月が落とす影絵。
「ねぇ、太刀さん、今日何の日だかわかります? 」
「なんだろう? 五兵衛のダブルとんかつdayとか? 桃ちゃんおねだりdayか? 」
「ちがうよー。風情がないなぁ.. 今日は『中秋の名月』ってやつですわよ! 」
「ほ~。で? 」
「今日ね、お月見計画を立てているのです。太刀さんも来る? 」
「ああ、俺、無理。今日は飲みの約束あるから」
「そっか。ふ~ん。せっかく手作りで団子つくるのに」
「へぇ、桃ちゃん、団子作ったりするんだ? 」
「今回、初挑戦! 」
「それは参加しなくてよかったかも」
「ひどい! 絶対おいしいの作ってやる! 」
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「哲夫さん、今日何の日だかわかります? 」
「『中秋の名月』でしょ? 」
「さすが! で、今日ね、友達と『お月見しよう計画』立てているんだけど、哲夫さんもお月見しよ? 」
「僕が参加してもいいのでしょうか? 」
「全然、大丈夫。8:30からの予定だから、お好きな時間にどうぞ」
「じゃ、折角なんで、お邪魔させてもらいます。何か持ってきましょうか? 」
「ううん。シンプルにお月見するだけのイベントだよ。今回のテーマは風情だから」
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「七海、これって少しずつ入れるものなの? 」
「ちょっと待って。少しずつ、少しずつ入れて、捏ねないとダメみたい」
「うさぎのも作ろうよ」
「じゃあ、こっちは猫ちゃんだね」
「もっちん、餡子はどこにあるの? 」
「その真ん中にある青いパックの中、その横にあるのが黄な粉」
「これ、積み上げるの適当でいいのかな? 伝統みたいのないの? 」
「なんでもいいんじゃない? 」
・・・・・・
・・
私たちは会社横にある駐車場にレジャー用のテーブルセットを組んで、三宝の上に月見団子を備えた。
「ススキが欲しかったね。でも虫の声は風情あるよね」
そして100均でみつけた抹茶セットとポットを用意した。
「哲夫さーん。もう用意できてるよ」
「きれいな月ですね」
「七海、こちら哲夫さん、で、こっちが七海」
「適当な紹介! 新井七海です。はじめまして」
「あ、水谷哲夫です。よろしくお願いします」
「月夜に初対面も風情ありますな~」
「「ははははは」」
そんな私たちの風情ごっこに哲夫さんは微笑んでいる。
「ほら、これ見て見て、うさぎに猫ちゃん、可愛いでしょ! こっちに餡子とか黄な粉もあるから」
「抹茶、哲夫さん立てて」
「お茶の人って帽子みたいの被らないっけ? 」
「ああ、なんかそれあったね。それあったら風情増すかな?? 」
「あははは、そうかもね!」
その夜、眩しいほどの月明りに3人の姿は、まるで影絵のように映し出されていた。
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そして....
「このままじゃ——のままだから——」
「何でそんなこと言うの! そんなことない! そんなことないよっ!!! 」
私は、哲夫さんが部屋でお酒を飲んでいた日、何があったのかを聞いたんだ。




