(12) 不届き者には誅罰をッッ!!
目を覚ませば、そこは知らない空間だった
いや正確に表現するのなら見慣れない天井と言うべきか。
少なくとも学園の宿舎はこんなに貧相でない事だけは確かだが、
「どうしてわたくしがここに――」
昨夜からの記憶が曖昧だ。
窓から差し込む朝日に目を細めゆっくりと身体を持ち上げれば、ズキリと額が痛んだ。
やけに体が重い。それになんだこの不快感は。
まるで鉛を頭に埋め込んだように思考がはっきりしない。
(この程度の倦怠感など日常的に慣れっこなはずなのに――)
ううっ、月のモノでもないのにやけにお腹が痛い。
見れば見知らぬ男物シャツを着ているだけで、下はショーツ以外何も履いていなかった。
男物のシャツ。下腹部の痛み。なにも起きていないはずもなく。
そうして眉間をほぐすように強く指で押さえつけ、小さく息を整え、昨夜の記憶の探り出しかかる。
確か昨日は、放課後に研究室で実験をして、お花畑の盛大な邪魔が入り、研修室まるまる一つ吹っ飛ばしたことだけは覚えている。
結果。実験は失敗。まぁこういうこともあるかと気分転換に貧民街に歩き出して、それから――
「それからどうなったんですの?」
何故かそこからの記憶が曖昧だ。
やけにここに来るまで足取りが軽かったことだけは鮮明に覚えている。
すると不意に玄関入口の方から物音が聞こえ、反射的にベット脇に置いていたはずの杖に手を伸ばした。
けれどそこにはいつも肌身離さず持っていた愛用の杖はなく、
(――ッ、まずいッ!?)
一瞬だけ頭が混乱した。
たとえ眠っている間でも、杖だけは襲撃に備えていついかなる時にも近くに置いているはずなのに。
昨日の自分の愚かさを悔い、そして、続いてやってくる衝撃に僅かに身を固めたところで――
「ようやく目が覚めたか」
どこか聞き覚えのある声に、凝り固まった緊張が弛緩していくのがわかった。
朝日に照らされてよく見えなかったが、キョトンと不思議そうにこちらを見つめる瞳には見覚えがある。
「もしかしてグラン殿下、ですの?」
「もしかしてもなにもここには俺と貴様しかおらんわ、たわけ」
やけに気持ち悪い表情を浮かべてわたしを見るものだから『出来の悪い偽物』なんじゃないかと思ったがこのイラつく悪態のつきかた。そしてこの傲慢な態度。
「間違いなく殿下そのものですわね」
「だからそうだと言っておろうが。俺と同じようなイケメンが早々いてたまるか。
いやそんな事よりもいい歳した令嬢が体調管理もできぬとは何事だ。この俺がこの別荘に帰ってこなければどうなっていたかわからぬのだぞ」
そう言ってぶつくさと文句を言いながら、遠慮なくわたしの隣にドカリと座ってみせる殿下。
まぁこの別荘は殿下の持ち物だし、遠慮も何もないのは当たり前なのだが、とりあえず――。
「よくも乙女の純情を弄びましたわねこのクソ野郎!!」
と勘違いな一撃が炸裂するのであった。