表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/38

12th lap 24000mの覇者(後編)

『さぁ、依然、熾烈なトップ争いを繰り広げているのはこの二頭! “白い超新星”アルマファブロスと、“神速の火矢”ファイヤーボールゴッドスピード! まもなく最終コーナー手前の、直線1800メートルだ! 直線はファイヤーボールゴッドスピードの独壇場! アルマファブロス、逃げ切れるかーっ!?』


 ウォーカーの実況と共に、レースはいよいよ最終局面に突入する。


 ジョニーとの距離は、さほど大きくあけられているわけではない。逃げ切る為には、様々な工夫がいる。クルスはアルマに指示を出し、その高度を大きく下げさせた。アルマのスキル設定は、低空飛行に適した構築になっていない。高速での低空飛行は極めて危険だ。些細なミスが命取りになる。

 だが、アルマはやると答えた。ここで勝負を投げたくはないと。


 ならばクルスは、彼女のその思いに全力で応じる。


 500年前に培った竜騎士としての技術、知識、ノウハウ、そのすべてを引きずり出して、勝利への糸口をつかみ取る。


「直線が見えた……! 行くぞアルマ、<魔力噴射パワーブースター>を!」

「ぎゅあお!」


 リキャストの済んだ<魔力噴射>スキルを再び使用。アルマの身体が、無色の魔力に包まれて加速する。


 地上、わずか3メートル50センチ。コースアウトギリギリの内側を攻める。アルマの翼開長は、およそ8メートル。旋回の為に身体を大きく傾けるとして、先端部が地面に接触しない、これもギリギリの高さ。

 このスピードで飛行すれば、翼の先端が地面をかすっただけでもクラッシュを引き起こす。それでも、地上すれすれを飛ばなければ勝ち目はない。


『来たぁぁぁぁぁっ! ファイヤーボールゴッドスピード、怒涛の追い上げだぁっ! パブリックレース最速の男たちは、ここからが強ぉーいっ!』


 ウォーカーの実況と共に、背後から猛追する気迫を感じ取る。


 最初の直線よりも、こちらの高度が低い分、はっきりとそれを感じる。この高さでは、巻き上げる砂煙と、あのスピードから発生する気流の影響は免れない。


「駆け抜けろ、ファイヤーボールゴッドスピード! <魔力噴射パワーブースター>!!」

「くぇぁっ!!」


 赤い走竜ラプトルが、緑の魔力に包まれる。発達した後脚部が地面を蹴り抜き、大幅に加速した。


「来た……!」


 クルスは直感する。


 おそらくアルマの魔力数値は、どの竜と比べても最低クラス。持続時間が魔力に影響される<魔力噴射>の効果は、確実にあちらの方が長続きする。


『速い! 速いぞ、ファイヤーボールゴッドスピード! あれだけ開いていた距離が、ぐんぐんぐんぐん縮まっていくぅ!』


「アルマ、ここまで来たら、絶対にスピードを緩めるな! わかるな!」

「ぎゃう!」


『直線コースもいよいよ終盤だが!? アルマファブロス、減速しないぞ!? 大丈夫かぁーっ!?』


 アルマの保有する<高速飛行>スキルが、<魔力噴射>との相乗効果で基礎スペック以上の最高速度をたたき出している。これまで飛んできた分の加速が、アルマの身体を後押ししている。それでもなお、ファイヤーボールゴッドスピードとの距離は縮まるばかりだ。


「焦るな……焦るなよ……!」


 コーナーまでの距離は残り800メートル、700メートル、600メートル……!


「旋回を始めるぞ、アルマ! コーナーの外角を目指して対角線で移動!」

「ぎゅあ!」





「あいつら……!」


 目の前を飛ぶ77番の飛翔はしりを見て、ジョニー・ザ・デッドヒートにはいささかの焦燥があった。


 まったく減速をしない飛行。飛竜のそれは、危険度において地上を走るあらゆる竜種よりも圧倒的に上だ。グリップの効かない空中飛行においては、急なブレーキも、直線加速からの細かいコーナリングも不可能である。だからこそ、飛竜の騎手には、スピードに緩急をつけた繊細なライディングが求められる。


 逆に言えば、安全とコーナリングをかなぐり捨てた最高速飛行であれば、飛竜が速いのは当然なのだ。


 このままではコースアウトは確実。77番の騎手は見たところ冷静な思考の持ち主だ。勝算があってのことなのは間違いない。


「ファイヤーボールゴッドスピードの速さなら、最終的には抜ける。抜けはするが……だが……ッ!」


 ギリギリの勝負。ファイヤーボールゴッドスピードの速さを証明するのに、この1800メートルでは短すぎる!


「走れ、ファイヤーボールゴッドスピード! もっとだ、もっと速くッ……!」

「くぇぁっ……!」


 走竜ラプトルでは、レースの花形にはなれないと言われた。


 とにもかくにも直線番長。そのスピードを活かそうとすれば、コーナリングに致命的な隙が生まれる。悪路の走行、ヒルコースには危険が伴う。だがジョニーは相棒と共に一番になることを目指した。このリュートシティサーキットのパブリックレースで、最速と呼ばれるまでに上り詰めた。


 ファイヤーボールゴッドスピードが、直線で負けるなんてことがあっちゃならねぇ!


「ここで抜かなきゃ意味がねぇっ! 抜け! ファイヤーボールゴッドスピードォォォォォッ!!」


 相棒の足は、かつてないほどの回転を見せる。加速、さらに加速。風の精霊に愛された相棒はスピードでは決して負けない!


『抜いたぁぁぁぁぁぁっ! 怒涛の追い上げ、ファイヤーボールゴッドスピード、ここで抜いたぁぁっ! そのままチューブの壁をぶっちぎって、コースの外に踊りでるぅっ!』


 抜き去る瞬間、ファイヤーボールゴッドスピードは、白い飛竜と並んだ。騎手同士でのわずかな視線の交錯。

 あの男は、77番は、まだ諦めてはいない。


『続いてアルマファブロスもコースアウトだぁっ! 本日のラストレース、これはまさに場外乱闘の様相を呈してきたぞ!』


 ファイヤーボールゴッドスピードも、白い飛竜アルマファブロスも、ここで大旋回に入る。爪でグリップを効かせ、スピードを殺さないようにしながらコースへの復帰を目指す。アルマファブロスの旋回は、案の定、こちらよりもロスが大きい。


 これは勝った!


 ジョニーは確信した。最後の加速、あの加速の差で、こちらの勝利だ!


 だが、この瞬間、赤い走竜の速度は文字通り限界を超えていた。コーナーをぶっちぎり、旋回に入ろうとした瞬間、爪のグリップが身体の速度に追いつかない。結果、足が大きくもつれた。がくん、と身体が大きく揺れ、傾くのを、ジョニーは自覚する。


 ジョニー・ザ・デッドヒートの脳裏には、先ほどの自分の言葉が蘇る。


――浪漫を実現するのは情熱じゃない。綿密な計算に裏打ちされた忍耐力だ。


 ああ、くそ。


「熱くなりすぎちまったか……!」


 熱くさせたのは、あいつらだ。あのスピードにのせられた時点で、こちらの負けは決まっていたのかもしれない。


 ファイヤーボールゴッドスピードの体勢が崩れ、ふわりと宙に浮いたジョニーの身体が、そのまま地面へと投げ出される。すべてがスローモーションに流れていく視界の中、それでいてなお速く駆け抜けていく白い飛竜。

 彼らが目の前を横切った時、その騎手の視線は、すでにこちらを向いていなかった。


「ああ……、すまねぇな、ファイヤーボールゴッドスピード」


 77番のゼッケンをつけたあの男が見ている先、それは――、








『ゴォォォォ―――――――――ルッ! 本日のラストレース、何よりも過酷な24000mを制したのは、“白い超新星”アルマファブロスだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ