ほうじ茶にあうんですよ。
「年頃の娘の部屋のとなりに誰住まわせるの? 考えらんない」
「おい、おい、おまえの部屋だけ特別仕様にしてあるだろ。シャワーも付けたし、カギだっていいの付けてるだろう。他の部屋なんて『カチャ鍵』なんだからな」
「そーだけど。壁うっすいよ。壁! 」
「まぁまぁ、大丈夫だって。夜は帰るんだから? 」
「なに? どういうこと? 」
「あそこ使うのは、おまえも知っている哲夫くんだよ」
「なんで哲夫さんが引っ越してくるの? 」
「違う。看板屋が改築工事するんだってさ。それで、哲夫君の部屋が使えない状態になるらしいんだよ」
「じゃ、その工事の間だけあそこで過ごすってこと? 」
「そういうこと」
「おまえ、どうせ昼は仕事してるし、まぁ土曜日とか日曜くらいのもんだろ、お隣さんになるのは」
「まぁ、それなら.... 」
[はい、おまちどうさま]
「ま、好物の特上とんかつだ。食って機嫌直せ、なっ! 俺のエビフライも食べるか? 」
「うん、食べる」
お父さんの『まったく』という顔などお構いなく、私はエビフライを頬張った。
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その後、哲夫さんが入居?したのは木曜日の事だった。
あらかじめ用意してる家具と言えば、机とイスの一組だけ。
あまりにも殺風景なのでペチュニアのかわいい鉢植えを置いてあげた。
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土曜日の朝、私がゴミを出しに降りると階段の上り口で哲夫さんと鉢合わせした。
「哲夫さん、おはよう。早いですね」
「おはようございます。いつも8:00くらいに職人の人が来てしまいますので..」
「哲夫さん、朝ごはんは? 」
「あ、それは家で済ませてきました」
「そうですか。じゃ、私はこれからコンビニいって買ってきますんで」
「あっ、僕も飲み物買ってこようかな」
「そ、じゃ一緒に行きましょうか」
哲夫さんは私の一歩後ろを歩いている。
『そんなに引け目を感じなくてもいいのに.. もしかしたら私が反対したことを耳にしたのかも? 』そんな事が頭によぎってしまった。
まずはお隣同士の関係は良き会話から! コミュニケーションの基本だ!
「哲夫さん、毎日勉強してるんですか? 私はあまり頭良くないからすごいなって思う」
「いや、しない時もあります。ただそんな時でも何もしないで家にいられないから、時々『図書館へ行く』って言って気晴らしすることもあります」
「そーなんだ。『エアー図書館』ですね。あははは」
「あ、花ありがとうございます。あれ、桃さんが買ったって.. あ、あの、お金払います」
「ううん。部屋があまりにも殺風景だったし、この前、借家賠の事を教えてくれたお礼です。クク.. 」
「え? 何ですか? 」
「何でもない。哲夫さん、真面目だなぁって」
コンビニで私は『しっとりバタースコッチ』、『飲むヨーグルト・プレーン』、もう1品を買った。
そして哲夫さんは『ほうじ茶』だけを買っていた。
「はい、ひとつお饅頭あげる。ほうじ茶にあうんですよ」




