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二十話 立ち回りは計画的に

 屋敷から外に抜け出た僕は、人に見られないよう気を配りながら、町への道を疾走していた。

 時間はいくらあっても足りない。移動は極力、最短最速を心がける。


「まずは、着るものをなんとかしないと」


 走りながら、自分の服飾に目を落とす。

 忌み子として疎まれている僕には、それほどいい服は充てがわれていない。

 けれど、市井の人たちの衣服とは比べれば、やはり高級品。

 どこかで安物の着衣を仕入れなければ、ひと目で貴族の子弟とばれてしまう。

 そうなれば、色んなトラブルに見舞われる。


「でも、僕には自由に使えるお金はない……」


***


 町に着くと、僕はここでも人目を避けて、とある民家に侵入した。

 郊外寄りに位置するこの民家は、今は空き家で、少し前まで小柄で痩せっぽちのお婆さんが独居していたらしい。

 流行り病で息子夫婦をなくしたというその老婆は、身寄りもないまま老衰し、家はそのまま放置されている。


「そのうち役人に片付けられちゃうけど、その前に……」


 古い木のタンスから、目当ての物を探し出す。

 老婆が生前着ていた衣服。

 かなり身の丈の小さい人だったらしい。

 11歳の僕が着ても、すこしだぼつく程度で済む。


「ちょっとだけ、拝借させてください」


***


「次は、護身用品だ」


 郊外に近い地区を歩いて、雰囲気の良くない路地に到着した。

 ここは町の裏手の裏手。

 浮浪者や犯罪者たちが跋扈する、いわゆる貧民街とよばれる地域だ。

 格差の本場である王都の貧民街ほど荒んでいないが、やはりこちらも治安は良くない。


「だからこそ、装備集めにはうってつけだ」



 やってきたのは、マフィアの隠れ家。

 マフィアなんて言っても、貧民街のごく一画を取り仕切るだけの、弱小ファミリーだ。


「お疲れ様です、兄貴!」


 入り口を見張っている男に、元気よく挨拶した。


「あん? おい小僧、テメエどこのもんだ?」


 当然、怪しまれる。


「いやだなあ、昨日からこのファミリーに入ったダーリーですよ。一日で忘れちゃ嫌っすよー」

「舐めてんじゃねえぞコラ」


 見張り番は、懐から刃物を取り出した。

 目にギラギラと殺気が走る。完全に僕の話を信じていない。


「ちょっ、マジギレじゃないっすか。やっぱり兄貴、【昨日マードッグさんの店で飲み過ぎた】んすよ」


 見張り番の(まなじり)が、ぴくりと反応した。


「やっぱりあのカクテルがまずかったんすよ。女の子にいいとこ見せたいからって、【『この店の強い酒トップ・スリーを持ってこい』とか言って、ジョッキに混ぜて一気しちゃう】んすから」


 ナイフの切っ先が降ろされる。

 昨夜の一幕を知っている不審な子どもに、見張り番は当惑を隠せなかった。


「てめえ、昨日の夜、俺と一緒だったのか?」

「うっわあ、ホントに覚えてないんすか。色々教えてくれたじゃないっすか。【『うちのボスは実は超絶下戸だから、酒と偽ってジュースを飲んでる』とか、『うちが流してる薬には魚粉と牛骨粉を混ぜて香ばしさを出してる』とか、『若頭の浮気相手が、実はボスの娘さん』】だとか――」

「待てコラァ! なんでファミリーの重要機密を、おんどれ風情が知っとるんじゃあ!」


 もちろん今のは、過去のやり直しの中で仕入れた情報である。


「だから、兄貴が教えてくれたんじゃないっすか。ひょっとして、【『今日は隣領から仕入れた薬の受け取り日だから、お前も見にきて仕事を覚えろ』って言った】のも忘れちゃってます?」

「あ、ああ……言った、はずだ。言ったに違いねえ」


 男は狼狽していた。

 この子どもがファミリーの一員でないとしたら、自分が情報を漏らしたことになる。

 ばれたら極刑だ。


「取引に立ち会えるなんて感激っす。すぐ準備しちゃいますっす。武器庫は廊下の突き当りを右奥に進んだ先の隠し扉でいいんっすよね? オレンジ色の箱に入ってるやつを、適当に持ってっていいんすよね?」

「お、おう。その通り、だ」


 ついに男は、現実を直視するのを放棄した。

 こいつはうちの人間だ。じゃなきゃおかしい。そうでなくっちゃいけねえだろうが。


「じゃあ、準備してくるっす。適当に見繕ったら、メシでも買ってきますんで」


***



「というわけで、これだけの物資が手に入った」


 戦利品は、ナイフが3本、ハンマーが1本、太い革紐が1本、握り手のついた針が1本。


「あまりに持ちだしたら不審がられるし、こんなくらいが限界なんだよな」


 もっとも、こんな武装は姉さん相手じゃ、何の役にも立ちはしない。


「これらはあくまで換金目的。本当に欲しいものは、お店に行って買うしかない」

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