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EPISODE 03


「ただいま。」

 呼びかけてみたが,返事はなかった。

とりあえず,俺は,玄関の灯りをつけた。そして,妻の靴がないことに気づいた。

 出かけるとか言ってたかな?

俺は,着替えようとして,部屋に足を踏み入れた。

 「痛っ!」

 足の裏に何かが突き刺さった。涙目になりながら引き抜いた俺は,暗がりであったが,瞬時にそれを識別した。

慌てて部屋の電気をつけて目にした光景は忘れられない。床一面に,コレクションしていたフィギュアが転がっていた。しかも,そのどれもが,無惨にも関節をへし折られていた。

俺の右手から,シャア専用ゲルググの頭部が滑り落ちた。


妻が出ていった。

確かに,俺は,趣味にかまけて家庭をかえりみなかった。しかし,それにしても,あまりに突然のことだった。

混乱した俺の頭に,様々な場面が浮かんでは消えた。出張で東京を離れていた時,新作ゲームソフトを買うために,妻をソフマップ店頭に並ばせたこと。メイド喫茶の会員証の束を見つけて,何か言いたげな妻を,開き直って怒鳴りつけたこと。掃除をしていて,誤って『ハロ』を踏み壊した妻に平手打ちしたこと。

俺は,身勝手だった。でも,しかし…。それは…。まったく考えがまとまらず,ふらふらと家の中を歩き回るしかなかった。


どれくらい時間が経っただろうか。ふとダイニングのテーブルを見た時だ。俺は,思考の迷路から抜け出すことができた。そこに食事が用意してあったのだ。

そうだ。妻は,出ていったのではなかった。怒りにまかせ,たいへんなことをしてしまったと気づき,顔を合わせるのが気まずくなっただけだ。きっとすぐに戻ってくる。そしたら,無理にでも笑顔を作って迎えてやろう。フィギュアのことは許せないが,それは後の話だ。弁償させれば済むことじゃないか。

俺は,そんなことを考えながら,テーブルに近づいた。

「えっ!?」

全身の力が抜けていくのがわかった。俺は,テーブルに両手をついて身体を支えた。妻が作っていったのは,オムライス。

 その上には,ケチャップで『リコン』と書かれていた。

 

〜 オムライス・クレイジー EPISODE 03 『アキバ離婚』 〜



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