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下のほうならOKよ!

「あれ? 桃、おまえ昼それだけか? 」

「うん」


「もしかして金ないのか? そんなに苦しいか? 」

「何言っての!? ちょっと食事減らしてるの! 」


「なに? おまえダイエットでもしてるのか? 」

「そうよ。なに? 変? 」


「クク.. 恋でもしたか」

「違うわよ! ちょっと3日後ダイビングスーツの採寸があるの! 」


「なに? 3日後? 今さらやっても変わらねーよ、桃! わははは」


「桃ちゃん、無駄な努力はやめた方がいいよ」

お父さんに加えて太刀さんまで!


「ちょっとさっきから! なんてセクハラ職場! 最低! 」


ダイビングの事は会社にも知れ渡っていた。

最初、お父さんはびっくりしていたけど、『俺もやってみたいな』と意外と容認してくれた。


ダイビングスーツといったけど、3日後に採寸するのはドライスーツというダイビングスーツだ。

ドライスーツは服を着たまま着るダイビングスーツで手首、首がゴムでシールドされ、ファスナーも防水加工されていて身体を濡らすことなく潜れるすぐれたダイビングスーツだ。冬のダイビングには欠くことのできない必須アイテム。


しかしお値段が結構する。


安くても10万円、高いのだと25万円前後するらしい。

私は13万円のスーツを購入することにした。

お父さんがボーナス代わりに寸志8万円を支給してくれると約束してくれたの。

パパー!


****


11月も終ろうとするこの頃、私の周りでは物騒な事ばかり起きる。


この前の自転車トラブルもそのひとつだ。


先日は2軒どなりの高田さんの家から助けを求める声が聞こえた!


「助けてー! 誰かー! 」


家に近づいてみると、どうやら奥さんらしい。


「あの柿沢です。どうしました? 」

「あ、あのお恥ずかしいんだけど、トイレに入ったらドアが壊れたみたいで、ここから出られなくなってしまって.. 」


「家に誰もいないんですか? 」

「いないの。ちょっと、家に入って、何とかしていただけないかしら」

と奥さんの話を聞いている間に、他の人が通報してしまったのだろう。

救急車や消防車、パトカーがゾロゾロやって来てしまった。

もちろんレスキュー隊や警察で大騒ぎになり、高田さんの家の周りには野次馬がわんさか。


奥さんは赤面しながらトイレから救出された。


****


そして会社が休みの今日、また事件が起きた。


「どこいきやがったー! でて来いっ! このやろー」


外で大きな怒鳴り声。


『うわっ、怖いな~ 』と、思っている矢先に表の階段を駆け上がる音が聞こえた。

[ カカカカカカン! ]


『早く! 早く! こっち、こっち」と女性の声が聞こえた。


私はドアをそっと開けて廊下を覗くと、斜め向かいの吉野さんの奥さんと息子さんが物の影に隠れていた。


「あのぉ、どうかしましたか? 」

「あ、あ..ご迷惑おかけしませんので、少しだけここにいさせてください」


「もしかしてさっきの怒鳴り声って? 」

「はい.... ちょっと、うちの人がこの子を.. 」


(DVか!? 怖い! )


「じゃ、ちょっと、そこの部屋にどうぞ入って! 」


私は『哲夫の部屋』の鍵を開けて、2人に入ってもらった。


どうやら前々から暴力があったらしく、ここ最近特にひどくなったそうだ。

今回は息子さんのギターがうるさいっていきなりキレたらしい。


「あの警察を呼びましょうか? このままじゃどうにもならないと思うし」

私は奥さんを説得すると警察を呼んだ。


警察に状況を説明すると

「基本夫婦間の問題だからねぇ。暴力と言ってもどの程度かもわからないし、私らが入るとこじれることもありますんで.. 」

「じゃ、何もしないって事ですか? 」


「いや、そうとは言っていないでしょ。ただ入っても結局はご夫婦ご家族で解決することですからね.. 」

「だからといってこのままにするの? 」


「いや、だからね.. 」


警察官がどうもはっきりしないので、私はイライラし始めた。

その時、あの人物が来たのだ!


この前のパンチ王子にしろ、ツイてるのかも、私。


「あの~、どうしました? 」


「あなたは?? 」


警察が名前を尋ねると『あがつま~たかおです』


私はすかさず言った。

「あ、議員先生! 困ったことありました! いま、困ってます! 」


◇◇◇

◇◇


吾妻たかお・・・うちの壁にポスターを張りたいって何度も来ている都会議員さん。

『なにか~困ったことあったらいつでもどうぞ 』と社交辞令なセリフを置いて去っていくのが恒例。


◇◇

◇◇◇


「この奥さんと息子さんがDVに困って逃げてきて、いま警察が来てくれたんです。」

「なるほど。それでは、警察の人は動いてくれたんですね。よかった 」


「はい、警察は、直ぐに動いてくれると言ってます...」


『いや、あなた、だからね..さっき言ったように..』と未だにウダつく警察官


「 ..なるほっど! 警察の方は、もちろんDV防止法も承知していますから、場合によっては緊急的な保護もしてくれますよ。 ねぇ?」


「 ..ぁあ、じゃ.. まぁ、一応旦那さんへ事情を聴いてみますよ 」


やっと警察官が重い腰を上げた。

吾妻先生は、いくつかの公的機関の相談所を紹介すると『わたくし、あがつま~たかおです...困ったことがあったらいつでも、どうぞ.... 』と、いつものセリフを置いて去って行く。


息子さんの翔君をここに置くと、奥さんは、警察官のそばで手荷物をまとめ自宅を後にした。


その後、奥さんは翔君を連れ、その足で実家へ帰ったらしい。


****


後日、お父さんに事の成り行きを話すと、『うちはそういうの断わってるんだけどなぁ』と言った後、吾妻たかお先生のポスター1枚だけならOKという許可を出した。


「ただし、その一番下のほうな」


「なんか落選しそうだね....」

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