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回る町、重なる声

前書き


町は動いている。

仕事は減っていない。

むしろ――増えている。


それでも不思議と、誰も混乱していない……

はずだった。





本編


ロッペンハイマー/便利屋ギルド本部

朝のロッペンハイマーは、相変わらず忙しい。

石畳を踏む靴音、商人の呼び声、馬車のきしむ音。

町は今日も、きちんと息をしている。


その中心――

便利屋ギルド・ロッペンハイマー支部。


「……次は、倉庫街の在庫確認。

 それから鍛冶屋通りの灯り点検……」


セシリア・ワレンシュタインは、

帳簿をめくりながら静かに読み上げた。


机の上には、整然と並んだ依頼票。

内容はどれも派手ではない。


だが――

町を“回す”には、欠かせない仕事ばかりだ。


「……問題は、これですね」


セシリアの指が止まる。


〈対応済み〉の印が、二重に入っている依頼票。


「……?」


そこへ、扉が開いた。


「おはようございます」


ミンジュンだった。

いつものエプロン姿ではなく、

今日は外回り用の上着を羽織っている。


「朝からどうした?」


「少し……確認したい事が」


セシリアは、依頼票を差し出した。


「この仕事、

 昨日の時点で“完了”報告が来ているんです」


「……倉庫の在庫確認?」


「はい。

 でも、今朝もう一度“完了しました”って連絡が……」


ミンジュンは眉をひそめる。


「二重?」


「はい」


そこへ、

後ろの扉から軽い足音。


「ふーん……なるほどね」


カイラが入ってきた。

腕を組み、書類を覗き込む。


「カルロ村側からも同じ報告が来てる」


「……やっぱり」


ミンジュンが小さく息を吐いた。



二拠点運用、その“歪み”


便利屋ギルドは、今や二つの拠点を持っている。


・ロッペンハイマー支部

・カルロ村支部


ロッペンハイマーは受付と調整。

カルロ村は実働と派遣。


――理屈の上では、完璧だった。


だが。


「依頼が増えすぎた」


カイラが率直に言う。


「町の仕事が回り始めたのはいい。

 でも“境目”が曖昧になってる」


「どっちがやるか、ですか?」


セシリアが尋ねる。


「そう」


ミンジュンは依頼票を一枚ずつ並べていく。


「これ、元はロッペンハイマーの仕事だ。

 でも昨日、カルロ村に“手が空いてる”って話をした」


「……あ」


セシリアの表情が曇る。


「私、その後で

 ロッペンハイマー側の人員に振ってしまいました」


沈黙。


「……つまり」


カイラがまとめる。


「両方が“善意で動いた”結果、

 仕事が重なった」


「誰も悪くない」


ミンジュンは言った。


「でも、このままじゃ――」


「混乱する」


セシリアは、きっぱりと言った。


「受付が“判断できない”状態になります」



セシリアの不安


帳簿を閉じ、

セシリアは静かに手を組んだ。


「……私、

 受付として、ちゃんと“止める”べきでした」


「違う」


ミンジュンは即答した。


「止める必要はない」


「でも……」


「判断材料が足りなかっただけだ」


カイラが頷く。


「セシリア、君は今“普通の受付”じゃない」


「?」


「二拠点を繋ぐ受付だ」


その言葉に、

セシリアははっとする。


「……繋ぐ」


「そう」


ミンジュンが続ける。


「だから必要なのは、

 “止める判断”じゃない」


「……?」


「振り分ける基準だ」



新しいルール


三人は、机を囲んだ。


紙に書き出されていく条件。


・町内業務(即時対応) → ロッペンハイマー

・人手が必要/継続作業 → カルロ村

・判断がつかないもの → 一時保留、確認


「そして」


カイラが付け足す。


「カルロ村に回す時は、

 “必ず一本、連絡を入れる”」


「逆も、ですね」


セシリアが言う。


「向こうで完了したら、

 こちらに“完了報告”を一本」


「そうすれば、二重は防げる」


ミンジュンは、ようやく笑った。


「……ようやく、“ギルド”らしくなってきたな」



その頃、町は


外では、

依頼人が何事もなかったかのように歩いている。


倉庫は整理され、

灯りは点き、

鍛冶屋は今日も火を入れる。


誰も知らない。


その裏で、

受付と調整が必死に町を支えている事を。



エピローグ


帳簿に、新しい項目が書き込まれた。


〈二拠点調整〉

 受付判断:セシリア


ペンを置き、

セシリアは小さく微笑んだ。


「……回ってますね、町」


ミンジュンが頷く。


「回してるんだよ」


カイラが肩をすくめる。


「しかも、静かに」


後書き(作者視点)


強い剣も、派手な魔法も出ません。

でも、

“町を回す力”は、確かにここにある。


次は――

この仕組みが、外から試されます。



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