(6) 貧民街に墜ちのびて
◇◇◇
と言っていましたのに――
「そのわたくしが今では路上生活。まったく人生というものは何が起こるかわかりませんわね」
どんなに優雅な身分であっても金がなければ意味がない。
それはある意味この世界の真理で、この路上生活もかれこれ一週間目に突入しようとしていた。
全財産が焼けてしまったから宿屋に止まることもできない上に呪いの大家。
アリュミナルの令嬢と言うこともあって、助けてくれる民衆もいない。
唯一の頼りである分家は面倒ごとに関わりたくないのか、どこか遠くへ遠征に行ってしまったし、メイドの家に転がり込むわけにもいかない。
となると、必然的に身の安全と衣食住を完全に確保できる手段を取るしかないわけなのだが、
「それにしても今日は冷えますわね」
幸いにも夏場と言うこともあり凍え死ぬ心配はないのでこうして得意の魔法を使ってサバイバル生活を満喫している訳だが、それにしたって虚しいことはない。
盛大で優雅なくしゃみと共に、手慣れたように杖から小さな火種を巻き起こせば、
バチバチと上がる焚き火で暖をとり、無邪気な衝撃がいくつも背中を穿つようにのしかかってきた。
「ねぇねぇ、姉ちゃん何やってんのー」
「きっとお仕事で嫌なことあったんだよ。女の子には色々あるっておとーさんが言ってた!!」
「でもお姉ちゃん昨日もここにいなかった?」
「そんなことよりせんせー。またお勉強教えてぇ」
口々に言いたい放題言ってみせる貧民街の子供たち。
相手が誰とも知れない悪漢どもだったら、ためらわず杖を引き抜き、有り金全部奪ってやれるのに――、
「あーもう鬱陶しいッッ!! 引っ付くんじゃありませんのあなた達!!」
そう言って、うがーッと大きく伸びをしてやれば、お世辞にも身綺麗と言えない貧民街の子供たちがキャッキャッと声を上げて散り散りになって逃げていった。
まったくこれだから教養のない子供と言うやつは、節操がないから嫌いだ。
無知ゆえにわたしの威光など気にも留めず、髪を引っ付るは背中を叩いてくるからうんざりする。
こっちは遊びではないというのに、
「はぁ……同情心で少し目にかけてあげた自分自身が恨めしいですわね。まさか魔法を使っているところを見られてしまうとは……アリュミナル家の令嬢として一生の不覚ですわ」
「ですわー」
「ですわキター」
「先生もっかいってー」
「ああもう、口を閉じなさいあなた達!! また吹き飛ばされたいんですの!?」
貧民街ともなれば魔法を使えるものは皆無だ。
そんな中で生活魔法を使えば便利屋として頼られることなど目に見えている。
そもそもわたしは託児所ではないというのにこの子供たちときたら――
「せんせー、今日も火ちょうだい」
「わたしはお水が飲みたいです」
「それよりお腹すいたー。また料理つくってよー」
「あーもう図々しいですわね。わかったから離れなさい!! それより、今日もちゃんと授業料を持ってきたんでしょうね!? 魔法だってただじゃないんですわよ!!」
そう言って一喝してやればパンの切れ端に魚半切れ。干し肉の欠片etcを掲げてみせる子供たち。
まったく屋敷炎上で全てを失った女が、子供たちからの授業料で生き延びているなんてなんて皮肉だろう。
「はぁまったく屋敷が焼け落ちて貧民街の子供たちと仲良くなるなんてやっていられませんわ」
悪漢共はわたくしの姿を見て、化物にでも遭遇したみたいに情けない悲鳴を上げて逃げていくし、ほんと散々ですわ。
これも全てはわたくしの華麗なる寄生生活を潰してくれやがったボッチなクソ王子の所為。
「ほんと、今度会ったらただじゃおきませんわ」
そう言って大きなため息を吐き出すと、今日も今日とてなし崩しに迫られた勉強会が貧民街の広場で行われるのであった。




