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EPISODE 05


薄暗い廊下から診察室に呼び入れられた私を待っていたのは,予想通

りの診断だった。「高血圧」。「高脂血症」。「中性脂肪」。「コレステロー

ル」。「動脈硬化」。少し前まで自分に関係ないと思っていた言葉が,次

々と担当医の口から吐き出された。

私も,もう中年なんだな。そんなことを実感した。気持ちでは若いつ

もりでも,身体はそうはいかない。さみしいものだ。でも、これは誰に

も逃れられない問題だし,わかっていたことだ。そう自分に言い聞かせ

ようとした私だったが,医師の言葉が安易な気休めを打ち砕いた。

「それから,卵もです。」

「えっ?卵?」

「はい。卵を食べ過ぎないようにしてください。」

卵を制限?そんなことは無理だ。それは,私に最大の楽しみを諦めろ

と言うのに等しい。私は,絶望的な気持ちになって,黙り込んでいた。

「山田さん。よろしいですか?」

この医師が嫌いだった。いつも事務的な口調で,なんだか人間味が感

じられない。それに,いわゆるイケメンで,金もある。こんな男に私の

気持ちがわかるはずがない。わかってたまるか。週末に秋葉原のメイド

喫茶で食べるオムライス。それだけを楽しみにして,辛い仕事に耐えて

いる私の気持ちなど,わかるものか。

約束したのに。お気に入りのメイドさんと。今週末は,ケチャップで

ザクレロを描いてくれるって。私のために練習しておくって言ってくれ

たのに。怒りがこみ上げてきた。どうして私がこんな目に遭うんだ。

私の怒りをさらに燃え上がらせたのは,医師の態度だった。彼は,私

に背を向け,のんきにパソコンのキーを叩いていた。

 この野郎!限界だった。私は,思わず叫んでいた。

「ふざけるなよ!勝手なこと言いやがって!あんたに私の気持ちがわかるのか?あんたみたいに恵まれた奴に…。」

「山田さん。」

彼は,表情を変えずに言った。

「こちらを見ていただけますか。」

彼が立ち上がり,パソコンの画面が見えたとき,私は言葉を失った。

「そ,それは…。」

私の行きつけのメイド喫茶のホームページが開かれていた。

「なぜ…?」

「山田さん,ご存じですか?このお店は,オムライスだけでなく,チキンライスにも絵や文字を描いてくれるんです。まあ,色が同じだから目立たないのが難点ですがね。でも,メイドさんのなかには,チキンライスのほうが描きやすい,って言う子もいるんですよ。」


1か月後のこと。

 私は,腕を痛めて,思わずしゃがみこんでいた。メイド喫茶の学園祭イベント。メイドさんに薦められて,年甲斐もなく「腕相撲大会」に出場した私は,いいところを見せようとして,張り切りすぎた。

 そばにいた男が,近づいてきて,私を助け起こそうとした。

「大丈夫ですか。」

「あ,ありがとう。情けないなあ,こんな…。」

痛みに顔を歪めながら立ち上がった私に,男は笑みを見せて言った。

「骨は折れていないようですが,後で専門医に診てもらったほうがいいですよ。申し訳ないですが,ご存じのように,私は内科医なんで。」

〜 オムライス・クレイジー EPISODE 05 『フレンズ』 〜





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