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8th lap ジョニー・ザ・デッドヒート

 クルス達の背後に立っていたのは、全身を黒い燕尾服に包み、蝶ネクタイと派手なアイマスクをつけたショートヘアの女性だ。

 疑問に対して親切に答えてもらったクルスは、まず礼を言うべきか、名前を聞くべきか、それともあのレーサーの個性的な名前について聞き返すべきか悩み、結局、礼を言うことにした。


「あ、ありがとう……」


 そして名前も聞くことにした。


「えぇっと、あなたは……?」

「おや、私を知らない? 私は“ウォーカー”。ドラグナーレースの実況アナウンスやイベントパーソナリティなんかの仕事をしているよ」


 そう言って、彼女は蝶ネクタイをきゅっと結びなおす。


「ウォーカー……」

「芸名だよ。本名はヒミツだ。レース参加者なら声くらい聞いたことあると思ったんだけど」


 クルスはレースに参加したこともなければ観たこともない。知らないのは当然だが、ちょっと申し訳ない聞き方をしてしまった。

 そういえばアルマはどうなのだろう。人間として生活しているなら、それくらいの有名人、知っているだろうか。


「アルマ知ってる?」

「ぎゃうう……?」


 彼女も首を傾げていた。


「なるほど。有名なつもりだったんだけどな……。増長はいけないね」


 ウォーカーは特に傷ついた様子もなく、肩をすくめて見せた。


 とはいえ、ウォーカーに気づいた周囲の人々は、遠巻きにこちらを見て妙に浮ついた様子を見せていたりするから、本当に有名人なのだろう。こちらが500年前から来た男と、人間に紛れて生活する竜という、ちょっとアレな組み合わせだっただけだ。


「すまんすまん、世間知らずでな。レースのことも勉強はしてるが、実際のレースを見たわけじゃないんだ」

「なるほど、なるほどね」


 ウォーカーは興味深そうに頷くと、白手袋をはめたその手で、入り口の人だかりを示してみせる。正確には、その中央にいる人物を。


「では改めて紹介しておいた方が良いだろう。“神速の火矢”“紅蓮の光弾”ジョニー・ザ・デッドヒートと、その愛竜ファイヤーボールゴッドスピードだ」

「えぇと、名前もう一度いいかな?」

「ジョニー・ザ・デッドヒート、そして、ファイヤーボールゴッドスピード」


 レザージャケットにマント、そしてハットという出で立ちの男がジョニー・ザ・デッドヒート。

 そして、全身が燃えるような赤で彩られた走竜ラプトルがファイヤーボールゴッドスピードか。


 走竜は後脚部が力強く発達した二足歩行型竜種の総称だ。完全二足歩行を行える竜は、(<完全擬態:人間>を持つアルマを除けば)走竜に限定される。前肢は、器用に動かせるように発達しているタイプや、使わずに小型化しているタイプなどに別れる。ファイヤーボールゴッドスピードは後者寄りだ。その分、後脚部は太く、長く、しなやかである。


「彼らはパブリックレースの常連でね」

「なるほど……ん?」


 ウォーカーがそう言うので、クルスの頭には疑問がよぎる。


「常連、ってことは、パブリックレースでの優勝経験はないのか?」


 パブリックレースでの優勝者は、プロレースへの参加資格を得られる。パブリックレースの常連ということは、つまりその壁が突破できていないことでもある。すると、ウォーカーは面白そうに笑って答えた。


「うん。今までのレースはずっと、3回コースアウトで失格だ」

「それであの人気?」

「ああ。彼らは今まで一度も、後ろから追い抜かれたことがないからね。常にトップを独走していた。プロにもあんなレーサーはいないさ」

「なる、ほど……」


 今まで一度も抜かれたことがない、最速のレーサー。確かにずいぶんとケレン味がある。


「そして今回は、その弱点を克服してきたという情報があってね」

「……!」


 クルスはウォーカーを見る。彼女は口元をにやりと歪めていた。


「だから、優勝候補筆頭だ。どうだい?」

「なんでそれを俺たちに?」

「みんな知ってることだよ。別に君たちだけじゃない。順次、申請された各竜の基礎スペックなんかも公開されていくしね。ただ……」


 そう言って、ウォーカーは形の良い顎に手をやる。


「彼らが走るのは、レース当日の第8レース、つまりラストだ。一番盛り上がるのは間違いないが……私としてはトリにふさわしい大勝負を期待したい。だから、対抗馬になりそうな選手には片端から声をかけているよ」


 クルスは、受付から手渡された書類に目を通す。

 ゼッケン番号77。参加レースは8番。あのジョニー・ザ・デッドヒートたちと同じだ。


「見たところ、君たちは記念参加ではないね。どうやら勝つ気のようだ」

「それはもちろん。その為にこいつにも訓練をさせてきた」

「申請書類には目を通させてもらった。飛竜のスペックは低め、騎手にもレース参加経験はなし。番狂わせを一番期待したいコンビだ。騎手の名前が、“クルス”というのも良い」


 クルスに向きなおり、右手を差し出すウォーカー。


「応援しているよ。がんばってくれ」

「応援はありがたいけど」


 答えて、クルスはウォーカーの手を握り返す。


「俺たちは、あんたのために飛ぶんじゃない。俺が勝つために、アルマが勝つために飛ぶんだ」

「良いね。その言葉も記憶しておくとも」


 その言葉と共に、ウォーカーは去っていった。クルスは表情を険しくして見送った。





――それから数日後。


 ついに、パブリックレースの開催当日が訪れる。

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