辛いときには。
『東京高円寺阿波踊り』を午後7時に切り上げて、七海と近くの焼肉チェーン店『たらふく』に入ると、その店名の通り、肉をたらふく頬張って帰宅した。
部屋に着いた時間は午後9時半頃。
いつもは既に帰宅している哲夫さんの部屋にあかりが灯っていた。
(消し忘れかな? それともまだ居るのかな? )
部屋に入り、窓をあけ、そして満腹のお腹にやさしく、ベッドにドッカリと寝転ぶ。
ふと、隣から『カタカタ』と物音がした。
(あれ、やっぱり哲夫さん居るみたい?? )
『桃、まぁ大丈夫だと思うけど、夜、明かりが付けっぱなしでも放っておいていいからな』
そんなお父さんの言葉を思い出す。
(一応、お父さんの言いつけを守っておこうかな.. )
ベッドの上で、いつのまにか眠りについてしまった。
目が覚め、時計を見ると11:05だ。
(う~ん.. そういえば隣は帰ったのかな? )
私がこっそり哲夫さんの部屋からもれる明かりを見にいくと、前触れなくドアが開いた。
—カチャ
「あっ、ども、こんばんは」
「ああ、桃さん、すいません、長居して。今、帰ります」
「あ、はい。今日は遅いですね」
哲夫さんからはお酒の匂いがした。
そして片手に持つビニール袋には日本酒の瓶が入っていた。
(目が赤いのは酔ってるから? もしかして泣いてた? )
「瓶捨てに行くんですか? 」
「はい、外の回収箱に入れて帰ろうと思いまして」
「そうなんですね」
「はい」
( ....)
「それじゃあ、おやすみなさい」
(んーっ.... )
「哲夫さん、ちょっと待って」
私は急いで自分の部屋に戻り、冷蔵庫の中を覗き込んだ。
(えっと、まだ、あったと思うけど.. あった! あった! それと.... )
「哲夫さん、これ! これでHPとMPを回復してください! 」
私は哲夫さんの胸に押し当てるように渡した。
袋の中身を確認すると哲夫さんは目を丸くする。
「これは、 ソルマック? それとイブ? 」
「はい。日本酒だから.. 明日、元気に過ごせるように.. 」
「はははははは。ありがとうございます。そうだ、桃さんの缶とペットボトル一緒に回収箱に入れていきますよ」
そう言うと、クスクスと笑いが止まらない哲夫さんは、私の缶とペットボトルを回収箱にいれて帰っていった。
(よかった。ちょっぴり元気になったみたい♪ )




