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使用者賠償責任って?

「桃さん、こんにちは」

「こんにちは、あ、哲夫さんのカバンに可愛いのが付いてる!! 」


「ははは。さくらんぼのキーホルダーありがとうございます。お菓子も家族で美味しくいただきました」

「はい、 よかった! 」


哲夫さんは家の工事が終わった後も、となりの『徹子の部屋』ならぬ『哲夫の部屋』を利用している。


「哲夫さん、もうすぐ願書でしょ? 」

「はい。よく知ってますね? 」


「司法試験のこと少し調べたから」

「そうなんですか」


「じゃ、下にお客さん待たせてるから。またあとで」

「はい、また」


・・・・・・

・・


待たせているのは、うちの古くからのお客様、青柳機械の社長だ。

最近、会社の規模が大きくなって、リスクの見直しの相談を受けているのだ。


「使用者賠償責任を補償する保険とか柿沢さんで扱っていれば紹介してほしいと思いまして..」

「わかりました。ちょっと調べてみますので、後日改めてご連絡差し上げるかたちでよろしいでしょうか? 」


「はい、よろしくお願いします」


はわわわ...なんかあまり聞いたことない保険、聞かれちゃった!

実は心の中は若干パニック状態。


そんな時は!


階段を駆け上り、そして、『哲夫の部屋』をノックするのだ!



「哲夫さん、教えて!! 」


・・・・・・

・・


「なるほど。使用者賠償責任ですか」

「うん」


「例えば、太刀さんが業務中にケガするでしょ」

「うん」


「その場合、太刀さんのケガの治療費、または休んだ分の休業補償というのは事業主である社長が補償すべきなんですよ。でも、それは事業主に大きな負担になります。それをカバーするのが政府労災という保険制度なんです。ここまでOK? 」

「うん、うん。OK!」


「じゃ、例えば太刀さんのケガがもっと深刻な事態になり、その原因が会社の安全管理上の問題だとした場合、太刀さんや家族が事業主を訴えることもありますよね」


「うん。それ、賠償責任だね」


「そう、これが使用者賠償責任というもの。つまり、事故による会社のリスクには①従業員のケガ、②休んだ分の所得、そして③使用者の賠償、主にこの3つがあるってことです」


「なるほど! わかりやすい。さすが哲夫さん」


「僕のは予備知識程度ですから細かいことは保険会社の人に教えてもらうといいですよ」


保険会社に相談すると「業務災害補償保険」というものを紹介してもらった。

その後、安井あおい損保の登里さんに同行してもらい、青柳機械㈱から新規契約をいただけることになった。

それはかなり大きな保険料となり、会社としてかなり利益になった。

ヤッタ!!


****


「哲夫さん、お父さんが家賃を月五千円でいいて言ってましたよ」


「ほんとに? 五千円でいいんですか? 」

「お父さんがいいてっ言うんだから、いいんですよ」


「ありがとうございます」


****

~♪~

(あ、宮野さんから)


「もしもし、柿沢です」

「おねーちゃん、ありがとう。あ、優佳です」


「優佳ちゃん、元気? 」

「げんき! げんき! 可愛いさくらんぼのキーホルダーありがとう。それにさくらんぼのお餅もすごくおいしかった! 」


「よかった。そのさくらんぼ、私もカバンに付けてるよ。お揃いだね」

「ほんと!? 優佳もカバンに付けるね! お父さんにかわるね」


「おお、柿沢。優佳が喜んで電話するって言うからさ」

「はい、喜んでくれてよかったです」


「まぁ、お見舞いやらお土産やら、いろいろありがとな」

「あれ? この前渡したときは『将棋のストラップかいっ!! 』って反応だったのに」


「ははは。涼子も紅染めハンカチを綺麗な色って喜んでたよ」

「よかったです」


「じゃ、優佳がかわりたいっていうから」

さっきから後ろで、『まだ?』『ねぇ、まだ?』って声が聞こえていた。


「おねーちゃん、また今度遊びに来てね。またね」

「うん。今度また行くね。バイバイ」


(よかった。ふふふ)


秋は深まり、銀杏の葉が少しずつ地面を黄色に変えていく。


旅を思い返しながら、私は、この時の幸せをかみしめていた。

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