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月が落とす影絵。

「ねぇ、太刀さん、今日何の日だかわかります? 」

「なんだろう? 五兵衛のダブルとんかつdayとか? 桃ちゃんおねだりdayか? 」


「ちがうよー。風情がないなぁ.. 今日は『中秋の名月』ってやつですわよ! 」

「ほ~。で? 」


「今日ね、お月見計画を立てているのです。太刀さんも来る? 」

「ああ、俺、無理。今日は飲みの約束あるから」


「そっか。ふ~ん。せっかく手作りで団子つくるのに」

「へぇ、桃ちゃん、団子作ったりするんだ? 」


「今回、初挑戦! 」

「それは参加しなくてよかったかも」


「ひどい! 絶対おいしいの作ってやる! 」


****


「哲夫さん、今日何の日だかわかります? 」

「『中秋の名月』でしょ? 」


「さすが! で、今日ね、友達と『お月見しよう計画』立てているんだけど、哲夫さんもお月見しよ? 」

「僕が参加してもいいのでしょうか? 」


「全然、大丈夫。8:30からの予定だから、お好きな時間にどうぞ」

「じゃ、折角なんで、お邪魔させてもらいます。何か持ってきましょうか? 」


「ううん。シンプルにお月見するだけのイベントだよ。今回のテーマは風情だから」


****


「七海、これって少しずつ入れるものなの? 」

「ちょっと待って。少しずつ、少しずつ入れて、()ねないとダメみたい」


「うさぎのも作ろうよ」

「じゃあ、こっちは猫ちゃんだね」


「もっちん、餡子(あんこ)はどこにあるの? 」


「その真ん中にある青いパックの中、その横にあるのが黄な粉」


「これ、積み上げるの適当でいいのかな? 伝統みたいのないの? 」

「なんでもいいんじゃない? 」


・・・・・・

・・


私たちは会社横にある駐車場にレジャー用のテーブルセットを組んで、三宝の上に月見団子を備えた。


「ススキが欲しかったね。でも虫の声は風情あるよね」


そして100均でみつけた抹茶セットとポットを用意した。


「哲夫さーん。もう用意できてるよ」

「きれいな月ですね」


「七海、こちら哲夫さん、で、こっちが七海」

「適当な紹介! 新井七海です。はじめまして」

「あ、水谷哲夫です。よろしくお願いします」


「月夜に初対面も風情ありますな~」

「「ははははは」」


そんな私たちの風情ごっこに哲夫さんは微笑んでいる。


「ほら、これ見て見て、うさぎに猫ちゃん、可愛いでしょ! こっちに餡子とか黄な粉もあるから」


「抹茶、哲夫さん立てて」

「お茶の人って帽子みたいの被らないっけ? 」


「ああ、なんかそれあったね。それあったら風情増すかな?? 」

「あははは、そうかもね!」


その夜、眩しいほどの月明りに3人の姿は、まるで影絵のように映し出されていた。


****


そして....


「このままじゃ——のままだから——」

「何でそんなこと言うの! そんなことない! そんなことないよっ!!! 」


私は、哲夫さんが部屋でお酒を飲んでいた日、何があったのかを聞いたんだ。

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