親の背中
テオドールは、オリバンダー侯爵一家の前に立った。
無言で彼らを見下ろした。
バキッッ!!!!
「ぐはぁぁっ!!!!」
ただ、その足でオリバンダーの顔を蹴り上げた。
「うぐっっ!!!」
「うがぁぁっ!!!
息子2人も同様に蹴り上げた。
頬は赤く血が滲み、歯が何本か飛んでいった。
オリバンダー侯爵が、恨めしそうにテオドールを睨む。
「‥‥‥羨ましいか?年寄りが。」
蹴り上げたその足で、オリバンダーの顎をトントンとついた。
テオドールから、禍々しい殺気が溢れる。
「‥‥俺の女を見ていたその目は、抉り取らせてもらう。
息子どもも同様だ。お前の別邸には女が5人、既に死んでいるにも関わらず、その体からは真新しく汚らしい体液が溢れていたそうだぞ?‥‥実に、穢らわしいな。
‥‥‥‥殺してやりたい。」
グザッッ!!!!!
テオドールはオリバンダーの股を近くにあった小剣で突き刺した。
「ゔぅあああああああっ!!!!!!」
テオドールの合図と共に、控えていた騎士2人が、
息子2人の股を槍で突き刺した。
絶叫が響く地下牢、3人の床は血にまみれた。
悲鳴と涎を垂れ流し蹲る。
その頭を踏み付けた。
「てめぇが‥俺の女を想像しただけでその脳をぶち抜く権利は俺にはある‥‥。
そして‥愚かにも暗殺者を差し向け‥皇太后の指示によりイシニスに奇襲をさせ、俺と引き離した隙に、
婚約者に近寄ろうとしていたのも知っている。
どうだ‥?俺が居なくても手を伸ばす事も叶わなかっただろ?神に愛されし私の婚約者は、どんな害虫も寄せ付けない‥あぁ、虫にも失礼だな。てめぇらと同類だなんて‥‥。」
「ぐふっ‥‥‥お前の女などっ‥‥勿体ないっ‥‥」
ニヤリと笑みを浮かべてオリバンダーは尚もテオドールを睨み付けた。
「お前の粗末な身体でっ‥あの女神を満足させられるものかっ‥‥私達がっ‥‥可愛がってやればっ‥‥何度高みへ行けるだろうかっ‥ハハハッ‥‥‥手に入らないのであればっ‥‥想像できるすべてであの女神を撫で回してやるっ!!
どうだ?!悔しいかっ!!!!ハハハハハハッ!!!」
「‥‥‥‥手に届かない男の妄執など、実物には程遠い‥
俺はこの手で‥‥女神を抱き‥‥‥お前達の貧相な妄執を超えて‥‥
高みへ昇る事であろう‥‥‥。お前達の達せぬ妄執のその先へ‥‥‥。可哀想になぁ‥‥‥。これが穢らわしいお前達と私の歴然の差だ‥‥‥。私は女神に愛されその身体を委ねられる存在である事、とても幸福に思っている。
実に哀れだ・・・・。」
「うぅ・・・」
レイブが呻き声をあげた。
「リッ・・・・・リリィ・・・・・・っ・・・・」
その声に、テオドールはギロリと睨みつけた。
「その名を呼ぶことが・・・どれだけ罪か分からないようだな。
もう良い。息子2人、舌を切り落とせ・・・リリィの名を呼ばせる事はさせん・・・」
騎士達に舌を引っ張り出されて、その舌を切り落とした。
「・・・これでもう名を呼ぶことはないだろう。」
どれだけの事をしても、この怒りが収まる事はない。
そして、オリバンダーを見下ろした。
「イシニスとの内通、及び、皇太子の婚約者に暗殺者を向けた罪。
お前たちの処遇は私に預けられている。
お前たちは目を抉り出してから断頭台へ送ってやる。
穢れた身体は八つ裂きにし、その首は、骨になるまで晒しておく・・・・。」
そう言い渡し、テオドールはその場から離れた。
そして、オリヴァーとテオドールがブリントン公爵の元へ来た。
「・・・・皇帝陛下・・・・」
憔悴したブリントン公爵と、その夫人が投獄されている。夫人はこの事実を受け入れられずその気を失っていた。
俯いたまま、ブリントン公爵が口を開いた。
「・・・だれの・・・」
「誰のおかげ等、もう聞き飽きた・・・・。」
その言葉が出る前に、オリヴァーは遮った。
「私は皇帝陛下と皇后の間に産まれた、生まれながらに皇太子であった。誰のおかげでもない。」
「それは・・・違います・・・セリシア姉さまが・・・公爵令嬢で・・・皇后となったから・・・
その身は・・・その地位にあるのですっ・・・。」
ブリントン公爵を見下ろしオリヴァーは冷えた目を向けた。
「あぁ・・・アドルフ・ブラックウォールに縁談を断れてな・・・。」
「!!・・・何故・・・・」
「はっ・・・知らないとでも?ブラックウォールは皇太子の婚約者の生家。
アドルフの息子がいるではないか。息子はちゃんと知っていたぞ?
年長者には有名なのではないか?前皇帝の御世その座についていた貴族達は、
若き公爵令嬢が、アドルフとグレースの仲を知りながら、縁談を持ち掛けさせた。
そして、振られたのだろう?可哀そうにな。女でありながら、さぞ可哀そうなお方だ。
それも因果応報だ。他人の恋路の邪魔をするから振り向いても貰えず、彼らはその女から逃れて北部に行って幸せになったとな。夫となった者にも愛されない。そして、年老いた最後には、こうして息子に裁かれるのだから・・・。」
「わかって・・いるなら・・・」
「分かっているからダメなのだ。孫の恋路まで邪魔をするその執念。
そして、私の妻に毒を盛ろうとした。そなたも分かっているだろう・・・・。
お前たちに子供が居なくて良かったな。裁く人数が減って私も気が楽だ。
公爵家はなくなり、新たな公爵位を与えられる者は・・・私が直々に選べる。
貴族の入れ替えは・・・今後私の為になるであろう。」
「・・・ブリントン公爵家はっ・・・・古くからっ・・・」
「あぁ、そのカビが生えた公爵家は没落だ。」
「ぐっ・・・」
ブリントン公爵は唇を噛んだ。
「側室エレナの毒を用意したのも、ヘイドン領地にいた医師が、記録を残していた。
罪のない医師が苦しみ、そして殺された!お前達に罪がない訳ないだろう!!!
お前も!お前達姉弟の親も!!私もその血を引いている事が悔やまれるわっ!!!!!!!」
それは、オリヴァーの本心だった。
「お前たちの穢れた血が・・・私に・・・そして私の息子にまで流れている!
誰かの殺害を企てっ・・・罪のない人間の命を奪い・・・・私たちのこの座を誰のおかげと申すか!
・・・ならば、この座で私がすべきことは・・・私たちで終わらせる事だ!!
この汚点が後世まで残ると思うと吐き気がするわ!!!」
オリヴァーの瞳から一筋涙が流れた。
「・・・これはもう、救いである・・・・・。
息子と、息子の愛する者の血で世継ぎが出来ていけば・・・・
この穢れた血もいつかは薄まっていくだろう・・・・。」
母は・・幸せではなかった・・・・・。
愛を知らず・・・愛に泣き・・・・・
血を分けた子にその首を斬られるのだから・・・・。
「・・・私は息子の御世は・・・・幸せであってほしいのだ・・・・・。
それが・・・子を思う親の心ではないか・・・・・。
私はっ・・・息子に恥となる背は見せぬっ・・・・・
私は、正しくこの国を治めると誓ったのだ!!!!この座故の決意だ!!!!!!」
オリヴァーの、悲痛な苦しみが言葉となり響いた。
「・・・・・・・・・・・」
その背を・・・黙っていた息子は・・・・眉を顰めた。
必死で子を守ろうとする父の背が・・・小さく震えていて・・・・。
決して、したくないはずの血を分けた母の処刑。
けれど、その座が、その地位がそれを許すわけにはいかない。
罪を犯した母から産まれたその子供は、まっすぐに育ち、確固たる正義とその責任を抱き
誰のおかげでもなく、その座に相応しい者となった。
そしてその背を見る子もまた、その正義を守ると心に誓ったのだ。
「・・・・・処刑は3日後だ。」
そう言い残してオリヴァーは去っていった。
読んで下さりありがとうございました!
100話達成!!
今後とも宜しくお願い致します。




