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過去からの帰還

目を開けると、元の部屋に戻っていた。 雅は、私の頭をなでながら、

「よく頑張りましたね」 と言ってくれた。 だけど……私は……


「ごめん。ごめん…!結局、たまごの花、GET出来なかったよ……」

雅と傍にいたキナコは顔を見合わせて、言った。


「綾乃さん、たまごの花のタネはGETできていますよ。ほら!」


雅が見せたのは、あの時私が、おばあさんから渡された水筒に入った、大量の卵型のタネだった。


「綾乃さんが、頑張ってくれたから、タネを手に入れられましたよ!戻ってきた綾乃さんの手に、水筒が握られていました。これは、誇るべきことです!」


「そうにゃあ。あの試練を受けて、タネだけでも持ってこられたことは、とってもすごいことにゃあ」


「でも私……。そんなに立派に出来なかった。本当は、花をGETするっていう話だったのに、それに……」


目が熱くなる。空気を吸うのが苦しい。


「……」


「綾乃さん、」


「……」


「辛いなら、話さなくてもいいです。だけど、話を聴かせてくれませんか。私は、話を聴くことぐらいしか出来ませんが、それでも一人で抱え込むより、ずっといいと思うんです」


「そうにゃあ。わっちも一緒に聴くにゃあ」


二人の言葉に胸の痛みが少し和らいだ。 私の話をして、 もしかしたら軽蔑されてしまうかもしれない。だけど、二人を信じたい。


「……あのね、私ね…」



私は、夢の回廊や風の渦の扉で起きた出来事を話した。 私の昔の話のことも。

二人はあいづちを打ちながら優しい目で聴いてくれた。




「私には、当時のことは、わかりません。ですが、綾乃さんが、辛かったのは話を聴いてよくわかりました。そして、とても頑張ったことも。よく耐えましたね」


雅は私の頭をなでながら続けた。


「人間って、みーんなに好かれることって、出来ないと思うんです。それは、仕方ないことだと私は思います」


「綾乃さんが、辛い経験をしたことは、きっとこれからの未来に役に立ちます。こんな事、言われてもって思うかもしれませんが」


「弱い人の立場が分かる、それってとても大事なことですよ。それに、綾乃さんは、誰からも認められていない訳では、ないと思います」


「私とキナコは、もちろん認めていますし、きっと綾乃さんをより近くで見ていた方達もきっと認めているはず」


「風の渦の扉や夢の回廊は、挑戦する本人が一番見たくない過去をより複雑にさせたり、負の感情を利用して、言われたくないような言葉を作り出し、記憶を掘り起こすんです」


「綾乃さんが辛いと思うなら、今は忘れてしまっていて構いません。人間は辛いことを忘れる習性があるものです。でも、それでいいんです」


「綾乃さんは十二分に向き合った。闘ったんです。風の渦の扉が綾乃さんのこれからの未来に期待をしたから、タネを貰うことができたんです」


「綾乃さんは、頑張りましたよ」


私は、ずっと誰かにこうして、聴いて貰いたかったんだ。頑張ったねって、言われたかったんだ。

今まで口を閉ざしていたキナコが言った。


「綾乃、わかり合えない人間ってのは居るもんなのにゃあ。でもにゃ、『わかりあおう』としたことが大事なのにゃあ。まあ、その相手と上手くいかにゃかったら、それはそれで仕方ないし、距離を置くことも、大事なことにゃあ」


「人間って、もがいてることが生きているんだと、わっちは思う。綾乃、もがき続けるにゃあ。皆も、もがいてもがいて、取り繕って生きているけど、それでいいんだにゃあ。大事なのは、『今』を生きることにゃあ」


二人の言葉が素直に 嬉しかった。 心が少し、少しだけ、軽くなった気がした。

そんな温かい言葉をくれた二人。

私は恵まれている。こんなに私のことを考えてくれる、人達に出会えて。



「…二人とも、ありがとう。私、頑張るよ。ゆっくり、進んでみる」


「頑張りすぎないでくださいね」

雅が柔らかに笑う。


ぐぅ〜。 またもや、私のお腹が鳴った。


「ご、ごめん!ホッとしたら、つい」


「いいんですよ!さあ、ご飯の時間です!作りますから、そこで座って待っていてください!雅スペシャルをご馳走します!」


雅スペシャルって…。 私はちょっと笑いながら、これからのことをぼんやりと考えた。 これから、少しずつ歩んで、道を切り開こう。

そうしたら、きっと今よりも誇れる自分になれるはずだ。

ご飯が出来るいい匂い。


……今日は、ハンバーグかな?




翌朝起きると、雅が服を渡してきた。


「綾乃さん、すみません、ずっと失念してました。この国の服をお召になってください!ずっとパジャマで居させてしまって申し訳ない……」


ハッと私は自分の格好を確認した。

うわ……。私パジャマでずっと過ごしてた……。

いつも外出しない時はこの格好だったから全然気にしてなかった……ぐぬぬ。


「それに、お風呂もまだですよね!ささ、入ってきてください!温まると気持ちも軽くなりますよ」


「あ、ありがとう…」


あれよあれよと私は洗面所に連れていかれ、お風呂に入った。





「はぁ〜、あったまったー!」


お風呂って良いな。現実世界では苦手だったけど、やっぱり入るといいものだな。


雅がくれた服は、とても可愛らしい服だった。暖かそうな柔らかな素材で出来たそれは、ところどころに煌びやかな刺繍があって、とても綺麗。


「朝ごはん出来てますよ〜」


雅が呼んでいる。


「おっ、今日の朝飯はなんだにゃあ?」


「ふふふ、今日は雅スペシャルNo.2の目玉焼きです!」


キリッとした顔をして誇らしげな雅を見ると、やっぱり笑いが込み上げる。


「ふふふっ」


雅とキナコがこちらを見て、そして二人は顔を見合わせて笑う。


「笑顔が戻ってきて良かった」


雅は本当に嬉しそうに笑う。

そんな姿に私は自分もそうなりたい、そんな風に人の幸せを喜べる人間になりたいな。


「ふぅ。ご馳走様。ありがとう、美味しかった」


「えへへ…」

雅がふにゃっと笑う雅。こういうところは可愛いよね。


こういうところ!だけよ!!



「さて!ちょっとだけこの、たまごの花を育てる時間をもうけたいと思います!」


雅の急な大声に驚きつつ、



「…え、良いの?旅は?」


と聞く。すると、


「とりあえず、この世界に綾乃さんが慣れるのが大事ですので!それに、たまごの花は面白い育て方をするから、楽しいですよ〜」


「そうにゃあ。食べても美味にゃあ」


「キナコ!食べちゃダメだよ?!」


やっぱりこの二人の会話はほっこりする。


「それで、たまごの花って、どうやって育てるの?」


「それはですね…」



雅が言った内容はこうだ。


①まず、日当たりの良い土にたまごの花のタネをまく。


②数時間後に芽が出るから、綺麗な水を与える


「え?!それだけ?なんだかとても簡単な育て方ね…」


「でも、ここからが本番ですよ!」


「?」


「たまごの花が育ったら、そっと根を掘り起こして手に取るのですが、」


「その時に、たまごの花が」


そこで雅が軽くためて言葉を放つ。


「進化をします!!」


「…ん?」


進化とは。ポ○モン的な?私やったことないからわからないけど……(全国のファンの皆さま、すみません)


「手に取ると、取った人物によって進化するんです!その人の特性が現れるって言うか……。とっても面白いんですよ〜」


「へ、へぇ……」


雅は面白そうに話すけど、それってどんな進化だろう?なんか、禍々しい物になったりしたら嫌だなぁ…




「では!!早速まいて育てましょう!!!」


「お、おーう?」


そんなこんなして、私と雅とキナコ(キナコはほぼ日向ぼっこをしていたが)は、この家の前の庭に、タネをまいた。


──数時間後。


「わぁ、すごい。もう芽が出てる!」


「それではこの『聖なる水』をあげてください!」


「それ、さっき台所の水道からくんだ水だにゃあ……」


「しーっ!こういうのは、雰囲気が大事なんです!」


「あはは…」


私は苦笑しながら『聖なる水』をあげた。


すると、芽がぐんぐんと伸びていってこの間雅が見せてくれたような、たまご型の花がついたのであった。


「おお…」


すごい。絵で見るより、ずっと綺麗な花だ。茎や葉の緑は翡翠のような緑色で、透明感がある。ゆで卵のような花は白身に見える部分は様々な角度から見ると色々な色に光って見えるし、真ん中の黄身のような部分も、ぽうっと暖かく光っていた。


「綺麗……!!」


さすが異世界。植物も幻想的だ。


「それでは、掘り起こしますよ!」


「あ、そうだった!うーん、 もう少し見ていたい…」


「早くしないと枯れちゃうにゃあ〜」


ぐぬぬ。よし、心を鬼にして掘り起こすか…。


「そおっとですよ!そおっと!」


「わかったわかった!」


私はそおっとたまごの花を掘り起こす。


すると、花を手にした瞬間、花が眩しいくらいに光った。


そして、目を開けると、そこには──


「る、ルーペ?!」


そう。私が採取した花は、ルーペの形になっていた……。

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