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ときどき混じる✖✖✖✖

柿沢 桃様


桃さん、こんにちは。この間はどうもありがとうございました。

実は今回はお誘いメールなんです。

私と峰岸さんが入っているSNSのダイビングチーム『カリーノ』のダイビングに参加しませんか?

もちろん私たちも参加しますよ。

チームにはダイブマスターの人がいてガイドもしてくれます。

黄金崎と大瀬崎を泊りがけでなんと9,000円でOKだそうです。

しかも何本潜ってもいいそうです。

今回、桃さんが参加すれば12名になります。

経験を積むのにもいいかな?って思って私は参加します。

よろしければご一緒できたらうれしいです。 清水 萌恵


****


私は大人数のダイビングは経験がなくて少し躊躇。

でもせっかくの萌恵ちゃんの誘いを断りづらいし..


それに確かに経験を積みたいっていう思いもなくもない。


~♪

桃は経験値を80獲得した。

さらに貴重な経験でボーナスポイントを獲得した。


Level 20にあがった!!♪~


ってなるかもしれないしね。


****


集合場所は新宿。車は2台。


私が萌恵ちゃんのとなりに座ろうとすると、萌恵ちゃんのとなりに峰岸さん、私は後ろの席に案内された。


あらかじめ座席が決められていたのかもしれない。


私の隣には田尾さんという30前後の男性が座った。


出発と同時に自己紹介が始まる。

私はこういうのが不得意なんだ。

ダイビング歴と名前だけのあっさりした自己紹介をした。


全員の自己紹介が終わると..

『今日は盛り上がっていこう! イエーイ!!』と場を盛り上げる掛け声が上がる。


早くも参加してよかったのか?という気持ちになってしまった。


車が高速にはいると隣の田尾さんが話しかけてきた。

自分の趣味や仕事、ましてや年収なども話してきたけど、私は相槌を適当にうち話を受け流していた。

社会人になり社交辞令として、いくらかは大人の対応を覚えた私だが、さすがに初対面の男性に『桃ちゃん』呼びされるのは少し嫌だった。


「桃ちゃんは今度の誕生日でいくつになるの? 誕生日はみんなで祝えたらいいね! 」


私は適当に応えて寝たふりをし始めたが、気になる視線に服を直した。


長い道のり黄金崎についてそれぞれバディを組むことになる。

私はいつものように峰岸さんと組みたかったが..


「はい、桃ちゃんのバディは田尾さんね」


今回、引率するダイブマスターの人が勝手に決めてしまった。

まぁ、普通に考えても峰岸さんは萌恵ちゃんとバディになっていただろうが、田尾さんとバディになるのだけは避けたかった。



私がドライスーツを着るときになると..

『桃ちゃん、着やすい様に首の部分を広げてあげようか? 』と田尾さんが手助けしようと私に近づいてきた。

『大丈夫です。便利アイテム持ってますので! 』とコンビニ袋でそれ回避した。


海に入ると相変わらずマダイのダイちゃんがお出迎え。

春濁りで少し透明度が悪く、バディはあまり離れないようにという事だったが..

突然、私の手を握ってきたのは田尾さんだった。


私はさりげなく振り払いダイビングを続けた。


エキジットでもフィンを脱ぐのを手伝おうと近づいてくる。

だが『自分でやりたい』とはっきり断った。


・・・・・・

・・


昼休み。

4月に入り、芝生の上の日差しが暖かい。


哲夫さんやPAGGI(パギ)の仲間となら気持ちいいのに..

(ああ、七海、シューちゃん、蘭子、助けて!)


向こうの集団からプシュっという音がする。

田尾さんを含めダイブマスターのひとも持ってきたビールを飲んでいる。


峰岸さんも飲んでるの?

いや、峰岸さんは萌恵ちゃんと一緒にキャンプ場側のビーチを散歩していた。

私もそっちに行きたい.. でも萌恵ちゃんの邪魔はできないっ....


あっちから田尾さんがビールとつまみを持って近づいてきた。

「桃ちゃんも、ほれ、ビールあるよ」

私はつまみだけもらうとお酒は飲めないとして断った。


2本目も潜り終え、車は黄金崎から大瀬崎へ向かう。


泊りツアーのこの企画ダイビングが、明日も続くのかと思うと気が滅入る想いだった。


車の中では少し酔っている田尾さんが相変わらず自分中心の話をしている。

時々、私に質問をぶつけてきたが、スッスッとよけた。


そんな様子を峰岸さんがチラチラと気にし始めているのがわかった。


車が船原峠のトンネルを越えたときだった。


「ねぇ、桃ちゃんはさ、夜寝るときどんな服装で寝るの? スウェット? それともパジャマとか着るのかな? ..やっぱりブラとかも外すの? ほら、開放感とか違うし形にも影響するでしょ?? 桃ちゃんは付けるのかな?」


私はさすがに不愉快になり無視を決め込んでいた。

だけど田尾さんの質問はエスカレートしていく。


「横顔が可愛いね。そうそう、可愛いといえばさ、胸とかも可愛いのがいいよね。僕はさ、手に収まるくらいがいいと思うんだよね。ほら中学生くらいの胸とか手におさまりそうで..桃ちゃんはどうなのかな? 」


その声が耳元で囁くようになると、私は身がすくむよりも、怒りで頭のてっぺんまで熱くなった。


その時..


「おいっ!! お前いいかげんにしろよっ!! 」

峰岸さんが後ろを振り向き、怒鳴り声をあげた。


「な、なにが? 」


「とぼけてんじゃねー! 変な事ばっかり言いやがって!! このやろー! 俺は耳がいいんだからな! 聞こえてんぞ! 」


車内で寝ていた人もびっくりして目を覚ました。

田尾さんは、たじろぎながらも言い返した。


「お、おまえだってそういうのだろ? 」


「あ? なにがだよ? 」


「サークル企画にはそういうのがあるだろうが! わかってるだろ!? おまえだって! 」


「ああ! ふざけんじゃねー! そんなもん知らねーよ! 降りるぞ! 桃ちゃん、萌恵!こんな車に乗ってられねーよ! 」


「おまえら降りてもいいけど金払って行けよな! 」

運転をしているダイブマスターの声が聞こえた。


「うるせー! こんだけありゃ足りるかよ! 」


峰岸さんは無造作に諭吉5、6枚を運転席に向けて投げつけた!


****


—— 船原峠、まだまだ人里から遠い山道だ

空もだんだん暗くなり始める。


私たちは荷物を抱えながら歩くしかなかった。


「ごめん。こんなことになって....」

「ううん。そんなことないよ」


「そーですよ。こんなサークルだとは思わなかった。あいつら最低よ!」


「はは....」

峰岸さんは頼りなく笑っていた。


プップー!

突然、少し間の抜けたクラクションが後ろから鳴った。

軽バンが横に止まると、たくましそうな女性が声をかけてきた。


「やぁ、あんたらどうしたの? こんな山道で! それダイビング器材でしょ!? 山の中で潜るの? ププ....」


「いや、歩いて下まで降りて行こうかと思いまして....」


「私、本当は急いでいるんだけど、乗せてあげないこともないんだからね! ププ....なんつって! ほら、乗りなよ! 」


変な人だ....


・・・・・・

・・


「わっはっはっは! そりゃ良く言ったね! ちょっとはスカッとしたでしょ! 峰岸君だっけ? 男魅せたね! 」


「いや、そういうのじゃないんです。もともと誘った俺のせいだから。でも、本当にそんな目的あるなんて知らなかったんです」




「 ....そういうのたまに混じるんだよね。別にダイビングはひとつの社交場だからカップリングとかも自由なんだけど、度を越しているのがいるんだよね。私も何人かそんな客をガイドしたことあるけど、大概、注意事項守らないんだ、これが」


「ガイドさん?」


「そうそう、自己紹介するわ。私は西伊豆のお助けインストラクターの平子ちゃんだぞ! よろしくね~! 峰岸君、そのカバンの中に名刺あるから『取って、入れて、出す!』じゃない。取って配ってちょうだい!」


「な、なんだろう、この人?」

私は恥ずかしながら、そのギャグを知っていた。


それが平子さんとの初めての出会いだった。

平子さんは私たちを沼津駅まで送ってくれた。


****


電車の中で峰岸さんは謝りっぱなしだった。

今回の参加費を払おうとするが受け取ろうとしなかった。

それでもようやく半分受け取ってくれたのは列車が厚木を過ぎた頃だった。


今回の件でわかったのは峰岸さんが信用できる男だということ。

そして、萌恵ちゃんの事を『萌恵』と呼んでいることだった。

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