いつまでもPAGGI
◇LINE
「再来週の土曜日休めるぞ! 」
「ほんとに! じゃ、『哲夫の部屋』に集合! 」
LINEの相手は東雲蘭子。
私が活動していたガールズバンドPAGGIのBASSプレイヤーだ
彼女のプレイは「BASSの蘭が咲く」と言われるほどで他のバンドにも一目置かれていた。
PAGGIは七海のドラムと蘭子のベースがあったから成り立っていたといってもいい。
当時、蘭子はもうひとつのバンド「VEVEDI」というバンドでも活動をしていた。
PAGGIが解散した後、蘭子はVEVEDIで本格的に活動を続けた。
そして、VEVEDIはついにメジャーデビューを果たしたのだ!
再来週は元PAGGIメンバーでパーティだ!
季節は冬、12月と言えば当然の—
「ねぇ、七海、プレゼントは山形のお土産だけでいいのかな? 」
「いいでしょ。蘭、あまり物欲ないじゃん。それより『哲夫の部屋』勝手に使っていいの?一応、哲夫さんが借りている部屋でしょ? 」
「そっか、一応許可とろうか? 」
「じゃ、いっそ呼んじゃえば? 哲夫さんの息抜きにもなるし、蘭は気にしないタイプだしさ」
「うん、じゃあ誘ってみるよ」
「それじゃ、哲夫さんのプレゼントも用意しなきゃ」
「哲夫さんの? 何にする? 」
「それに関してはいいの知ってるよ! この七海ちゃんに任せて! 」
****
私は七海とパーティのメインディッシュにおでんをふるまうことにした。
理由は簡単だから!
そしてドミノピザ(当然お持ち帰り)とケンチキ8ピース&ポテト!
ビール、梅酒、コーラを買い込んだ。
ドアに『ようこそ! パーティ会場へ』の札を下げて、私たちはクラッカーを手元に置く。
「誰か来たよ。どっちかな? 」
「どっちでもやること同じ! たぶん哲夫さんだよ」
ガチャ! 】
「一週間早いクリスマスへようこそ! 」
—パーン!
突然のクラッカーに、予想通りのリアクションで哲夫さん登場。
「びっくりしました! これクリスマスパーティなんですか? 忘年会だと思ってました」
「X’masも年越しも同じようなものでしょ? 」
七海がウィンクして言う。
そしてひときわ大きな足音がする。
—ガン ガン ガン ガン ガン
「これ間違いないね。このでかい足音」
「ほら、ほら、哲夫さんもクラッカー持って! 」
—ガチャ
「おーい! もっちん? 七海? 居る? 」
「一週間はやいクリスマスパーティへようこそ! 」
—パンッ!! パンッ!
「ア、アンド、ベベベッヂデビュー」
慌てた哲夫さんは思いっきり言葉をかんだ。
「おっめでとー! 」
「蘭~ 久しぶり」
七海は蘭子に抱き着いた。
「七海、久しぶり! もっちん、東雲蘭子、只今、帰宅いたしました」
・・・・・・
・・
「哲夫さん、こちら東雲蘭子」
「はじめまして、東雲蘭子です」
自己紹介を済ませると、蘭子は駆けつけ一杯を飲み干す。
そしてパーティが始まった。
・・
・・・・・・
「なんかすいません。哲夫さんの部屋におじゃましてパーティなんて。迷惑じゃないですか? 」
「ははは。蘭子、あんた一番派手な頭してるのに一番真面目か」
「七海.. まったく.... 」
出来上がってる七海に蘭子が呆れている。
いつもと真逆だった。
いつもは悪ノリを始める蘭子に七海があきれながら窘めるのが常だった。
今日は、七海にとって羽目を外すほどに楽しいひと時なのだろう。
「しかし哲夫さん、しっかり嚙んじゃったね」
「いや、なんか良くわからなくって..「ベベジ」ですね。蘭子さん、すいません」
その言葉に対して七海が大きな声で言った!
「でも、『ベベジ』はこれからみんなが誰でも知る存在になるんだ! ね、蘭!? 」
「うん! 当然だよ! VEVEDIがスタジアム級のLIVEやるときは、みんなを招待するよ!」
「約束だ! 」
「うん。約束」
「約束ですね」
「これって蘭からのXmasプレゼントだね! 」
この七海の言葉をきっかけにプレゼント交換が始まった。
「じゃ、これ山形で買ってきたいろいろ詰め合わせ。蘭子へ」
蘭子はさっそくお土産袋から詰め合わせをテーブルに広げた。
「巨大うちわ、将棋のストラップ、キテケロ君? 細かいな~」
「いやいや、何とも申訳がない。 先立つものを切りつめた結果、このようになりまして.. 」
「ううん。ありがとう! 」
蘭子はキテケロ君のマスコットをカバンにつけると、やさしく微笑んだ。
「あの.. 僕は今日何もないですが.... 」
「いいよ。哲夫さんには部屋かしてもらってるから! それより哲夫さんにもプレゼントあるよ。ちなみに選んだのは七海だよ」
七海が何にも包まずそれを広げた。
「はい。これ! 合格したい時に履く合格パンツ!! これ本番で履いてね! 」
「じゃあ、リハーサルとして、今ここで哲夫さんに履いてもらおうか」
蘭子の悪ノリが始まった!
蘭子の手が哲夫さんのズボンにかかりそうになる。
「ち、ちょ、ちょっと、ま、待って.. 」
その慌てぶりに笑いが起きた。
おふざけが終わると、襟をただして哲夫さんが真面目な顔で言った。
「合格パンツ、ありがとうございます。あの..お月見会で僕が言ったこと訂正させてください。 ぜったいに司法試験合格します。絶対です! 今はもうそれしか考えないよ、桃さん」
「あれれ、七海ちゃんには? 」
「七海さんも」
「『も』ってひっどーい。欄~、今の差別だよね~」
「はははは、よし、よし」
・・
・・・・・・
「3人はバンド仲間ですよね。3ピースバンドだったんですか? 」
「ちがうよ、哲夫さん」
「もうひとりいるんだよね」
「そ、ドラム、ベース、ギターといったら」
「ヴォーカルですか? 」
「ピンポン」
「今日都合悪くていらっしゃらなかった? 」
「違うよ。シューファは帰ってるんだよ」
「シューファ? 」
「うん。私たちのバンドPAGGIのヴォーカルは台湾人なんだ! 」
「名前はツァイ・シューファ」
「めっちゃくちゃ可愛いから哲夫さん、惚れるかもね」
「歌もうまいし、英語もしゃべれる」
「七海、シューちゃんは台湾で歌ってるんでしょ? 」
「そうらしいけど、よくわからないよ。連絡とれてないから」
「ツァイ・シューファさんかぁ」
「あっ、もう気にしてる。ここに3人もいるのに」
「やっぱりパンツ履いてもらおうかぁ。七海押さえるのだ! 」
「ラジャッ!(‘◇’)ゞ」
「うわっ! ごめんなさい! 」
「ははははは」
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久しぶりにメンバーに会えてうれしかった。
私たちは『元』じゃない、いつでも、いつまでもPAGGIなんだ。
シューちゃん..会いたいな....




