この異世界は
ふぅ、とため息をつく。
そして、仁王立ちになり、正座させたにゃあと雅さんを前に確認をしていく。
「まず、第一に、私が呼ばれたのは雅さんの嫁になってこの世界を救うため。そういうことね?」
うんうんと、二人が頷く。
「で、この世界を救うのが……あー、なんだっけ、もう一度お願い、なんか頭痛いわ」
ハッと顔をあげ、雅さん。待ってましたと言わんばかりに
「説明いたします!」
と、敬礼する。
「まず、この世界には銀の国、金の国、緑の国、魔法の国、科学の国、そして、伝説の国
があります」
雅さんは続ける。
「綾乃さんが、地理的なことは苦手と仰っていたので、省きますが…。僕達がしなければならないことは、この国々の代表する植物を伝説の国の王に献上し、あるものを取り戻してもらうのが目的です」
そこまではさっき、聞いた。だが、私には気になることがあった。
「なんで雅さんがやるの?雅さん、王様じゃないんでしょ、王子でしょ。こういうのは、王様の仕事じゃない?」
急に雅さんの顔が曇る。
「それは……」
言葉につまる雅さん。
見かねたにゃあが言った。
「それはね、各国の王様達は夢の中に入っちゃったからなんだにゃ」
え…、それってどういう……。
「やはり、私から説明させてください」
と、雅さん。
「元々は、この世界の六つの各国は非常に友好的な関係でした。ですが、伝説の国で行われた、伝説の国の王子の誕生を祝う席で、なにかをしてしまったと思われます」
「……思われます?」
「はい、私は当時まだ小さかったので、その席にお呼ばれはされていなかったのです」
困ったように笑った雅さん。
「それは、各国の王子たちも同じで呼ばれて居ませんでした。それで、その席にいた王たちは、なにかを起こしてしまったのでしょう。それで……覚めることは無い、夢の世界に引き込まれてしまったのです。伝説の国の、お怒りをかったのでしょう」
え…、それって……
「聞にくいんだけど、亡くなってしまわれたの……?」
「いや、亡くなってはいませんよ。ただ…」
「ただ?」
視線を落とし、雅さんはこう言った。
「一度、夢の世界に引き込まれしまうと、死ぬ、というよりかは冬眠、といったような状態で眠り続けるのです」
私は少し考えてから、
「それって、眠れる森の美女、的なやつ?」
雅さんはまた力なく笑みを浮かべた。
「そうですね。…あなたがいた世界だと、そのお話が近いでしょう」
「……そっか」
ここで、あることが引っかかった。眠れる森の美女だって、最終的には王子様のキスで目覚める。それだったら、この世界の王様達だって……!
「方法は確かにあるにゃあ」
「!」
にゃあは心を読んだらしく、私をじっと見据えたまま、
「方法はね、あるんにゃよ。ただ、それを実行するだけの人の力が足りないにゃ」
「各国の王子様たちは?どうなの?協力……してくれないの?」
「各国の王子達も、急に王の存在を失って、国の存続が危ういのです」
と、語る雅さん。
「恥ずかしながら、私もその一人です。王子という立場でありながら、政を行うことが出来ず……」
今にも泣き出しそうなそんな雅さんを見て、私は彼の背中をさすった。
「やはり、あなたは変わらず優しい人ですね」
雅さんはふっと笑い、
「ですが、綾乃さん。あなたがいれば、話は変わります」
「え」
「あなたには、六つの国の植物を見つけられる能力があります。ですから、その力をどうか、私たちに貸して頂きたいのです。あなたが共に来てくれれば、各国の王子達も首を縦に降るかもしれません」
「ちょっと待って、整理する」
六つの国の植物を見つけられる能力……。
そして、私?
「あの、私がいて、なんで各国の王子様達は同意してくれそうなの?あと…、植物を見つけられる能力って??」
「この世界も、王たちが健在の頃はあなたの元いた世界とも多少なりとも交流がありまして、稀に向こうからの旅人たちもいたのです」
「ですが、先程お話した件により、二つの世界を行き来する、扉が閉ざされ、伝説の国により、植物を見つけられるのは、この世界に新たに訪れた旅人であること……」
「そして、この植物を献上する、というのが伝説の国のお達しです」
「………」
それって……、どうきいても無茶なお達しな気がする。扉が閉ざされたら、どうにもしようが無いじゃない。
「あれ、でも、私は?私は、なんで来られたのよ?」
ハッと雅さんは目を見開く。
「そう!それなんですよ!」
「?」
「各国の王子達もそれぞれ祈祷を捧げ、向こうの世界から人を呼ぼうとしました。ですが、やはり無理でして、諦めていたのです」
「それなのに、どうして……」
「だから、謎なんだにゃ」
にゃあがふっと不敵な笑みを浮かべ、
「だけどね、綾乃。呼ばれたからには、この世界を救う手伝いをして欲しいんにゃ」
「私からも、お願い致します…!」
「……」
結局、私が呼ばれた理由はわからない、けど、ここには私が必要とされている。そして、困っている人が目の前にいるのだ。
私は深呼吸をした。
「引き受けるわ」
「「!!」」
二人とも、ぱぁっと顔を輝かせた。
そして、二人で小躍りしている。
私は、そこまで嬉しそうにされるとは思ってなかったから、ちょっと面食らったが……
「だって、それをすればとりあえず帰れるんだよね?」
「はい!」
それならば。
「そういう事なら引き受けるわ!私だって鬼じゃ無いしね。でも、」
「でも?」
「結婚の話はまた別だから」
雅さんは、うなだれているが…。
「それはそうにゃね」
カラカラとにゃあが笑う。
「じゃあ、決まりだにゃ。早速、明日から仕事開始にゃ!」
「「おー!!!」」