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工房手伝い ――仕事は、形になる

オープニング


――セシリア・ワレンシュタイン


 ロッペンハイマーの通りは、今日も穏やかだった。


 石畳を転がる車椅子の音は小さく、行き交う人々の足音にすぐに溶けていく。

 それでも――この町は、私にとっては十分すぎるほど賑やかだ。


(……また、来てる)


 便利屋ギルドの前。

 掲示板を眺める人、出入りする人、立ち話をする人。


 少し前まで、ここはただの空き店舗だったと聞いた。

 それが今では、町の人が「困ったときに思い出す場所」になっている。


 私は、車椅子を止めた。


「……こんにちは」


 声をかけると、カウンターの向こうで帳面を抱えていた少女が、ぱっと顔を上げた。


「あ、セシリアさん! こんにちは!」


 メアリーさん。


 この町を――いえ、

 私自身を、もう一度外へ連れ出してくれた人。


「今日は……その……」


 言葉を選んでいると、横でふわりと浮かぶ魚が、何でもないことのように言った。


「受付、手伝ってみる?」


「……え?」


 思わず、言葉を失った。


「難しいことはしないよ。

 聞く、書く、伝える。それだけ」


 メアリーさんが、にこっと笑う。


「私も最初は全然できなかったです!

 一緒にやりましょう!」


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「……はい」


 私は、小さく頷いた。


(ここなら……役に立てるかもしれない)


 それが、セシリア・ワレンシュタインの

 “受付としての一日目”だった。




本編



「今日は“手伝い”だ」


 角刈りの強面――リノエ・ゲーヴォルドが、腕を組んで言った。


「命張る仕事じゃねえ。

 だが、いい加減な気持ちでやるもんでもねえぞ」


 ここは隣町ワーグハウゼン。

 皮革と工芸の町、その外れにある工房だ。


 幽霊屋敷の一件が片付いてから数日。

 工房には、ようやく人の気配が戻りつつあったが――

 かつての活気には、まだ程遠い。


 作業場の中には、革、金具、布、木枠。

 道具は揃っている。

 だが、明らかに“手が足りていない現場”だった。


「……忙しそうですね」


 メアリーが、作業台を見渡しながら言う。


「注文はある。

 だが人がいねえ。

 幽霊騒ぎで、怖がって辞めた連中が戻ってきやしねえ」


 その横で、サジとカエナが興味津々に覗き込む。


「へぇ……」


「思ったより工程多いな」


「勝手に触るでない」


 アンリの一声で、二人はぴたりと動きを止めた。


 アルスは、静かに作業台を観察している。


「……縫製と金具留め。

 力より、正確さと集中力が要りますね」


「お、坊主。

 分かってるじゃねえか」


 リノエが、少しだけ口元を緩めた。


 そして――視線は、メアリーへ向く。


「嬢ちゃん」


「は、はい!」


「前に見学した時の手つき、覚えてる。

 ……そろそろ、やってみるか?」


 差し出されたのは、小さな革片と道具。


 メアリーは一瞬、息を飲み――

 それから、静かに頷いた。


「……やってみたいです」


 針を通し、糸を引く。

 最初はぎこちない。

 指先に、緊張が走る。


 だが、逃げなかった。


 教わり、直し、また縫う。


 数分後。


「……おい」


 リノエが、無言で手元を覗き込む。


「おー……」


 次の瞬間、声が上がった。


「おぉ、やっぱりうまいじゃねえか!!」


「えっ!?」


「全然戦力になるぞ、これ!」


 工房にいた弟子たち――ターニャとマーサが顔を見合わせる。


「ほんと……」


「初めてとは思えないよ」


 メアリーは、自分の手を見つめた。


「……私……できます?」


「できるとも!」


 リノエは、豪快に笑った。


「正式に頼む。

 手伝いの依頼だ!」






エピローグ


噂は、仕事を連れてくる


 その日の夕方。


「聞いたか?

 あの便利屋ギルド、工房の手伝いもできるらしいぞ」


「え、マジで?」


「リノエのオッちゃんが言ってた」


 ――噂は、あっという間に町を巡った。


 そして翌日。


 便利屋ギルドの扉を叩く人影。


「すみません……」


 ポーション屋の主人だった。


「工房で評判になってましてね。

 調合補助と、瓶詰めの手伝いをお願いしたくて」


 カウンターで、メアリーとセシリア、そしてお魚先生が顔を見合わせる。


 メアリーが、にっこり笑った。


「わかりました。

 受けましょう!」


 便利屋ギルドは、また一つ――

 町の中に、確かな根を張った。


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