心が弾むリズム
—8月下旬 土曜日
この日は、本当なら私の親友でありバンド仲間だった七海と沖縄に行く予定だった。
七海に『沖縄行けなくなった』と言うと『わかった』と一言だけの返答をしてくれた。
それが七海のやさしさなのだ。
だから今日は一緒にお出かけ。
ちょっと行ったことないところに行こうって。
今、私たちの周りは軽快なリズムの鳴り物に包まれている。
『東京高円寺阿波踊り』を見に来たのだ。
——カンカンカカン カンカンカカン
——ヤットサー、ヤットサー
「うわー。あの連、すごく綺麗」
「そうだね。なんかこう、なんかこう、ウズウズしてこない。ドラマーの性かな? 」
「あははは、うんうん、するする」
カカン!と、鳴り物がやむ。一瞬、踊り手が水を打ったように止まる。
次の瞬間に『躍動感』、『艶やか』、『しなやか』をあわせもった踊りがはじまる。
「すごい! すごい! 」
そんな言葉しかでてこなかった。
「ねぇ、もっちん、今度旅行行かない? 」
「どこに? 」
「渋めに決めてみた」
「渋め? 」
「山形とかどう? 」
「山形ってどこだっけ? 」
「東北の宮城のとなりで秋田の下だよ」
「どうして山形なの? 」
「いや、おととい、旅番組を観て思いついたの。それで思い付きで旅するのも面白いかなって」
「うん、それも面白そうだね。いいよ。日程、決めよう! 」
「だいたい10月くらいが紅葉いいらしいから、その辺で」
「あ、なるべくリーズナブルに。の希望申請します! 」
「OK! 」
「見て見て! かわいい! 小っちゃい子! 」
ヤットサー、ヤットサー
一かけ二かけ三かけて四かけた踊りはやめられぬ♪
鳴り物に合わせて二人で女踊りの手先を真似してみた。
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その日、部屋に帰ると、となりの部屋の明かりがまだついていた。




