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ボンネットと給油口

「というわけで、しばらく須田ちゃんは休職することになった。みんな、その穴は小さくはないけど彼が安心して治療に専念できるようがんばっていこう」


(そうか.. あの時の須田さんの笑顔が寂しそうだったのは.... )


****


「ここのところ体の疲れが取れなかったらしいんだ。それで病院に行ったら病巣が見つかったらしい。まだ治療は可能ということだから専念してもらうことにした。そういうことだから真面目な話、おまえにも車検を頼むことがあるかもしれない。頼っていいか? 」


「当たり前じゃない! あんなの自動式なんだから全然平気よ!! 何なら1日2回行ってもいいよ!! 」


・・・・・・

・・


「おいっ! 誰かみてやれよっ! こんな素人がいたんじゃ怖くてコースに入れねーよ! 」


(ぴえ~ん。そんな声荒げないでよ~)



何であんな強気な事言ってしまったのだろう。

今になって後悔している..


この数刻前の事前検査からもうテンパっていたのだ。



「え~と右ウインカー、左ウインカー、ワイパー」


[ ハザード切って、ハザード切って! ]


「え、え? 何? 検査員さん? クラクション? 」


—ブーーーーーーッ ブーーーーーッ ブーーーーーーッ


[ あのね、ハザードランプ切らないとウインカーわからないからハザード切ってください! ]


「あ、ああ、すいません。すいません。ウインカ―は右と..左」

[ はーい。 OKです ]


「終わった。よかった.. 」


[ ボンネット! ボンネット開けて ]


「ああ、まだだ。はい、はい。 えーと、ボンネットはこれかな? 」


—ポコン!


[ それは給油口! ボンネットはこっちですよ ]


もうむちゃくちゃだ。

私が時間かかるものだから、ほかの検査員まで駆けつけて.. 恥ずかしい。


そして、コースに入ったら入ったでこんな感じに怒鳴られてます。


「検査員、だれかこのお姉ちゃんについてやれよー! 進まねーよ! 」


親切なのか怒号なのか.. もう、わからない....




やっと検査員さん来てくれた。


——ライト検査

[はい。40kmになったらパッシングして。落ち着いて...あとはライト照らして]

「 ....」

 ライト〇


——排ガス検査

[ プローブ! プローブ入れて!! ]

「えっ、ああそうだった。」

 排ガス〇


——下回り検査

ガッコン!ガッコン! ガコガコガコガコ! 

[ サイド! サイドゆるめて! ]

「あ、そうだった。」

 下回り〇


「やっと終わった。無事終わった。ヘトヘトだ.. 疲れたよー」


・・・・・・

・・


「どう? 桃ちゃん、うまくいった? 」

「なんで太刀さんあっちのコースいっちゃうの? 近くにいてよ。いじわる」


そうなのだ。

太刀さん、一緒にいたはずなのに、ひとりで違うコースいっちゃって.. 私だけになったんだ。


「ああ、ごめん、ごめん。もう2回目だから大丈夫かと思ってさ。それに最近は検査員も付いてくれるでしょ。昔だったらあり得ないんだから」


「そうかもしれないけどさ.. 」

「まっ、機械に突っ込まなかったんだからよかったじゃない」


「もう.... 」


「まぁ、そのうち慣れるって。今日で、もう度胸も付いたんじゃない? コーヒー奢るから機嫌直してよ」


「 ..私、オレンジジュースがいい」


****


「ちょっと、あなた! どういうつもりなの? なんなのよ! これは!! 」

「なにがだよ? しらねーよっ! そんなもん 」


「嘘ついてもしょうがないでしょ! 証拠はあるんだから! 」

「おまえ、こんなところでデカい声だすなよ。バカやろう」


車検から帰ると相良さんの奥さんが工場で怒鳴っている!

修羅場だ!

いったいどういうこと?

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