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破滅への道標  作者: ぴーよん
零章
3/6

かくれんぼ兄弟と若作りっ子


 亜未の部屋を出た宴夢は、そのまま双子と女性の元へと向かった。目的の内1つ目は、実験体の彼女と接した感想を訊くこと。2つ目は、新たな実験体候補の少年について資料から気付くことがないか見てもらうことだ。ちなみに、彼らも彼女の部下のようなものである。序列としては彼女の方が上だ。それなのになぜ訊きに行くのか。それは宴夢よりも彼らの方が考えるのが得意だからだ。単純に宴夢の頭の性能が足りないと云ってもいいだろうか。

 階段へと通じる扉のロックを解除し、押し開ける。そのまま階段を昇っていく。無機質な床に、靴音がよく響く。全体としてもこのビルは、足音などの音が響きやすくなっているのだ。それが何故かは、宴夢には解らない。こういうことに詳しいのは、このビル内ではそれこそ亜未位のものだ。後はボスか。なんにせよ、実験に関りがあるとだけ覚えていれば問題ないのだ。(そういうところが馬鹿である所以か)

 白い床と左右につけられた蠟燭は亜未の趣味だろう。確か階段は基本的には下側のフロアのものの管理下にあったはずだ。

「僕様ちゃんは階段の管理をしてナイ。ボスのおかげだネ。」

 まあ、管理するとなったらほったらかしにしただろうケド。そう呟いたりもしながら階段を昇り切り、扉を押し開けた。


 双子はお茶会をしていた。女性も一緒になって談笑している。

「ヤッホー!」

 そう宴夢が声をかけると、3人とも一斉に彼女の方を見た。

「「宴夢さん、いらっしゃい。」」

 綺麗に声をそろえて言う双子。イゲルとリゲルだ。鏡写しという言葉がお誂え向きに思えるほどにそっくりな容姿。深緑色の髪、翡翠の色の瞳。服も色が違うだけ。というか、服以外での違いがないので服の色で区別をするしかないのだ。服を同じにしてしまえば、もう誰にも見分けられない。それを利用して実験体を翻弄するのが彼らのお決まりだったりする。

「宴夢さん、来るなら知らせてくれていればいいのに。」

とイゲル。すかさずリゲルが続ける。

「知らせてくれればお菓子も用意したのに。」

「亜未から資料もらってきたからネ。また頼むヨ?」

 そういえば、とイゲルが思い出したように言った。

「実験体がどうだったのかも、訊きにきたの?」

 それもあるヨ、と宴夢が応える。すると、初めて女性が口を開いた。

「妾の方が、答えるにはいいじゃろて。」

 鮮やかな色に綺麗な花柄が入った着物を着ている美女。伏し目がちな、琥珀色の瞳の持ち主。美しく長い茶髪は地毛で、1つの団子のように纏められている。傍らには、紅い唐傘が立て掛けられている。明の宮現、たしか26歳だと云っていた。花魁のような女性であり、女傑と呼ばれるに相応しい人物だ。ちなみに、現在いる階は三階。彼女は四階の担当なので、おそらく双子に呼ばれて降りてきたのだろう。よくあることだ。

 手に持ったカップの中の水面を眺めながら、彼女は若干苛つきの交じった退屈そうな声音で言う。

「あの小娘、どんな強さですら持っておらん。」

 お陰で殺してしもうた、と呟く現。聞いた宴夢が

「弱っちい、ということでショ?やっぱり、一般人をOKにしちゃあ駄目ダネ。僕様ちゃんの暇つぶしにもならないヨ。」

と不満げに言った。なかなか楽しく戦えず、かなりストレスが溜まっているようだ。狂戦士な二人に、双子の弟がなだめるように言う。

「でも、そろそろ正統派な奴なんじゃないの?」

「それが、そうじゃないんだよネ。」

 宴夢の言葉に、その場にいる全員が疑問符を浮かべた。



 宴夢の発言に、双子が表情を凍りつかせた。心做しか少し顔が引き攣っているようにも見える。現は、相もからわず退屈そうな表情で聞いていた。分かっていたのかもしれない。

 だからネ、と宴夢が続ける。

「次は現ねぇに行ってきて貰いたいなぁって、ネ。」

 現が、飲んでいた紅茶を吹き出した。

「冗談じゃない、双子に行かせりゃいいさ。」

 打って変わって嫌そうにする現に、宴夢が追撃するように言う。

「現ねぇが一番暇でショ?」

「否定しないが……。」

「久しぶりに、"完全忘却"使っておいたラ?」

「うぅ……」

 愉しそうに逃げ道を塞いでいく宴夢に、とうとう現が折れた。抵抗しても無駄だと悟ったらしい。

 せめて、と現が条件を出す。

「ボスの許可貰っておいて欲しいんじゃけど。」

「いいよ、それぐらいなラ。」

 宴夢は、あっさりと了承を出した。険悪な雰囲気の霧散に、双子はホッとしたらしかった。まあ、二人のとばっちりを受けることもある双子なので、無理もないことではあるが。



「あ、そうダ!」

 と、唐突に宴夢が声をあげた。先程のあと、現が出発してからのことである。

 何を思いついたのか、キラキラとした表情で、興奮したように双子に言う。

「鬼ごっこしよーヨ!良いでしょ、少しくらイ。」

 双子は、この世の終わりに絶望したかのような表情をしている。目が死にかけている。それを無視して宴夢が続ける。

「僕様ちゃんが鬼ダヨ。一分待ってあげるカラ、ね。」

 その言葉に、双子は弾かれたように駆け出していった。脱兎の如く、という言葉が相応しいような様子だった。



 このあたりで、彼等彼女等が何者なのか話しておくべきだろう。尤も、話したところで殆どの人は理解も納得もしないだろうし、共感も同意も出来ないだろうが。鬼ごっこの話?そんなのは、双子にとってトラウマになるような体験であったことを知っていれば十分だ。とはいえ、これだけでは好奇心が湧いてきかねない。少しだけ、会話を載せよう。



「イゲル、イゲルぅ!来てる、来てるんだけど!」

「やばい、死ぬ、死ぬって!!アアアァァァアアア、ごめんなさい、ごめんなさい!」

「イヤアアアァァァアアア!怖い怖い怖い!来ないで、来ないで!」

「イゲルもリゲルも怖がりすぎじゃなイ。(ニヤア)クスクス」

 キチキチ、キチキチキチキチ。

「「キャァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアア」」

「うるさいナア、ま、構わないケド。」

 キチキチ、キチキチキチキチ。



 考えてみるといい。

 白髪の少女が、すごい速さで追いかけて来るのだ。

 緋色の瞳を輝かせて。

 狂気的な笑みを浮かべて。

 鈍く光を反射する刃物をちらつかせて。

 かなり恐ろしい絵面であるとは思わないだろうか。

 まあ、彼女等の恐ろしさについても少しは語れるだろう。詳しく、とはいかないのだが。

 彼等彼女等の狂気の沙汰を、しるしていこう。


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