いざ、金の国
「うわぁ…綺麗……」
見渡す限りの黄金。金色で出来た建物、植物や川までもが金色だ。
空も、まるで黄金を散りばめた夕焼けの色だ。
少し、目がチカチカするかも。
更に色々な所を見ると、遠くに背の高い四角い──本当に真四角なサイコロのような──建物が、まるで積み木のように積まれている。
「なに?あれ??」
「ああ、あれは、金の国のお城です」
「なんで、あんなふうに積み上げているの?」
「そんなこと決まっているじゃあないか!金はとっても重いんだ、積み上げなくっちゃ潰れてしまう」
そう言ったのは、この金の国に住んでいる人だろうか。金色でピカピカした服を着た、でっぷりとしたおじさんだった。
金が重いなら、積み上げたら余計に潰れるような……
「ああ!今日も愉快だ!いい一日になるぞ!」
そう言っておじさんは去っていく。高らかに笑いながら。
辺りを見回すと、みんな大声で、とても愉快そうに笑っている。
「この国は、喜の感情妖精によって【喜び】で溢れている国です。ですから、ああいった人が多いんですよ。でも、これは……」
「けっ。おかしくもないのに笑いあってるなんてバカバカしいにも程があるぜ」
そう言って雅の言葉を遮ったのは、褐色の肌を持ち、金色の髪をライオンのように大きく広げ、エメラルドグリーンの瞳を持つ、男の子だった。
「ユーゴ王子!お久しぶりです!お元気でしたか? 」
「ふん、元気もなにもねぇだろうが。お前が解決策を持ってこねぇから、うちの国がこんな風になっちまってるんだぞ?わかってんのかよ」
「それについては、申し訳ありません……。ところでユーゴ王子、しばらく見ない間に、『感情妖精』の力が強まっていませんか?」
「……ねぇキナコ。なんかこの、王子の人、口も悪いし、雅に突っかかってるけど、なにかあったの?それに『感情妖精』って?」
「いやぁ、なにも。ただユーゴがライバル視して、しかも、この異変のせいでイライラしているだけにゃあ。
『感情妖精』というのは、銀の国と伝説の国以外の国で力を増しすぎた、妖精たちのことだにゃあ。この妖精の力が強まると、この国の人たちみたいになるにゃあ。説明してにゃかったっけ?」
「してなかったわよ!!」
私とキナコがごにょごにょ話していると、ユーゴ王子がこっちを向いた。
雅に負けず劣らずとてもイケメン……。
「こんにちは、はじめまし…」
「おい、そこのお前。なにボーッとしてるんだ。ここに来たってことは、植物を探しに来たんだろ?さっさと見つけてくれよ」
ぶっきらぼうな言葉でユーゴはまくしたてる。
前言撤回!コイツ、ちょっと礼儀がなってないわ。
私、挨拶もまだしてない……。思わず顔がひきつる。
「綾乃さんすみません…。ユーゴはこんな風に言ってますが、本来は根は良いやつですから…」
「ちっ。根は、ってなんだよ。なんか文句あんのか?」
ギロリと睨まれる。
うわー、すごく理不尽……。
「な、無いです……」
「おぅし。それじゃあ、とっとと行くぞ」
「え?あなたも行くの?」
「ったりめぇだろ。王子であるこの俺が行かなくて、誰が行くっつんだっての」
雅の言う通り、根は良い奴…なのかな。
「おい、チンたらしてんじゃねぇよ!」
や、やっぱりコイツ…!礼儀がなってない!チンピラですか?!
歩きながらユーゴが言う。
「いいか?この国の花、金鈴花は、銀の国の植物と対になるような植物って言われてんだよ」
「それってどんな?」
ずいっと差し出されたその【絵】には、
神楽鈴のような……といっても、私も本物を見たことが無いので、それっぽいとしか言いようがないのだが、鈴のようなものを付けた植物が描かれていた。
「おぉ……、すずらんを集合させた様なかたち……。これが、銀の国と対になるになるって、どういうことなの?」
「さあ?俺もよくわからねぇけど、昔はそいつとかを使って祈ったり、なにかを占ったりしてたみたいだぜ」
いや、よくわからないんかい。
と、心の中で突っ込みつつ歩くこと約一時間。
「ね、ねぇー!まだ着かないの?!」
「なんだよ、まだ一時間も歩いてねぇぞ?体力落ちすぎてんじゃねえの?」
と、ユーゴは笑う。笑顔は可愛いわね……笑顔は!!
「ん。着いたぞ」
そこは、様々な銀色の植物が生えた丘だった。
金色の花、花、花……。
チューリップによく似た花。
スイレンによく似た花。
彼岸花によく似た花。
タンポポによく似た花。
……と、四季折々(私の世界では、だけど)の花が咲き乱れている。
が、しかし。
「金鈴花は?」
そう、金鈴花の姿はどこにも見当たらないのだった。
「この国の花は気まぐれで、王子の俺でも見つけたのは、小さい時の一回きりだ」
「だから、こうしてお前に来てもらったわけだが……」
「見つからないな/見つかりませんね」
ユーゴと雅の声が重なる。
「……なんか申し訳ないわ」
「綾乃さん、しょんぼりする必要はありませんよ!きっとこれから見つかります!」
その時、私のポケットの中に入っていたルーペが、ピョンっと飛び出した。
「ご主人様!今こそ私めに名前を!名前を付けてくださいませ」
「え?今……?」
「今!なうでございます!」
うーん。なう……。そう言われても……。
考えてなかったなんて、言えない……
まだ、考えられてないの、と言おうとした時ふと、まるで天から降りてきたみたいに、言葉が降ってきた。
「サンティコ」
その言葉を言った瞬間、ルーペが虹色の光に包まれた。
「……サンティコ。私め、良き名前を賜りました。ありがたき幸せ」
そのとき、どこからか金木犀のような香りがただよってきた。
「ふふ……。名前はつけ終わったみたいね。これでわたしも安心して見ていられる」
「誰!?」
この声はここにいる誰の声でも無かった。ここには私含めルーペとキナコを合わせれば五人のはず。
その誰の声でもない。
「邪魔が入らないように、少し他の方たちは眠っていてもらうわね」
周りを見回すと、4人(キナコとルーペを人と数えていいかは分からないが)はすやすやと眠っている。
「どこにいるの?……あなたは、誰?」
「わたしは……あなたたちが言うところの、金鈴花よ」
私の目の前に、ふわっと金色の絹のような服をまとった少女が降り立つ。
「ふふ。驚かせて、ごめんなさいね。人と話すのは久しぶりだから、嬉しくて」
「あなたと二人きりでお話してみたかったの」