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宮野さん、帰ろー。

「ねー、宮野さん。やめましょうよー」

「大丈夫だろう。ドーンと行かなきゃ取れるものも取れないだろ」


「ぜったいヤバいですって。あの人たち本物ですよー。ねー」


・・

・・・・・・


わたしが安井あおい損保の研修生制度に入って7カ月が過ぎた。


損害保険の研修生制度とは3年間のうちに保険のあらゆることを学び営業し自分の客を作り、損害保険代理店としての礎を作るため、遮二無二働く研修生を損害保険会社がバックアップする制度だ。


わたしは既存の代理店からの実習生として保険を学んでいる。


あ、そうそう宮野さんは、35歳の2年目の研修生で営業ではダメダメなわたしと組んでくれて、いろいろお世話になってます。


で、ちょっと時間を戻すと....


・・・・・・

・・


「かきさわぁ、次はこのビルいくぞ。お前がノックしろよな」


(ひえ~。嫌だな。さっき怒鳴られちゃったし.. 今日はもう帰りましょうよ.... )


コンコン】


「すいません。安井あおい損害保険です。実は新し.. 」

(何? ..札束数えてるじゃん。それに、スキンヘッド.... うわ! これあっちの世界では? )


そこに見えたのはコテコテの怖い人が足を組みながら札束を数えている、さながらドラマの世界のような光景だった。


「えっと、安井あおい損害保険ですが.. 実はこの辺を担当していたので挨拶にまわってましてぇ....。すいません、失礼しま―」

「実は今までにない、まったく新しい自動車保険が発売されまして!! できれば!! 少し説明させていただけないでしょうか!!? 」


(なになになに!? 宮野さん。なんでおっきな声!? 何でかぶせてくるの!? もう早く出ましょ! )


「なんだ? 保険? うちはいいよ。間に合ってるよ。帰った! 帰った! 」


(よかった.... 帰れる)


「あ~、君たち、ちょっと待て待て。こっち来てくれ。丁度いい! 自動車保険か? 」


(イヤー!! 帰る! 帰して! )


他よりも重量感のある机に足を乗せていた顎髭のある偉そうな人が歩み寄って来た。


「はい!! まったく新しい自動車保険でありまして! 新商品であります!! 」


(宮野のあほーっ! )


そのまま促されて奥のフカフカのソファーがある客間に連れていかれる。

完全に逃げ場無しの状態....


「実はな。今、保険会社を変えようと思ってな。ちょっと事故やっちまって2等級なんだけど、契約者を妻の名前にして―、あんたらのところで入れるか? 新しい保険とやらで1回見積もり作ってきてくれねーかな? 」


「はい。ぜひ、任せてください!! 」


・・・・・・

・・


「ねー、宮野さん。やめましょうよー」

「大丈夫だろう。ドーンと行かなきゃ取れるものも取れないだろ」


「ぜったいヤバいですって。あの人たち本物ですよぉ。机の上の本、見ましたよね? 見ましたよね? 闇金融の机に『なにわ金融道 うまく金を運用する方法』って笑えるジョークですが笑えませんよ」


「 ..ああ、まぁ笑えるけど、笑えねーわな.... 」


その後、闇金社長の見積もりを作ると外車であることと2等級であることが要因で保険料が80万円以上になっていた。

そもそも2等級の新規契約は禁止されていたのだ。


そしてわたしは宮野さんへ接待の限りを尽くし約束を取り付けた。

もうあのビルには二度と近づかないって。



・・

・・・・・・



波.. 波だ....

わたしの12カ月の実習が終わろうとしたとき、あの海の音が聞こえてきたんだ。

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