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深く潜る

北川(ほっかわ)ボート1本目でボート講習ダイビングを終え、2本目までの休憩に詩織さんはディープ講習ダイビングで行うことを説明してくれた。


◇◇◇◇

地上で呼吸している空気の成分は約2割が酸素、8割が窒素だ。

ダイビングのシリンダー(タンク)の中は圧縮空気が入っている。

水中という圧力下でこの圧縮された空気を吸っているとダイバーは窒素酔いを起こすことがある。

なぜなら水深が10m下においては地上の2倍、20m下ならば3倍の濃度の空気をダイバーは吸わなくてはならないからだ。

この窒素酔いはダイバーの思考や集中力を散漫にしてしまいダイバーの行動に影響を与える。

◇◇◇◇


ここに3本のダイヤル式ワイヤー鍵がある。

まずは地上でこの3本全てのダイヤルワイヤー鍵を解きタイムを計る。

そして水深25mにおいて同様の作業をしてタイムを計る。

地上と水深25mでの違いを体感してみよう。


というわけで今回のテーマは深場での作業ダイビングだ。


1本目と同じくボートからバックロールエントリーをする。

今回はしっかりとマスクをホールドできた。


潜降ロープがつながるブイに集まると、詩織さんは空のペットボトルを腰に括り付けた。


今回は潜降ロープ沿いに砂地に降りると、詩織さんの腰につけていたペットボトルがつぶれている。

水中ノートには「ペットボトル変化を見て!」と書かれている。


私たちは水深25mの場所を目指しフィンをキックする。


その間、ドライスーツのエアーを何度入れただろうか。


詩織さんの後ろを離されまいと夢中で着いていくと、ドライスーツが身体を締め付けてきた。

そして身体がだんだん沈んでいく。


詩織さんが「待て」のサインをだすとドライスーツの胸を指さす。


そうだ、すっかり忘れていた。

スーツの中に空気を入れないと真空パック状態になってしまうのだ。

保温ができないのはもちろんのこと、スーツ内に海水が入り込んだり、スーツを脱いだ時に身体に内出血の跡が浮かんでしまう。


ボタンを押すと胸のあたりがスーっと楽になっていく。

さらにBCDに空気を入れその場で中性浮力を作りなおした。


透明度が良い海だが次第に陽の光が届かなくなってくる。


詩織さんから再び「待て」のサイン。

私たちは砂地に膝をつく。


ダイヤル式ワイヤー鍵の作業開始だ。

まずは峰岸さんからスタート。

峰岸さんは1個、2個とスムーズに解いたが3個目の番号をなかなか合わせられない。

少しもたつきながらクリア。(地上45秒 水中1分20秒)


そして私の番だ。

1個目の番号札の文字が見えにくい。

4つ揃えたはずなのに解けない。


その様子を見て詩織さんがスレートに『番号を確認!』


3と見えていた数字は8だった。

数字をあわせると鍵が解けた。

(地上57秒 水中2分5秒)


次に詩織さんはこの25mの水深でフィンピボットをすることを求めた。

BCDの空気を全て抜ききり、そこから細かく空気を入れてみる。

だが、浅い場所のように身体がなかなか浮かない。

思い切って少し多めに空気を入れるが、それでもわずかに体が浮く程度。

完全にフィンピボットができるまでにかなりの時間と空気を消費した。


講習の全メニューが終わると峰岸さんの残圧がかなり減っていたため潜降ロープの下へ。

水深25mからロープ下は約12mとなる。詩織さんは、頻繁にBCDやドライスーツから空気を抜く合図を送った。浮力が増せばたちまち風船のように水面まで上がってしまうからだ。


潜降ロープにたどり着くと、ロープを補助にしながらゆっくり浮上。

5m地点で3分の安全停止をする。


****


「どうだった? 深い海の感想は? 」

詩織さんが尋ねる。


「思ったより魚が少なかった..それに、正直すこし心細くなった」

「ああ、それはあるかも。俺も解放感は1本目のほうが感じたよ」


「そうね。水深が深くなると心理的にも緊張感がでてくる。もしかして、それも窒素酔いのひとつなのかもしれないわね。作業はどうだった?」


「やりづらかったです。きっとグローブのせいですよ」

「私は3と8を見間違えただけで、窒素酔いとは違うかも」


「グローブでやりにくい、体をうまく動かせない、数字が見にくい。これら全てが水深25m下での影響での出来事。窒素酔いもそうだけど全てが地上に比べると難しくなるでしょ? 海の中で作業をしたり、物を考えるってことは陸で行う事よりも集中力が必要になることは覚えておいてね。さて、 何か得たものはあったかな? 」


「はい。深い場所は、なんか身体も心もキューってなる感じがしますね」


「ははは。キューってね」


・・・・・・

・・


私たちが着替えて車に乗り込むと北川ダイビングサービスのスタッフさんがお店からでてきてみんなで手を振ってくれた。


なんか凄くあたたかい気持ちになった

今度はファンダイビングで来てみたいな..


「帰りの時間は2人とも大丈夫? もし大丈夫なら美肌の為に赤沢温泉寄っていく? 」


「いいですね! 」

「賛成! いきます!! 」


****


10日ほどして、郵便受けに新しいCカードが届けられた。

CカードにはADVANCED OPEN WATER DIVERと記されていた。

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