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カルロ村・選定の午後

オープニング


――ワーグハイゼン・リノエ工房


 朝の工房は、音で満ちていた。


 革を叩く乾いた音。

 金具を留める軽い衝撃。

 糸が引かれる、一定のリズム。


「……おい、見ろよ」


 作業台の向こうで、中年男性の弟子の一人が顎をしゃくった。


「また早ぇぞ、あの獣人」


 そこにいたのは、犬人族の青年だった。

 名を――フェルド。


 濃い灰色の毛並み、細身だが指が長い。

 革袋の縫製を任されているが、動きに無駄がない。


 針を通し、糸を締め、余分を切る。

 その一連が、まるで呼吸のように滑らかだった。


「フェルド、そこ一針詰めろ」


「はい、親方」


 短い返事。

 言われる前に理解している動き。


 少し離れた作業台では、猫人族の少女が金具を磨いている。

 名前は――ミレア。


 小柄だが集中力が高く、金属の曇りを見逃さない。


「……あれ、もう終わったの?」


 弟子の一人が驚く。


「え? まだ一刻も経ってないぞ」


「細かい仕事は得意です」


 ミレアはそう言って、布で金具を包んだ。


 そして。


「親方、次、どれですか?」


 声が揃う。


 工房の中央で腕を組んでいた角刈りの男――

 リノエは、鼻を鳴らした。


「……チッ」


 一拍置いて。


「お前ら、焦るな。

 コイツらは“急いで”やってるんじゃねぇ」


 フェルドとミレアを見る。


「“雑にならねぇ速度”ってのを、最初から持ってやがる」


 弟子たちがどよめいた。


「それ、才能ってやつですか?」


「さぁな」


 リノエは笑った。


「だが――

 便利屋が連れてきた連中にしちゃ、出来すぎだ」






湖から吹き抜ける風が、黄金色に揺れる畑の香りを運んでくる。

カルロ村ののどかな風景の中、メアリーとお魚先生は集会所の木戸を叩いた。


「リノエさんの工房、もう噂になってるみたいですよ。あそこの製品は縫い目が揃いすぎていて、人間が作ったとは思えないって」 


メアリーが苦笑混じりに報告すると、お魚先生はプカプカと浮きながら満足げに胸を張った。


「ふふん、当然ね。彼らの集中力は“生きるため”に研ぎ澄まされてきたものだもの。さて、次は『静』の仕事……薬屋さんの番よ」 


集会所の中には、事前に声をかけていた数名の獣人が待機していた。皆、どこか緊張した面持ちで二人を見つめている。




―カルロ村・夕方


 丘を越えた先に広がる村は、もう“仮”とは言えなかった。


 まっすぐに伸びる道。

 左右に並ぶ家屋。

 畑と水場、共同の作業小屋。


 そのあちこちで、獣人たちが働いている。


「ただいまー!」


 メアリーの声に、何匹かが顔を上げた。


「メアリー!」


「おかえり!」


 村に溶け込むその様子を見て、ヴァルターが安心する理由も分かる。


 メアリーは集会小屋で、事情を話した。


「薬屋さんで、人を探してます。

 “向いてる子”がいれば、雇いたいそうです」


 ざわ、と空気が揺れる。


 お魚先生が補足する。


「条件はきちんとしてる。

 賃金あり、住み込みじゃない。往復は転移」


 数匹の獣人が、顔を見合わせた。


 そこで、前に出たのは――


◆選定された獣人たち


① フィルク

・種族:犬族(四足)

・嗅覚が非常に鋭く、薬草の鮮度判別が得意

・几帳面で、作業記録を取る癖がある


② ミーシャ

・種族:猫族(四足)

・細かい作業が得意、乾燥・刻みが上手

・集中力が高く、失敗しても黙ってやり直すタイプ


 メアリーは、二匹の前にしゃがみ込んだ。


「……無理に、とは言いません」


 目線を合わせて、言う。


「でも、ちゃんとした仕事です。

 責任も、あります」


 フィルクが、尻尾を揺らした。


「……やってみたい」


 ミーシャも、こくりと頷く。


「外の仕事、興味ある」


 お魚先生が、満足そうに頷いた。


「決まりね」



エンディング


――夜・村の外れ


 転移の準備をしながら、メアリーは空を見上げた。


「……村から、人が外に出る」


「ええ」


 お魚先生は静かに言う。


「それって、“村が世界と繋がった”ってことよ」


 メアリーは、少しだけ背筋を伸ばした。


「私……ちゃんと、見ていきます」


「それでいい」


 村に、役割が増える。

 町と村の間に、人が行き来する。


 便利屋ギルドは、もう一つの形へと動き始めていた。


後書き


仕事は、人を選ぶ。

だが人もまた、場所を選ばれる。


便利屋ギルドは、

“戦う場所”ではなく

“働ける場所”を作り始めていた。


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