表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/75

言葉の重み②

桃が東京に来たのは、中学を卒業してからだった。

それまでは甲府市の酒折という町で母と、そして、長男が一緒に暮らしていた。


桃が小学生の時、父親と母親が離婚し、2人の兄と桃は、甲府市酒折にある母親の実家へ引っ越しをしたのだ。


桃と2人の兄は年が離れていて、桃が14歳の時、次男拓哉は21歳、長男大輝は24歳だった。

やがて、次男は大学を卒業し、就職をすると家を出ていった。


なぜ、桃が東京に出てきたのかというと、それは長男とのいざこざが原因だった。


親の不仲のせいなのか理由は不明だが、長男は17歳の頃から部屋に籠るようになってしまった。

それは甲府に引っ越した後も続き、彼は不満があるたびに部屋の中で暴れていた。

母親は負い目の為か、彼の好きなようにさせてしまった。

そして、桃はそんな母と口論するようになっていった。


「お母さん、お兄ちゃんがまた暴れてる。私、また投げつけた食事、片付けるの嫌だからね! どうにかしてよ!」

「じゃ、お母さんが片付けるから、桃は部屋に戻りなさい」


「 ....そういうことじゃないでしょ! お母さんっ! お兄ちゃん、ちゃんとさせないとダメだよ!!」


「あの子ももう少し大人になればわかってくれるわ」


「そんなこといってもお兄ちゃん、もう24じゃない! 拓哉おにいちゃんだってもう働いてるんだよ!」

「桃! 『誰々がどうだ』っていうことじゃないのよ。お兄ちゃんのことは大丈夫だから」


「もう、お母さんがそんなだから! 」


そして、桃は兄の部屋のドアを叩き、言ってしまった。


「いつまでそんなことしてるのよ! どれだけ私たちが迷惑してると思ってるの!? あなたなんか役立たずのクズよ!! どっか行っちゃえ! 」


その夜、兄は家出をしてしまった。

身延の道路を歩く兄が保護されたのは2日後のことだった。


その間、桃はずっと震えていたという。

『もしも自分のせいでお兄ちゃんが.. 』そう思うと怖かった。


その後、中学を卒業すると、桃は父親を頼り、柿沢自動車整備会社の2階で一人暮らしを始めたのだ。


****


「桃がその話をしたのは1回きり。お兄さんがその後どうなったのか、私は知らない。

仲直りしたのかも知らない。今晩、お酒が入ったことで、哲夫さんの『役立たず』という言葉に当時の事を思いだしちゃったのかもね」


「そんなことが.... 」


「ごめん、これ、今まで誰にも言ったことないんだ。秘密にしてもらえるかな。私、話過ぎたかもね」

「もちろん、誰にも言いません」



「哲夫さん、全然年下の私が生意気言うようだけどさ、きっと『役立たず』って自分で決める事じゃないんだよ。知らず知らずに、誰かの支えになっている事だってあるんじゃないかな。きっと、もっちんはそれを言いたかったんだと思うよ」


哲夫の胸に桃の言葉が蘇っていた。

『 哲夫さんは役立たずなんかじゃない。私に法律とか教えてくれたじゃない! 』


その言葉が今になって哲夫の心を熱くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ