青の進行役
今回からは1000から2500字の間になります。m(_ _)m
白髪の少女が歩いていた。コツ、コツと靴音をたてて。丁寧に掃除された廊下に、靴音がよく響く。黒いドレスを着て、綺麗に手入れされた長い白髪を揺らして歩く彼女。血のような緋色の瞳の奥には、底知れぬ混沌が渦をまいており、口元は嬉しそうな笑みの、それでいて狂気を感じさせる形をしていた。宵の宮宴夢。この時点では肉体年齢は7歳で精神年齢は16歳。
今は、とある少女の元へ向かっているのだ。宵の宮、その分家出身で、情報屋と暗殺者をしている。また、実験の一端を担ってもいるのだ。宵闇亜未、13歳。宴夢の部下。彼女から次の実験体候補の情報を受け取るため、白髪の少女は移動しているのだった。と言っても、同じ実験施設のビルに住んでいるのですぐに到着する。
大きな茶色の扉をたたき、呼びかける。
「亜未チャン、入るヨー。」
「分かりました、どうぞ、宴夢姉様。」
返事を受け、白髪の少女は部屋に入った。
女の子らしい、可愛らしい部屋。その中で、彼女は待っていた。
「次のターゲットはこの人でしたよね?」
と、写真を手渡す亜未。横髪は細い三つ編み。後ろ髪は緩く一つ結びにされ、左に流してあった。黒縁の片眼鏡を右にかけている。優しげな目元が特徴的な少女だ。
「そうだよ、普通の世界の住人だネ。」
ベッドに勝手に腰掛け、宴夢は髪の毛先を弄りながら答えた。退屈そうな表情。片眼鏡の位置をなおしながら、青髪の少女は言う。
「虐めを受けているみたいですよ、この人。」
「狂気は十分、というわけダ。」
亜未は、一瞬口ごもった。少し目をそらす。宴夢が少し首を傾げると、少し言いづらそうに懸念を口にする。
「人間関係が、結構厄介なんです。虐めている側はこちら側の人間と頻繁に取り引きしているとある会社の社長の息子達で、しかも虐めを隠蔽し親しげにしている。行方不明になった場合、虐めの露見を防ごうと本気で捜索をしてくるかもしれないので、面倒ですよ。」
私が寝れなくなります、と亜未は若干遠い目になりながら言った。望んだ亜未が悪い、と宴夢が抗議するように言う。そうですけど、とため息をついて話す。疲れた顔だ。
「事故に見せかけたり出来ます?」
「僕様ちゃんが面倒くさいケド……。」
「頼みますよ?」
亜未が資料を手渡した。受け取る宴夢。良からぬことを企む子供の顔を10倍にしたような表情で応じた。
「気が向いたらネ。」
亜未は増える仕事の気配を察し、パソコンの前に突っ伏した。画面には、人類最悪の青年が望みそうな標的候補がずらりと並んでいる。
「…………勘弁してくださいよ………………。」
「青の進行役が何言ってるノ。その気になれば、すぐに片付けられるデショ。」
意地の悪い顔で笑いながら言う宴夢。そうですけど、と言って亜未が顔をあげる。
「大変なんですよ?ほんとに。お二方の計画をつつがなく進める手助けが私の仕事ですけど……。」
「進行役の本領発揮でショ?」
頼んだヨ、と微笑む少女。仕方ないですね、と亜未はため息を吐いた。
「幸せが逃げるヨ?」
「貴方のせいです。」
「そうかナ?」
とぼけたように答え、宴夢は扉に手をかける。と、亜未が思い出したように言った。
「頑張ってください、宴夢姉様。」
「分かったヨ。」
扉を閉める音が、大きく響いた。これからの物語の、始まりの鐘のように。