プール
(はぁ.. はぁ.. はぁ.. あと3回ターン)
「ぷはあ....!! 」
「はーい! OK!! やったね! 」
「はい」
「前に立っちゃった時、なんで300mシュノーケリングに変えなかったの? 200mの水泳か300mのシュノーケリング、どちらでもいいのに」
「ちょと意地をはりました。私、プールで練習した成果をだしたかったんです」
そう言うと詩織さんは優しそうな笑顔を見せてくれた。
今日は、ショップ『visit』のプール講習を受けてる。 って実は2回目。
学校で言うなら慣れ親しき追試..
水泳はなんとか意地で乗り切った。
問題なのがダイビングスキルの方。
水中で呼吸できるっていうのはとっても面白くて、吐いた息は泡となって顔を伝わりながら上がっていくのがわかる。
詩織さんのアドバイスで耳抜きは簡単にできたけど、水中でのBCD脱着とホバリングがめちゃくちゃ難しかった。
BCD脱着は脱いだとたん体のバランスが取れなくてジタバタ!
何度も手伝ってもらうことになってしまった。
でも詩織さんから足の置き方のアドバイスをもらうと、バランスが劇的に改善!
何とかパスすることはできた。
問題はホバリング。
水中で30秒も同じ場所で浮くなんて....
詩織さんなんか仰向けになったり、足を組んで座禅したり、ピッタリ止まったりで、凄いの一言。
前回の私はというと..
フィンの先をつきながらBCDと肺の浮力を調整。
はい。もうちょっと入れて。
はい。少しずつ浮いて、浮いて、浮いて...... 天まで浮いていくー!
フィンの先をつきながらBCDと肺の浮力を調整。
はい。もうちょっと入れて。
はい。少しずつ浮いて、浮いて...... あらあら、お尻から沈んでいく...... ドスン!
この繰り返しだった。
そして! 今日こそは、絶対リベンジ!!
「桃ちゃん、大切なのはホバリングで浮くというよりもまずは自分の浮き沈みを感じとること。だから、まずフィンピボットで自分のひと呼吸でどれくらい浮き沈みするかを感じ取ってみて。感覚をつかむの。感じとったらOKサインだしてね。あせらないで時間かけて感じとるのが重要。 そしたら次のステージ。 今度は、私の手を軸にして、浮き沈みを感じてみよう。いいかな? 」
「はい。やってみます」
潜降を開始し、1m、2m、3m....とゆっくり沈んでいく。
耳抜きだけは得意で唾をのむだけで自然に抜けていった。
(まずは.. 腹ばいでフィンを軸にフィンピボット)
シュ、シュ、シュ.. ....BCDに空気をいれて......
(呼吸を大きく吸って...... 吐いて.. )
『桃ちゃん! 浮き沈みを感じて! 』詩織さんの水中ノート
(吸って...... 吐いて.. 吸って...... 吐いて.. 吸って...... ..なんだろう.... なんか楽しい、吸うと浮いて、吐くと沈む ..なんか自由だ)
(次は詩織さんの手に手を重ねる。そしてここを支点に.. 吸って.... 吐いて.. 力が抜けていく.... うん、大丈夫だ! 詩織さん、つかめました! ..きっといける)
瞬間、私は確かに水中で自由を感じた。
いつまででも、こうしていられそうだった。
この眼でしっかりと、水の色を見ることができたのだ。
・・・・・・
・・
「やったね! すごく上手にできたよ! 」
「はい。でも最後は、結局お尻ドスンでしたけど.. 」
「でも長い時間浮いてたよ。あれだけできれば全然大丈夫」
「私も詩織さんのように足組めますかね? 」
詩織さんはニマっとした後に言った。
「それはちょっと早いかな」




