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新しい時代へ

あの時のリリィベルは時間と共に落ち着いた。

そして、処刑の翌日には、オリヴァーとマーガレットも朝食の場に現れた。

オリヴァーの元気がないのは仕方なかったが、マーガレットの大きな愛で包まれていた。


処刑から3日後、リリィベルの妃教育が再開された。


テオドールは皇帝の執務室で、処刑の場で話をした。


「・・・公爵家が没落し、新たに侯爵家も二家消えた。その立場に相応しい者を据えよう。」

「はい、陛下。」

少しやつれたオリヴァーの顔をテオドールは見つめていた。


「テオ・・・・。」

「はい・・・。」


「よく務めてくれた。ありがとう。未来の皇帝として、お前は相応しい人物だと、世に知らしめる事が出来ただろう・・・。」

「・・・私は、まだまだです・・・。」


あの日、目を背けたくなったのは、事実だ。

そして、未だに父の泣き顔が脳裏に焼き付いている。


「すまないな・・・情けない姿を見せてしまった・・・。」

「とんでもありません!私だって・・・あの場にいるのは・・・」


「あぁ・・・・私もあの場に立ったことがあるが・・・・気持ちは分かるぞ。

どんなに腹が立ってても・・・人が死ぬ姿になれる事などありはしない。


その瞬間に命が途切れるのを間近で見るのがつらいのは・・・人として当然の感情だ。」


「ですが・・・私はこの立場の者として・・・責任を果たしたつもりです。」

「あぁ・・・立派だよ。お前は・・・とても頼もしい存在だ。」


そう言ってオリヴァーは笑った。まだいつもの笑顔とは遠いが、

時間が解決してくれる事もあるだろう。



どんな言葉も、無力な時がある。

皇帝に即位してから、一年半で父と母を失ってしまったのだから・・・。



「陛下・・・。私は、考えている事があるのです。」

「なんだ?」


「皇后陛下のグランディール家を・・・公爵位に据えるのはいかがでしょうか?」

「マーガレットの生家をブリントンの領主にすると言うことか?」


「はい、以前から考えていたのです。今口にするのは引けますが・・・。

公爵家は元々ブリントン公爵家だけでした。皇后の生家であれば、その品位は保たれます。

グランディール家であれば、公爵位に相応しいと・・・・。自ずと領地名も変わり心機一転です。

多少の混乱はあるでしょうが・・・・。国民たちも理解することでしょう。


そして、これは私の願いなのですが‥。」



「なんだ・・・・?」


「北部の、ダニエル・ブラックウォール辺境伯に侯爵位を与え、ヘイドン領地を与えたいと考えています。」


「・・・・そうか・・・・確かに、アドルフが無理やり辺境へ送られた事実もあるしな。」


「はい・・・父君をリリィベルの近くに・・・連れてきたいのです。

母君の墓と一緒に・・・。ブリントン公爵の刺客レナードを捕まえた功績もあります。

そして、未来の皇太子妃の生家です。」


「そうだな。だが、北部はどうする?あそこは国境付近だ。防衛面を考えると

ダニエルの腕に匹敵する者を探すのは難しいが・・・。」


「はい・・・。これは私の我儘です・・・。父君も北部の壁としてその誇りを持っておりますので

父君が承諾して下されば、ヘイドンの領地をブラック・ウォールに・・・。」


「ブリントンをグランディール・・・。ヘイドンをブラックウォールにか・・・。」


「はい・・・。あとは、カドマンに侯爵位を与えてイシニスの管理を任せては如何でしょうか?

そして息子のエドワードにオリバンダー領地とカドマン領地を統一を。」


「そうか・・・あの者も功績者だな。」


「はい、戦力的にカドマンからジェイクを離すのは捨てがたく、またとても豊かな領地で、領主としても申し分ありません。しかしイシニスの統治もあります。彼にはその重要な任を任せたいと考えています。

なので、南部を新たにエドワード・カドマンに与えたく存じます。元々第三騎士団に所属していて、レイブ・オリバンダーを捕らえたのも彼です。


エドワードは婚約者がおります。いずれ夫婦となり領地を治める。子爵家の令嬢だそうですが、両家共に仲が良いと評判も悪くありません。」


「・・・そうか。いい考えだな・・・。すべて信頼できる者達だ。」


「はい。あとは領主がいなくなった地は、直々に視察に出て適任者を据えたいと思います。あと、今回功績を上げた騎士団の家紋の爵位を上げ任せられる者をと・・・。


あと、視察の際に・・・リリィベルを同行させたく思います。」


その提案にはオリヴァーは少し驚いた。

「没落した貴族は多いし、日程が長くなるが・・・妃教育は大丈夫か?」


「幸い私の婚約者は優秀です。妃教育の半分以上の行程も終え日が余る程です。そして、北部に離れていた事もありますので、帝都周辺に未来の皇太子妃の存在を印象付けたい思いです。


‥‥まぁ‥それだけでは‥ありませんが‥。」


浮かない顔で、話の最後を濁した。

その様子にオリヴァーは眉を顰めた。


「‥‥何かあるのか?」



「あ‥‥‥リリィが‥最近になって‥‥私と離れるのを極端に‥恐れる様になって‥‥」


「何故だ‥‥?暗殺者も、狙っていた貴族達が居なくなったんだぞ?」




「‥‥処刑の日を境に‥‥少し‥‥」


「‥‥優しい子だから‥心を痛めたのだろうか‥?」



「‥‥そうかもしれません‥‥一緒にいると落ち着くので。普段は平気なのですが、落ち着くまでは、日を空けたくないのです‥‥お許しください‥。」

真剣でも、テオドールも戸惑っている様子だった。


「わかった‥。お前の好きな様にしなさい。だが、毎度そうする訳にもいかない事を、

しっかりと心に留めなくては‥」


「はい、リリィも理解はしています‥。」



そう、理解はしている。



けれど、朝離れる時、今にも震えて泣きそうになる姿が続く。


そして、言い聞かせる様に納得して、自分を見送る。


やるべき事も理解している。



けれど、あの恐怖が宿る瞳と、そばに居たら離れない姿は見ていて危なかしいものがあった。


「‥‥まだ、日も浅いですが、帝国民には領主が必要ですので、ゆっくりしていられません。

カドマン家とグランディール家、ブラックウォール家には陛下からご連絡を。


私は2日後に、まず近くの領地から視察に行って参ります。」



「わかった。頼んだぞ。」

「はい、陛下。」



こうして、テオドールとリリィベルが共に領地の視察に行く事が決まった。



皇帝の執務室からの帰り道、テオドールは妃教育の場に向かった。

魔術師の護衛は減り、リコーのみが務めていた。

年の近いリコーが適任だと判断した。些細な変化を逃さぬ様に。


扉の前にはイーノクとアレックスが立っている。

リリィベルの様子を考慮し、扉は少し開けておく様にした。

扉の隙間から、リリィベルを見る。

「・・・・・・・・」


真剣に教育を受けてる姿は、いつもと変わらない様子に見えた。



このまま立ち去るべきか‥‥また別れ際が心配だった。

1日中側に居れたならいいが、そうはいかない。



15時、あと1時間もすれば教育を終える。


普段なら迷う事なく、視察の件を伝えるところだが、



テオドールはそのまま引き返した。



その姿を無言で見ているイーノクとアレックス。


それは不思議な出来事だった。

いつもなら周りを巻き込む程の熱烈な愛を飛び散らすのに‥



テオドールは自身の執務室に戻った。

「あっ、殿下、お帰りなさい。」

フランクが出迎えた。


「フランク、2日後に視察へ出るから地図を持ってきてくれ。」

「はい、殿下。」



フランクが持ってきてくれた地図を広げて行き先の行程を考える。


没落となった貴族は全部で80にもなった。伯爵家に子爵家と男爵家まで。三家のブリントン、ヘイドン、オリバンダーの金額を合わせて帝国予算1年分少しあった。あとは他の貴族達の寄り集まった金額を合わせて2年分。よくもこれほどまでにかき集めた事か‥



帝国騎士団の伯爵家、子爵家、男爵家達から、繰り上げるにも人選は難しかった。

幸い帝国騎士団第一、第二は忠誠心の厚いもの達ばかりだったが、第三にまで下がると、

今回の件には、オリバンダーの息子のようなもの達や、城に勤務する爵位あるメイドや従者達も多かった。


城に勤務する者らは多いが、それでもメイドや従者達も減った。


穴を埋めなければならない。



パッと顔を上げてフランクを見た。

「おいフランク」

「はい?」

「お前の父は、どこの領地だ?」

「えー・・・殿下、私の名前しかご存知ない?」

「あー‥‥うん。」

「はぁ‥‥私はこの度没落されたブルークマン伯爵領地に近い街を任されていたシュクマー子爵家です。」

「おーん‥‥‥よし、じゃあブルークマンの領地はシュクマー子爵家にやるか‥」

「へあ?!」

まるでなんてことない様にあっさりと皇太子は言った。

フランクは持っていた書類を落とした。


「まー、親父に会ってみないと正確には決められないが、今回没落した貴族は多いんだ。

それにお前は俺の側近だし、爵位、あった方がいいだろ?」


「そっそんな!お菓子あげるみたいな感覚で言わないで下さいよ!」


「だから!会ってからって言ってんだろ!はしゃぐなうるせーな。」


広げた地図に丸をつけて、名前を書き込む。


そうして、残った伯爵家と子爵家や、騎士団の信頼のおける者達の名前を候補として書き出していった。


あとは実際に会うのみで、絞り出すのに時間を要した。

新しい時代を築くのは、少し時間がかかりそうだ。


読んで下さりありがとうございました。

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