カルロ村、再び 第4話 ――道ができ、灯りが灯る――
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オープニング
夜が、怖くなくなるということ
夜は、静かだった。
けれどそれは――
何もない静けさではない。
カルロ村の予定地。
焚き火の数は増え、夜風に混じる匂いも変わってきている。
木の香り。
石を削った粉。
煮込みの湯気。
そして、足音。
――一定の間隔で、通りを踏みしめる音。
「……ちゃんと並んでるわね」
私は、少し高い位置からそれを見下ろしていた。
石畳。
まだ仮設だが、道と呼べる幅を持っている。
その上を、骸骨たちが歩いている。
灯りを持ち、一定距離ごとに止まり、周囲を確認しては進む。
夜間巡回。
つい数日前まで、この場所は
「夜になれば近づかない土地」だった。
今は違う。
夜に、人が動いている。
それだけで、土地は“生き始める”。
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本編
道を作るという仕事
「……道から作るとは、思わなかった」
ヨハンが、石を見下ろして言った。
老騎士の視線は厳しいが、その奥にあるのは評価だ。
「普通は、家だ。
屋根が先で、道は後回しになる」
「でもね」
私は、ふよふよと横に並ぶ。
「道がなきゃ、人は増えないのよ」
道は、繋がるためのものだ。
家は、留まるためのもの。
この順番を間違えると、村は“閉じる”。
「骨の数が足りてる今が、ちょうどいいのよ」
ネロが、作業台の横で頷いた。
「夜通しでも進められる。
人が疲れない分、工程管理が楽だ」
「楽って言う割に、顔色悪いけど?」
「徹夜で詠唱してれば、そりゃそうなる」
そう言って、ネロは小さく肩をすくめる。
彼の周囲では、スケルトンたちが石を運び、
獣人たちが石を選び、形を整えていた。
「ここは少し勾配をつけた方がいい」
獣人の一人が言う。
「雨が溜まる」
「了解」
ネロが短く応じ、魔法で地面をわずかに削る。
骨と獣人と魔法。
三つが噛み合って、初めて“ちゃんとした道”になる。
メアリーは、その様子を少し離れた場所から見ていた。
「……すごい」
呟きは、自然に漏れたものだ。
「家が増えるより……
道ができる方が、なんだか……」
「“本物”っぽい?」
私が聞くと、メアリーはこくりと頷いた。
「はい。
村が、ちゃんと“続く”感じがします」
その感覚は、正しい。
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灯りを置く
道ができると、次は――灯りだ。
「灯りは……ここ、ここ、それから……」
私は、地面に目印を浮かべる。
間隔は、視界が途切れない距離。
影ができすぎないように。
「夜の村で一番怖いのは、闇じゃないの」
メアリーが首を傾げる。
「じゃあ……何ですか?」
「“誰がいるか分からない”こと」
私は言った。
「灯りがあれば、
人も、骨も、獣人も……全部、見える」
見えるということは、
疑われにくいということだ。
ボミエが、灯りの台座に飛び乗って尻尾を揺らす。
「にゃー、猫的には暗い方がいいけどにゃ。
村的には明るい方がいいにゃ」
「猫は夜目が利くものね」
「そうにゃ。
だからこそ、分かるにゃ。
暗闇は、不安を育てるにゃ」
アルスは、少し離れた場所で、灯りを見上げていた。
「……夜でも、安心して歩ける」
その声は小さい。
「それって……
僕にとっては、初めてかもしれない」
私は、何も言わなかった。
言葉にしない方がいいこともある。
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夜間巡回、正式稼働
灯りが点る。
ひとつ、またひとつ。
柔らかい光が、道をなぞる。
その下を、骸骨たちが巡回する。
アーヴァインが先頭に立ち、一定の間隔で止まり、確認する。
「異常なし」
その声は低く、静かだ。
ヨハンは外周を歩き、獣人たちは要所に立つ。
夜の村は、
もう“無防備”ではなかった。
遠くから、それを見ていた獣人の一人が、ぽつりと呟く。
「……ここ、寝てもいいな」
それは、最大級の信頼だった。
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エピローグ
村は、夜に完成する
深夜。
焚き火は減り、代わりに灯りが増えた。
カルロ村は、眠っているようで、起きている。
私は、宙を漂いながら思う。
家ができたから、村になるんじゃない。
人が増えたからでもない。
夜を越えられるようになった時、村は完成する。
メアリーが、私のそばで小さく言った。
「……先生」
「なあに?」
「明日も……忙しくなりますね」
私は、尾を揺らして笑う。
「ええ。
でも、それって――」
灯りの続く道を見渡す。
「とても、いいことよ」
カルロ村は、
もう“仮の場所”ではなかった。
夜が、守られている。
それだけで――
人は、ここに住める。
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次回予告
第5話:名を刻む場所
・正式に「カルロ村」と呼ばれ始める
・人が増え、役割が生まれる
・そして――ギルドの影が、ちらりと見える




