないか?」

「あっ・・はいっ・・・・。」


 リリィベルは咄嗟に胸を押さえた。

「そうか、なら大丈夫だな?結構予定が入っているから、昼間は移動と話し合いが多くなるが、

 お前は俺の隣にいてくれ。」

「はい・・・。ずっとお側に居ます・・・。」


 リリィベルの心中は、それだけで穏やかになった。

 温かな肩にもたれて、リリィベルは、テオドールの指先を見た。

 男らしい大きな手だけれど、指先が綺麗で、ちらりと見えた手のひらには剣だこがあった。

 あの素晴らしい剣術の勲章。


 この手が、愛しい。


「テオ・・・。」

「なんだ?」

「・・・呼んでみただけです・・・・。」

「ふっ・・・なんだよ。可愛い奴。」


 そう言って、テオドールも書類を見ながらリリィベルの頭に自分の頭を寄せた。


「・・・不思議ですね・・・」

「んー?」


 リリィベルは眠くなってきていた。そのうつらうつらして意識が微睡んだ頃。

 愛し気に目を細めた。



「前にも・・・こうして・・書類を・・・読んでいるあなたの側に・・・・・」


 そう言うとリリィベルは意識を夢の中へ手放した。



「・・・・・・・・・」



 テオドールは、その不思議に心当たりがあった。

 前世で看護師の勉強をしていた時、出来る限り礼蘭と一緒にいた。


 膝で眠っている事もあれば、肩にもたれて眠っていたこともあった。


 長い俺の勉強に付き合いながら、眠くなるとすぐに身体を預けて眠った礼蘭・・・・。





 リリィは・・・・何か・・・・覚えている・・・・・。




 無意識に似たその微睡みが訪れると・・・・





 今は・・・安堵・・・・・。


 離れれば・・・・恐怖・・・・。




 俺たちの間には、何があった・・・・。



 記憶が戻ってこない・・・。



 夢も見なくなった。




 その代わりに、リリィがこうして、夢の様に前世を口にする・・・・。




 それは喜ぶべきこと・・・なのだろうか・・・・・?


 前のように苦しみはないか?アレクシスは・・・


 ちゃんと願いを聞いてくれたはずだ。だから痛みも消えたはずだ。




 どうして俺じゃない・・・?


 一体どうなっている?




「アレクシス・・・俺はお前を・・・信じているんだぞ・・・・?」


 テオドールは、リリィベルを起こさないように静かに呟いた。


読んで下さりありがとうございました!

ブクマ&評価宜しくお願い致します。

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